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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第2期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合合戦譚。

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第38話 狂える司祭との戦い(上)

 その音が鳴った時、ミーシャは、いくつもの爆竹が炸裂したように感じた。

 朝もやがかかり、向こうで何が起きたのかはわからない。

 ただ、とんでもないことが起きていることだけはわかる。


 やがてもやが晴れると、


「――っ!!」


 無数の人々が、血を流して倒れ伏していた。老若男女、身分を問わず、等しく『死』が降り注いでいる。


「な、なんだ!?」


 ミーシャが叫んで前に飛び出す。エリサもそれに続いた。周囲の兵士は、ソニアをかばうように囲む。


「このにおい……火薬か!」


 激しい血のにおいに交じって、鼻をつく独特のにおいに、ミーシャは気づいた。


 すると、門の奥から、何かを手にした黒い影が、のろのろと姿を現す。


「貴様らが……貴様らが、私が十数年かけて築き上げた作品を破壊したのだ……」


 長身の、黒いローブを身にまとった男。その男の瘴気と狂気にあてられ、ミーシャは思わず一歩後ずさる。


「鬼殺しのミーシャ! フィルマール家のソニア! そして、ブノア修道会の異端どもめ!」


 「あれは、スコラ修道会の……ヴィンセント司教!」


 騒ぎで起きだしていたモディラが、あわあわしながら2人に言う。


「貴様らは、世界の進化を妨げる悪魔だ! このアズラエルの鉄槌で……この虫けらどもと同じように、殲滅してくれる!」


 ヴィンセントは、無数の筒が付いた筒を構えた。

 クロスボウの一種だろうか。ミーシャがそう思うや否や、ヴィンセントは引き金を引く。


 バッ、バババババババッ!と爆竹が鳴るような音。

 ミーシャは、エリサとモディラを抱きかかえ、ぱっと地面に飛び伏せる。

 地面に無数の穴が開き、ソニアを守るために備えられた鉄の盾から火花が飛んだ。

 何人かの兵士が射られて、血を流して倒れる。


「なんだこれ……鉄の弾か?」


「ふ、ふふふふっ……くだらん玩具かと思っていたが、この試作品、なかなかよいものよ……」


 狂気じみた笑みを浮かべたヴィンセントは、再び武器を構えた。そして、引き金を引く。

 ――しかし、3射目はなかった。何度引いても、弾が出ない。


「くそっ! しょせんは試作品か! 壊れよって!」


 ヴィンセントは、アズラエルの鉄槌と呼んだ筒を投げ捨てた。そして、腰の段平剣を抜く。


「やはり、最後は己の腕よ! ……全員、かかれ! この反乱者どもを始末しろ!」


 スコラ修道院の僧兵と、辺境伯家にいまだ忠誠を誓う騎士・兵士たちに号令をかけた。

 

 

 ――戦いが始まった。


 戦いは、はじめから混戦だった。

 双方の兵士、騎士たちが入り乱れ、己の武器を振るう。


 モディラは必死に逃げまどいながら、‡聖なる鉄槌‡を放って、衝撃波で敵を吹き飛ばす。

 エリサも【念動】を使って、重い鎧を身につけた騎士を空中に持ち上げ、放り投げた。

 ミーシャは、ヴィンセントに狙われつつも、スコラ修道院の暗殺部隊による変則的な攻撃をさばき続ける。


「姫様を、安全なところへ!」


 ギルマスと肉まんじゅうの兄弟が、武器を構えつつ、ソニアを守る。

 エリサは3人のそばへ駆け寄ると、【静寂】の魔法をかけ、静かに後方へ退避するよう伝えた。


「エリサ、危ない!」


 3人を見送ったエリサは、ミーシャの叫び声を聞いた。

 振り返ると、ミーシャが背を向けて、自分の前に立ちはだかる。

 

