第41話 そして街には雪が降りはじめた
ミーシャたちは、戦いが終わって勝鬨を上げるソニアたちのもとへ戻った。
損害は少なくない。だが、勝利を得ることができたのだ。
フリンジ辺境伯家や、それまで宮廷貴族化されていた他の貴族は、今や、フィルマール子爵家の指揮下にある。
当主であったゲオルグの身柄をどうするかが議論されたが、結局、ソニアは彼を追放することにした。
「ソニア! いつか必ず、私を自由の身にしたことを後悔させてやる!」
彼は最後まで高慢で、減らず口を叩いていたが、ソニアは彼を、最後の最後は憎み切れなかった。
ゲオルグが追放されたことで、正統なフリンジ辺境伯家の血脈を持つものはソニア一人になった。
本人は固辞したが、周囲の強い要請もあり、結局彼女は辺境伯の地位を相続した。
このときから、彼女の夫の座をめぐる王族・貴族たちの恋の駆け引きが始めるのだが、それを長々と書くことは蛇足だろう。
◇
蛇足と言えば、ソニアやミーシャたちのあずかり知らぬところで、もう一つ、事件があった。
追放されたゲオルグの消息である。
彼はその後、農家で徴発した馬に乗って、辺境伯領と他国の境まで旅をしていた。
途中、自身が身につけていた装飾具を換金して路銀にしていたので、以前に比べると格好はみすぼらしい。
途中、彼は空腹を覚えた。すると、街道沿いに休憩小屋がある。
そこでは冷たい水と肉まんじゅうを商っているようだった。
「おい! 水と食料をよこせ!」
彼は小屋を覗き込むなり、中で一人店番をしている娘へ横柄に言う。
娘は、そばかすが少しあるが、田舎にはまれにみる美人だった。
周囲に人もいないことだ、彼の好色の虫が騒ぐ。
「娘、なかなか良い器量をしているな……よし、この私が、抱いてやろう」
そういうと、娘を手籠めにしようと襲い掛かる。
娘は抗おうともせず、まるでなすがままに押し倒された。
だが、
「名のあるお方とお見受けします。どなた様でしょうか?」娘の涼やかな声に、ゲオルグは得意満面に
「フリンジ辺境伯にしてフィルマール子爵のゲオルグである。お前、具合が良ければ、私の側女にしてやろう」
そういって、ズボンを脱ぎ棄てようとしたとき、
「?!」
ゲオルグは、下腹に何か熱い感覚を感じた。
おかしいと思い、覗き込むと、太いナイフが突き立っている。
「ひえっ!」
ゲオルグは悲鳴を上げてひっくり返った。
「ふん……姫様はアンタに情をかけたけど……アンタみたいなクズは、ここで死ぬのがお似合いさね」
そばかすの娘、ゲルダはそう言い捨てると、ゲオルグに慈悲の一撃をくれてやった。
◇ ◇ ◇
晩秋が過ぎ、シャロンの街に、雪が降りはじめた。
あれから、みんなのもとへ戻って勝鬨を上げた後、ミーシャは《力》を使ったことで、またも意識不明になった。
今度は、2週間近く眠ったままだった。
エリサがかいがいしく世話をして、目を覚ましたころには、もう冬になっていた。
「冬は旅ができませんねえ」
エリサは、頬杖をついて、窓の外にしんしんと降る雪を眺めている。
「ごめんね、また寝ちゃってて……魔導書探し、はかどんないね」
暖炉に薪をくべながら、ミーシャはエリサに詫びを入れた。
2人は、シャロンの街に小さな家を借りていた。どうせ冬の間は旅はできない。
それだったら、シャロンの街にとどまって、ソニアやモディラの手伝いをした方がいいだろう。
「いいんです。わたし、旅ばっかりよりも、こうしてミーシャさんと一緒に暮らしてみたかったんです。一緒に朝起きて、ご飯を食べて、洗濯して……それで、一緒のベッドで眠って。そういう日々って、幸せだと思いませんか?」
エリサの言葉に、ミーシャは「うーん」と生返事をした。
「アタシは、動き回っている方が好きだから……」
すると、エリサはわざとらしく、「むぅ」とむくれるそぶりを見せた。
「あはは、ごめんごめん。でも、魔導書集めが旅の目的だろ?」
すると、エリサは一度軽く目を閉じた。
「……旅の目的は魔導書を集めることです。でも、それはわたしの過去の記憶を集めるため。今はそれと同じくらい、ミーシャさんと未来の記憶を作ることも大切だなって思ってます」
エリサは、ミーシャがドキッとするぐらい、まっすぐに見つめてきた。桃色の澄んだ瞳に、吸い込まれる。
「わたし、ミーシャさんと家族になりたい」
「…………っ」
エリサの言葉を聞いミーシャは、暖炉に薪をくべるとそっとエリサのそばに立った。
「そうだね。アタシもエリサと家族になりたい。エリサと出会う前は、一人でいることが当たり前ってずっと思ってた。だけど、今はそうじゃない」
そして、ミーシャはすっとエリサの顎に指を添える。
「……でもまずは、ちゃんとした恋人からがいいかな」
「ミーシャさん……」
エリサが、潤んだ瞳をミーシャに向ける。
ミーシャは、くい、とエリサの顎を持ち上げる。2人の距離が近づく……。
あと、ほんの少しの距離。そこに、ドアを「バン!」と開けて、だれかが飛び込んできた。
「大変です! ミーシャさん! エリサさ……へっ?!」
ぎろり、とミーシャが飛び込んできた誰か――モディラをにらみつけた。
「あ、あ、あの……ボク……! ひ、ひいー! お助けぇー――!」
雪の降るシャロンの街に、モディラの悲鳴が響き渡った。
第2期 おしまい
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