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記憶の魔導書を巡る百合冒険譚。~森で拾った白魔女は、世界の鍵?! ちょっと待って。アタシは堅実ライフを送りたいだけなのに!  作者: 難波霞月
第2期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合合戦譚。

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第41話 そして街には雪が降りはじめた

 ミーシャたちは、戦いが終わって勝鬨を上げるソニアたちのもとへ戻った。

 損害は少なくない。だが、勝利を得ることができたのだ。


 フリンジ辺境伯家や、それまで宮廷貴族化されていた他の貴族は、今や、フィルマール子爵家の指揮下にある。

 当主であったゲオルグの身柄をどうするかが議論されたが、結局、ソニアは彼を追放することにした。


「ソニア! いつか必ず、私を自由の身にしたことを後悔させてやる!」


 彼は最後まで高慢で、減らず口を叩いていたが、ソニアは彼を、最後の最後は憎み切れなかった。


 ゲオルグが追放されたことで、正統なフリンジ辺境伯家の血脈を持つものはソニア一人になった。

 本人は固辞したが、周囲の強い要請もあり、結局彼女は辺境伯の地位を相続した。

 このときから、彼女の夫の座をめぐる王族・貴族たちの恋の駆け引きが始めるのだが、それを長々と書くことは蛇足だろう。


 ◇

 

 蛇足と言えば、ソニアやミーシャたちのあずかり知らぬところで、もう一つ、事件があった。

 追放されたゲオルグの消息である。


 彼はその後、農家で徴発した馬に乗って、辺境伯領と他国の境まで旅をしていた。

 途中、自身が身につけていた装飾具を換金して路銀にしていたので、以前に比べると格好はみすぼらしい。

 途中、彼は空腹を覚えた。すると、街道沿いに休憩小屋がある。

 そこでは冷たい水と肉まんじゅうを商っているようだった。


「おい! 水と食料をよこせ!」


 彼は小屋を覗き込むなり、中で一人店番をしている娘へ横柄に言う。


 娘は、そばかすが少しあるが、田舎にはまれにみる美人だった。

 周囲に人もいないことだ、彼の好色の虫が騒ぐ。


「娘、なかなか良い器量をしているな……よし、この私が、抱いてやろう」


 そういうと、娘を手籠めにしようと襲い掛かる。

 娘は抗おうともせず、まるでなすがままに押し倒された。

 だが、


「名のあるお方とお見受けします。どなた様でしょうか?」娘の涼やかな声に、ゲオルグは得意満面に


「フリンジ辺境伯にしてフィルマール子爵のゲオルグである。お前、具合が良ければ、私の側女にしてやろう」


 そういって、ズボンを脱ぎ棄てようとしたとき、


「?!」


 ゲオルグは、下腹に何か熱い感覚を感じた。

 おかしいと思い、覗き込むと、太いナイフが突き立っている。


「ひえっ!」


 ゲオルグは悲鳴を上げてひっくり返った。


「ふん……姫様はアンタに情をかけたけど……アンタみたいなクズは、ここで死ぬのがお似合いさね」


 そばかすの娘、ゲルダはそう言い捨てると、ゲオルグに慈悲の一撃をくれてやった。


 

 ◇ ◇ ◇


 

 晩秋が過ぎ、シャロンの街に、雪が降りはじめた。

 あれから、みんなのもとへ戻って勝鬨を上げた後、ミーシャは《力》を使ったことで、またも意識不明になった。

 今度は、2週間近く眠ったままだった。

 エリサがかいがいしく世話をして、目を覚ましたころには、もう冬になっていた。


「冬は旅ができませんねえ」


 エリサは、頬杖をついて、窓の外にしんしんと降る雪を眺めている。


「ごめんね、また寝ちゃってて……魔導書探し、はかどんないね」


 暖炉に薪をくべながら、ミーシャはエリサに詫びを入れた。

 

 2人は、シャロンの街に小さな家を借りていた。どうせ冬の間は旅はできない。

 それだったら、シャロンの街にとどまって、ソニアやモディラの手伝いをした方がいいだろう。

 

「いいんです。わたし、旅ばっかりよりも、こうしてミーシャさんと一緒に暮らしてみたかったんです。一緒に朝起きて、ご飯を食べて、洗濯して……それで、一緒のベッドで眠って。そういう日々って、幸せだと思いませんか?」


 エリサの言葉に、ミーシャは「うーん」と生返事をした。


「アタシは、動き回っている方が好きだから……」


 すると、エリサはわざとらしく、「むぅ」とむくれるそぶりを見せた。


「あはは、ごめんごめん。でも、魔導書集めが旅の目的だろ?」


 すると、エリサは一度軽く目を閉じた。


「……旅の目的は魔導書を集めることです。でも、それはわたしの過去の記憶を集めるため。今はそれと同じくらい、ミーシャさんと未来の記憶を作ることも大切だなって思ってます」


 エリサは、ミーシャがドキッとするぐらい、まっすぐに見つめてきた。桃色の澄んだ瞳に、吸い込まれる。


「わたし、ミーシャさんと家族になりたい」


「…………っ」


 エリサの言葉を聞いミーシャは、暖炉に薪をくべるとそっとエリサのそばに立った。


「そうだね。アタシもエリサと家族になりたい。エリサと出会う前は、一人でいることが当たり前ってずっと思ってた。だけど、今はそうじゃない」

 

 そして、ミーシャはすっとエリサの顎に指を添える。


「……でもまずは、ちゃんとした恋人からがいいかな」


「ミーシャさん……」


 エリサが、潤んだ瞳をミーシャに向ける。


 ミーシャは、くい、とエリサの顎を持ち上げる。2人の距離が近づく……。


 あと、ほんの少しの距離。そこに、ドアを「バン!」と開けて、だれかが飛び込んできた。


「大変です! ミーシャさん! エリサさ……へっ?!」

 

 ぎろり、とミーシャが飛び込んできた誰か――モディラをにらみつけた。


「あ、あ、あの……ボク……! ひ、ひいー! お助けぇー――!」


 雪の降るシャロンの街に、モディラの悲鳴が響き渡った。


 第2期 おしまい


挿絵(By みてみん)

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