第39話 狂える司祭との戦い(下)
ボス戦です!
BGMをどうぞ!
https://www.youtube.com/watch?v=5UNfXApv51M
ヴィンセントを追い詰めたのは、領主の館近くにあった、スコラ修道会の僧院だった。
だれもいない礼拝堂。
遠くに戦いの喧騒が聞こえてくる。
深いウォールナットの床を、コツコツとヴィンセントが歩く。
それを追って、ミーシャたち3人が、礼拝堂の入口に立つ。
「なぁ。アンタが持ってるその本、アタシたちに渡してもらえない?」
ミーシャは、背を向けて直立したままのヴィンセントに、そう話しかけた。
「……正直言って、身勝手なお願いだとは思うよ。でも、アンタがここでこれまでしてきたことに比べればマシだと思うけど」
「お願いです!わたしたちには、その魔導書が必要なんです!」
エリサの言葉に、ヴィンセントはちらり、と振り向いた。
「必要? 一体貴様らが、なぜ、これを必要としている?」
「それは、わた――」
「こっちには、言えない事情があるんだよ」
「金か?」
「違う」
「ならば、ブノア修道会も、これを追っているのか?」
「ブノア修道会は関係ない」
「ではなぜだ?」
「それは――アタシたちの、未来がかかってるから」
ミーシャがそういうと、ヴィンセントはくっくっと笑う。
「未来か。ふはは、なるほどな――我々も、この魔導書には、未来を賭けている。それこそ、人類すべての、だ」
そういうと、ヴィンセントは、懐から魔導書の断片を取り出した。
それを、祭壇の上に置く。
「スコラ修道会は、この世界を、正し、進化させることを使命としている。秩序と進歩。それが――神の御意思だ!」
そういって、ヴィンセントは、隠し持っていた小瓶を手にすると、中に入っていた液体を浴びるように飲んだ。
何かのポーションだろうか。ミーシャたちは警戒する。
「お前らも、魔導書の断片を持っているのだろう?出せとは言わん。死体になれば、そこから探すからな」
ヴィンセントは、胸を張って体を斜にして、剣を前に突き出すような、優美なしぐさで構えを取った。
その目に、恐るべき光が宿っていた。心なしか、体も一回り大きくなったように見える。
「霊薬の力を借りた私は、常人の力を超えた。3人がかりでも構わん。来い!」
ヴィンセントが叫ぶ。ミーシャはそれに応じ、小剣を構えると、雄たけびを上げながら突進した。
剣と剣が激しくぶつかった。下から切り上げるミーシャと、上から押さえ潰そうとするヴィンセント。
ギリギリと刃がかみ合う音がするが、やがて、じわじわとミーシャが押し込まれ始める。
ヴィンセントは「むん!」とうなると、ミーシャの腹を蹴った。
ミーシャは一撃をもろに食らうのを避けるため、大きくバックステップを踏む。
「ゆくぞ!」
ヴィンセントは、鋭い突きを2手、3手と繰り出した。重い剣なのに、まるで刺突剣のような素早さだ。
ミーシャは体を左右に振って、刺突をかわす。
「この!」
突如、モディラが手にした椅子で、ヴィンセントのすねを払った。
「甘いわ!」
ヴィンセントは逆に椅子ごとモディラを蹴り飛ばす。
モディラは壁に打ち付けられ、「ぎゅう」とうなって気を失った。
エリサは、モディラを助けようとそばに駆け寄る。
「隙あり!」
次はミーシャの刺突が、ヴィンセントの顔めがけて飛んだ。
ヴィンセントは、ごくわずかな挙動で刺突をかわすと、剣の束でミーシャの頬を殴りつける。
たたらを踏んだミーシャは、口の中が切れたのか、ぺっと血を吐きだした。
そこを、再びヴィンセントの拳が襲う。
顎のあたりを強打され、ミーシャは一瞬意識を失い、がくり、とその場にひざまずいた。
ヴィンセントはその隙を突き、両手持ちで切り下ろすとどめの一撃を加えようとする。
「ミーシャさん!」
――エリサが叫んだ。
エリサが叫ぶと、ミーシャの目が赤く染まった。
《力》だ。ミーシャの常人離れした身体能力が、理性の制限を超えて働き始める。
ミーシャは、今まさに振り下ろされようとする剣よりも早く、諸手突きをヴィンセントにくらわせる。
「ぬおっ!」
ヴィンセントは、その諸手突きだけで、遠く離れた祭壇まで吹き飛ばされた。
だが、無様に転倒することはなく、かろうじて着地をし、ぎろり、とミーシャをにらんだ。
「貴様……その力、どこに隠していた!」
ミーシャは答えない。ミーシャのオレンジ色の髪が、ざわ、と意思があるかのように揺らめいた。
直後、ノーモーションで、ミーシャはヴィンセントに肉薄して、小剣で切り付ける。
あまりの素早さにヴィンセントは反応できなかった。
かろうじて一歩後ろに下がるが、肩のあたりを浅く斬られる。
「これは……『獣』の力かっ?!」
ヴィンセントは戦慄した。聖典の中にある『獣』。それは、人が人を超えた力を持つ状態。
スコラ修道会が開発した霊薬は、その『獣』に、ごくわずか近づくことができるポーションだ。
だが、目の前にいる『鬼殺し』は、霊薬の力を借りずに顕現させている!!
「面白い……! 私のすべてを、貴様にぶつける!」
ヴィンセントは、にやりと笑って段平剣を構えた。
ミーシャは、再び恐るべき速度でヴィンセントに近づくと、あり得ない軌道から小剣を振るってくる。
ヴィンセントは、それをよくしのいだ。しのいだが、徐々に浅い傷がいくつも全身に浮いてきた。
「……やはり貴様は、『鬼殺し』だけのことはある!」
そう吐き捨てると、今度はヴィンセントが死力を尽くした攻撃を仕掛ける。
ミーシャは、体の移動だけで、ヴィンセントの攻撃を避ける。
ヴィンセント必殺の突きも、ミーシャは大きく宙を飛び、天井の梁を足場にしてかわす。
そして逆に空中から飛び込むような刺突を返した。
「ミーシャさん!」
エリサは、ミーシャの変わりように恐怖の声を上げた。
まるで、人が変わった、否、人ではなくなったような、ミーシャの姿。
「……ミーシャさん! 戻ってきて!」
エリサが悲痛な叫びを放つ。
一瞬、ミーシャの顔が、エリサを見た。
その極めて小さな隙を、見逃すヴィンセントではなかった。
どん。
大きく踏み込んだ足音が、床を鳴らす。
体当たりにほぼ近い、ヴィンセントの捨て身の突き。
ヴィンセントは、間違いようのない手ごたえを感じ、にやりと笑った。
段平剣は、ミーシャの腹部にほぼ半ばまで突き刺さり、刃先が背中まで抜け出ていたのだ――。
「ミイシャさああああん!!」
エリサの悲鳴が、礼拝堂の中に響いた。
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