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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第2期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合合戦譚。

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第35話 姫のパレード

 ゲオルグの本陣は、すでに無人となっていた。

 主のいなくなった椅子が静かにたたずみ、フリンジ辺境伯家の紋章を染め抜いた旗がむなしく風になびいている。

 

 兵士たちは、それぞれにほうほうの体で逃げ始めていた。

 元ギルマスの「追撃はせんから、故郷に帰って畑でも耕せ!」という怒声に、全員がびくっとしながら、腹や尻を抑えつつ、よろよろと逃げ出す。

 

 騎士は数名討ち取り、何名かは捕虜となった。ソニアがみると、ゲオルグに領土を奪われたものばかり。

 ソニアは騎士たち一人ひとりと話をして、旧領の回復を提示すると、彼らはたちまちのうちにゲオルグから寝返った。

 そして、格別の捕虜を1名、肉まんじゅう屋のおじさんがとらえていた。


「貴様ら! この私を誰だと思っているのだ! 無礼だぞ!!」


「あー。大将自らが、捕虜になったんだねー」


 ミーシャがひときわうるさい捕虜をみると、それはゲオルグだった。

 美しい金髪も、男前の顔も、金ぴかの鎧も泥にまみれ、情けなさを際立たせている。


「おじさんたち、この捕虜、どうするの?」


「なます切りにして狼の餌にしてやりたいのはやまやまだけど、姫様のご判断を仰がないとなぁ」


「まあ。そんなことしたら、狼さんがおなか壊しそう」


「ぐぬぬぬぬ――!」


 すると、ソニアがやってきて、ゲオルグの方をちら、と見た。


「おお、ソニア! 早く、この縄を解くようお前の従者たちに命じろ! 婚約者だろう! 妻は夫の言うことを聞くものだぞ!」


 地面に転がされたままのゲオルグは、尊大さを隠さずにソニアに命じる。


「どうした? 私の戒めを解き、早くこの無礼者どもをひれ伏せさせよ! 何を黙ってい……ふご!」


 げし。


 ソニアは、無表情でゲオルグの顔面を踏んだ。力は弱いが、何度も何度も、踏みつける。


「こうやって今まで、みんなを踏みつけてきたんでしょう?」ソニアはそういいながら、踏むのをやめない。


「な、なにをずる。私に逆らうのか――」顔に踏まれた跡を残し、鼻血を流しながら、ゲオルグは悲鳴を上げた。


「……うるさい」


 ソニアは、冷たい目をゲオルグに向ける。そして意を決したように、


「……誰がワレの言うことなんか聞くか!! ……ドアホ!!」


 ソニアの大声に一瞬、場にいる全員が固まった。

 直後、その場が爆笑の渦に包まれた。

 ソニアも、何かを吹っ切ったように、でもやっぱり少し恥ずかしいのか、照れ笑いを浮かべていた。


 ◇


 今、この勝ち戦の状態を逃す手はない。

 翌日には、廃僧院の奥に隠していたフィルマール子爵家の旗を掲げ、ソニアたちはシャロンへ向かった。

 幌を払った荷馬車には、ゲオルグが縛られたまま転がされている。

 

 道々、元文官や降伏した騎士たちが先んじて集落を回り、「正統なフリンジ辺境伯家の血族であるソニア・ド・フィルマールが、非道の領主ゲオルグに対して正義の戦を仕掛けた」と触れ回る。

 降伏した騎士の旧領からは、旧主を再び領主にしようと、かつての家臣たちが手に手に武器を持って駆けつけてきた。

 

 途中、旅芸人の一座と行き合い、ソニアの話を聞いて面白がった一座が、楽団として軍旅に加わる。

 アルゴンヌの森を出発したときには40人ほどだったソニア軍。

 それはちぐはぐながらも、シャロンの街を目前にすると、にぎやかで勇ましい音楽とともに、いつのまにか200人を超える大軍勢となっていた。

 

「なんだかパレードみたいで楽しいですね」


 ミーシャと手をつなぎながら歩くエリサは、そういって鼻歌を歌いだした。


「戦ってこういうもんなのか? なんか調子狂うなぁ」


 ミーシャは怠りなくあたりを見回しながら、それでも、エリサの柔らかい手をぎゅっと握る。


 だが、シャロンの街が目前というところで、隊列が一度止まった。


「どうした?」


 ミーシャがゲルダに尋ねると、


「アルゴンヌの森の方から、騎馬の一群が来てるみたい」


 もしや奇襲か、と思い、ミーシャは気を張って、街道の方を見た。

 確かに土煙が上がっている。やがて、こちらに向かって疾駆してくる4、5騎の馬が見えた。

 騎手は、極彩色のものすごく派手な服装をしていて、遠くからでもよく目立っていた。


「敵か?!」


 ミーシャとエリサが最後尾に出て、相手に備える。


 すると、


「おーい! みなさーん! ボクでーす!」


 屈強な騎手の後ろから顔をのぞかせ、こっちに向かって、大きく手を振る小柄な少女。


「モディラ?! 戻ってきたの?!」


 ヴァーダンの僧院に行っていたはずのモディラが、なぜだか急に戻ってきた。

 お目付け役として一緒に行っていたおばさんも、目を白黒しながら、騎手の後ろに乗せられている。


 モディラが戻ってきたことを知って、あわててソニアも駆け付けた。


「モディラ! どうしたんですか?!」


 モディラはソニアの姿を認めると、騎馬をゆっくり歩かせてもらい、やがて、近くに着て下ろしてもらう。


「急ぎの用事を言付かって、戻ってきました! 帰りに父上に相談したら、護衛にうちの従士(わかいしゅう)を連れてけって」


 モディラの言葉を聞いたミーシャがよくみると、騎手はすべてドワーフの戦士たちだった。

 

 モディラは、トコトコと歩いてソニアの前に出ると、


「司祭さま! これを、お渡しするよう、大司教様からお預かりしてきました!」


 背中のリュックから取り出したのは、簡素な木製の筒だった。

 

 だが、ソニアやモディラは、その筒が、ブノア修道会の高位聖職者しか使えないものだと知っている。

 ソニアはその筒を捧げ持つと、その場で封を切って、中に入っていた羊皮紙を取り出した。


 文書を読むソニアの手が、ぶるぶると震えているのがはた目にも分かった。

 皆の注目が、ソニアに集まる。


「……まさか、まさか……白魔女様のご加護だわ……」


「司祭さま? いったい、それは、何なんですか?」


 モディラが不思議そうな顔をして尋ねると、ソニアは震える声で答える。


「……数年かがりでお願いしていた、婚約無効裁定書……!」


「え! じゃあ、婚約はなかったことになったんですか!」


 モディラが少しわざとらしく出した大声で、場にいる全員が、何が起こったのかを知った。

 ゲオルグとソニアの婚約が無効になれば、フィルマール子爵家の相続権は、ソニアの手に戻る。

 

 婚約の無効は、当事者同士か、教会の裁定を仰がなければ行えない。

 その教会が、婚約無効を裁定したということは、絶対的な権威による裏付けがなされたということになる。


 ソニアの軍勢は、この知らせに士気を高めて、いよいよシャロンの街へとたどり着いた。

 

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