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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第2期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合合戦譚。

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第36話 開門命令

「不義の領主ゲオルグは、すでに我らの捕虜となった! 辺境伯家は、速やかに降伏し、開門せよ!」


 シャロンの街は、門を固く閉じて守りを固めていた。

 市壁の上には、何名もの衛兵がこちらの様子をうかがっている。

 ミーシャは、ソニアの側に立って、事の成り行きを見守っていた。

 

 「貴様ら! 私を助けろ! 早く門を開け! 戦って救いだせ!」


 荷馬車に転がされたままでも、ゲオルグの心は折れていなかった。

 この状況下でも、まだ自分が助かって当然、というつもりでいるようだ。

 相変わらずよく通る美声で、衛兵へ矛盾に満ちた命令をする。


 衛兵たちは動揺していた。

 門の前には200人近くの雑多な連中が集結している。

 なかには、市内でも見知った顔も含まれていたし、旅芸人の一座も一緒だ。

 衛兵たちはまごまごしている。しかたがないので、ソニアが荷馬車の上に立って声を張った。


「わたしは、ブノア修道会シャロン僧院を統括していた司祭のソニアです! 今は、正統な相続権を得た、フィルマール子爵となっています!」


 おいおい、みんなから慕われている司祭様が出てきたぞ。

 しかも、つい先日まで、ゲオルグのものであったはずの子爵位を名乗っている。衛兵たちはさらに戸惑った。


「フリンジ辺境伯の圧政を倒すため、わたしたちは正義の兵を起こしました! 不義の領主ゲオルグの軍はすでに倒されました! これ以上の抵抗は無意味です! これまでゲオルグの圧政に耐えてきた者、父祖伝来の土地を奪われ屈辱を受けた者、家族を奸計により失った者、今こそ、立ち上がる時です!」


 ソニアは、か細い体を振り絞って、声を上げ続けた。

 衛兵たちはざわついた。


「あの縛られてる領主様、やっぱり本物なのか?」


「だって、昨日ボロボロになった奴らが帰ってきたじゃないか」


「オレたちじゃあ決めかねるぞ、どうする?」


 と、混乱している。


 ソニアは、さらに言葉を続けようとしたが、「危ないっ!」とミーシャが抱きすくめたことによって、中断された。

 市壁の狭間がきらりと光る。ひゅん、という音がして、彼女とゲオルグのちょうど中間の辺りに、矢が1本、鋭く突き立った。


「こ、殺す気かっ! この不忠者! 裏切り者が、市内にいるぞ!」


 ゲオルグが転がったまま、身をくねらせて叫ぶ。

 ソニアは血の気が引きながらも、それでもまだ毅然とした態度を崩さなかった。


「姫様、一度お下がりください!」


 兵士たちが出てきて、ソニアをかばう。

 ソニアはミーシャに連れられて、荷馬車を降り、後方へと下がっていった。


 ◇


 ソニアに矢を射かけたのは、ヴィンセントだった。

 昨日、さんざんに打ち破られた兵士たちが戻ってきたこと、騎士が一人も戻らなかったことを見て、彼は愕然とした。

 数日前、旧フィルマール子爵家の拠点をゲオルグが征伐することに同意したのが、そもそもの失敗だった。

 相手の戦力はほんの2,30人のはずだった。

 それに、子爵家随一の武将ともいえるセンイを討ち取った後ならば、こちらは100人も兵士がいれば人が多すぎる、という陣容だった。


(それを、あの無能領主めは――!)


 なんと、むざむざ自ら捕虜となって戻ってきたではないか。

 衛兵から、胡乱な集団が市の外にいると聞いて、直ちに現場に向かった彼は、その光景を見て歯噛みした。

 

 集団の中心にいるのは、ブノア修道会の司祭にして、フィルマール子爵家の唯一の血統であるソニアだった。

 まったくちぐはぐな集団をよく見れば、封土を没収した騎士とその郎党もいる。明らかな裏切りだ。


 そしてソニアは、このフリンジ辺境伯家にとって、もっとも脅威となる呼びかけをした。

 宮廷貴族たちへ提示した、旧領の回復である。

 味方になれば、父祖伝来の土地を回復する。こんなにわかりやすいエサはない。


(私が十数年かけて開発した『中央集権統治システム』を、あんな小娘に破壊させてなるものか!)


 日ごろ冷静な彼は、このとき、珍しく我を忘れて怒り狂った。

 ソニアの演説が続く中、衛兵が手にしていたクロスボウをひったくると、ソニアめがけて矢を放ったのだ。


 整備不良だったのか、頭に血が上っていたためなのかはわからないが、ともかく矢は外れた。

 運悪く、ゲオルグを狙ったと誤解されても仕方がない位置に矢が付き立った。

 ゲオルグが余計なことを言うのでは、とヴィンセントは思ったが、案の定、彼は余計なことを言った。


 ヴィンセントはクロスボウを床にたたきつけると、


「防備を固めろ! 鼠一匹通すな!」と吐き捨てて、領主の居館に戻っていった。


(今一番恐るべきは、内乱だ。外の連中は門さえ閉じていればどうにかなる。だが、内部の連中が暴発するのは防がねば……)


 道々歩きながら考える。彼は、常にそばに付き従う側近に、矢継ぎ早に指示を出した。


「宮廷貴族どもは居館に集めろ。どこかの部屋に閉じ込めて、見張りをたてておけ」


「貧民街の連中も何をするかわからん。衛兵を2部隊ほど警備に回せ」


「ゲオルグ? 知るか。放っておけ。……いや、何か奪還する方法があれば形勢は逆転するな。異端懲罰使(あんさつぶたい)を派遣し奪還する手はずを整えろ」

 

 どうしてこうなった。何が原因だ。考えてもわからない。こんな不条理なことがあってたまるか。

 指示を出し、思考を深めても、彼の脳はいつまでも冷えることはなかった。



 

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