 とん、と妙な音。ミーシャの肩口に、矢が一本、突き立った。


「っ!!」


 エリサは、その矢を見て顔面蒼白になった。

 ミーシャは一瞬、顔を苦痛にしかめたが、すぐに矢を抜き取る。

 戦場で使用される矢は、返しがついていない。その分、先が鋭いひし形の矢じりがついている。

 突き立った矢を抜くときに、ぴゅっと血がほとばしった。


「ミーシャさん、治療を!」


 エリサがすぐに【治癒】を行うが、「血止めさえできれば、今は大丈夫」とミーシャが言う。

 エリサは一瞬迷ったが、最低限の治療でとどめた。

 ミーシャは再び、小剣を振るって戦場に戻る。


 「小娘ぇっ! 勝負だ!」


 手負いのミーシャに、ヴィンセントが襲い掛かってきた。すでに多くの返り血を浴び、赤黒い鬼のような姿だ。


 ヴィンセントは重い段平剣を流れるような動作で振り回す。切り下げ、切り上げ、そして、左右の薙ぎ。

 ミーシャは付け入るスキが生まれない。じわじわと後退して、ひたすら捌くので精いっぱいだ。


「何だ貴様! 鬼殺しの二つ名は見せかけか!」


 ヴィンセントは、剣を振り下ろしつつ、押し出すような蹴りをミーシャにくらわす。


 軽いミーシャはその蹴りでふっとんで、ごろごろと地面を転がるが、すぐに跳ね起きた。

 跳ね起きざまに、石礫をヴィンセントに飛ばす。


「猪口才な」


 ヴィンセントは、石礫をはじき落すと、地面を滑るような歩法で大きく間合いを詰め、裂ぱくの突きを放つ。

 ミーシャはそれを何とか受けきったが、ヴィンセントは、剣をくるくると回し、ミーシャの小剣を跳ね上げた。


「あっ!」とミーシャが叫んだが、小剣は彼女の手を離れて、宙を舞う。


「死ねい!」ヴィンセントは、素手のミーシャにとどめを刺そうと、大振りに剣を振り下ろした。


 「‡聖なる鉄槌‡っ!」


 だが、ヴィンセントは剣を振り上げたまま、横から襲い掛かった衝撃波に跳ね飛ばされた。


「ミーシャさん!大丈夫ですか?!」


「モディラ! 助かったよ!」


 ミーシャの言葉にモディラは「えへへ」と笑うが、すぐに顔を引き締める。


 モディラのそばには、派手な服を着た、ドワーフの戦士が付き従っていた。


「……お嬢! あまり無茶はせんでつかぁさい!」「ワシら、お嬢の身になにかあったら、おやっさんに顔向けできやせん!」


 お嬢と呼ばれたモディラは、「ヤスさん、テツさん。ボク、大丈夫だから。それよりも、みんなの加勢に回ってあげて!」

 と、2人に言う。


 そしてモディラは、ヴィンセントがいたところに、何か油紙に包まれた束が落ちているのに気が付いた。


「あれ?……これは?」


「……そ・れ・に・さ・わ・る・な、亜人めえっ!!!」


 モディラがそれに手を伸ばそうとすると、転倒から起き上がったヴィンセントが、モディラに切りつけつつ鬼気迫る叫びをあげる。


「お嬢!」ヤスと呼ばれたドワーフがモディラの手を引いた。モディラと体勢を入れ替える代わりに、ヤスはヴィンセントの段平剣の餌食になる。「ヤスさん!」モディラが叫ぶと、袈裟懸けに切られたヤスは、


「……これしきは、切られたうちにゃあ、入らぁせんですわ!」


 といって、手にしたメイスでヴィンセントの頭部を横殴りにする。


 ヴィンセントはメイスをかわしつつ、油紙を拾い上げて胸にしまう。

 その瞬間、ミーシャにはそれが表紙のついた紙束に見えた。何か文字が書いてあった。

 だが、悲しいかなミーシャは文字がわからない。

 く、く、く、とミーシャはうめいた後、


「――クロウテルの魔導書だな!」


 ヴィンセントを指さして、ミーシャはつい、思ったことを口走った。

 すると、ヴィンセントの顔色がさっと変わる。


「く、クロウテルの魔導書ですか?!」


 近くにいたエリサが、ミーシャの声に反応した。


「コイツ! 持ってた! 表紙のヤツ!」


 ミーシャがヴィンセントを指さして叫ぶと、ヴィンセントは「ちいっ!」と舌打ちして、町の方に向かって逃げ出した。


 「待てっ!!」


 ミーシャは小剣を拾いつつ後を追う。エリサ、それにモディラもつられて、ヴィンセントの後を追いだした。



月・水・金の20時半更新です!


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では、また次回もよろしくお願いします!

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