第30話 合流
「うあー……んー?」
ミーシャは、何やら外がごとごとと騒がしくなったので目を覚ました。
寝不足気味のねぼけ眼で閉じた鎧戸を開けると、2階の窓から外を見た。
夜が白々と明け始めてきた頃で、外にはかがり火がたかれている。
彼女がゲルダに連れられて身を潜めている廃僧院の前庭に、一台の馬車が止まっていた。
「馬車?」
少しずつ頭が起きてきたミーシャは、外にいる人々がざわついた感じになっているのに気が付いた。
馬車の中から、人が下りてくる。
「あれは、ソニアさん。それと、モディラ……あ!」
3人目が下りたところで、ミーシャは冷水をぶっかけられたかのように目が覚めた。
ミーシャは窓から大きく身を乗り出し、
「エリサ!」
と声をかけた。
すると馬車から降りてきたばかりのエリサが、自分のいる方向を見上げて、大きく目を見開く。
「……ミーシャさん!」
ミーシャは、窓から飛び出し、壁のでっぱりや柱を足場にして、とんとん、と下に降りる。
そしてエリサのそばに行くと、「エ……「ミーシャさん!」声をかける間もなく、エリサが胸に飛び込んできた。
なんだか焦げ臭いにおいがするが、抱きしめたエリサの感触は、やっぱりやわらかい。
「そばにいられなくてごめん。いっぱい怖い思い、したんだよね?」
すすとほこりにまみれたエリサの頭をなでながら、ミーシャはエリサにささやく。
(エリサが無事でよかった……)
ミーシャは家族を亡くしてから、ずっと一人だった。
エリサのことが心配でたまらない。誰かのことを強く案じるなんて、久しぶりのことだった。
(ソロでいることに慣れていたつもりなのに……)
そう思うと、ミーシャはちょっと目の端が潤む。
するとエリサは、ミーシャの顔をじっと見つめたかと思うと、ぶわ、と涙を浮かべて、
「ミーシャさんのバカ! ひとりでずっと、どこに行ってたんですかー! 心配したんですから!」
と人目を気にせず泣き喚いた。
ミーシャは、「ご、ごめん。エリサ、ちょっとおちついて」と慌ててなだめる。
近くにいたソニアもモディラも、目を丸くして2人を見ていた。
やがてゲルダが近づいてきて、
「はいはい。ラブラブなお二人さんは、ちょっち、あっちでやっててね」
といって、エリサが引っ付いたままのミーシャを、脇の方へ誘導した。
エリサが落ち着いたのは、それからもうちょっとしてからだった。
泣き止んだかと思うと、自分の体も顔も、着ている服も火災の後で汚れていたことに気づくと、
急に物陰に隠れて、それからすぐきれいな格好で戻ってきた。
「それにしても、ここはどこなんですか?」
2人がいるのは、手入れされなくなってどのくらいの時が流れたのかわからない庭。
差し込んでくる朝日を体いっぱいに受けて、2人は用途もわからない石段に並んで座っている。
「たぶん、古い修道院だと思う」
「そうですね。そんな気がしますけど……」
「場所はよくわからないけど、シャロンの街から東に離れた森の中だね。多分、アルゴンヌの森」
「そういえば、そういう場所があるって、モディラさんから聞きました!」
「なるほど。じゃあきっとここは、使われなくなったブノア修道院の僧院なんだね」
今は荒れ果てた庭にも、きっと昔はハーブや果実が育っていたのだろう。
「あの……実は、シャロンの街の僧院、燃やされちゃったみたいなんです」
エリサの言葉に、ミーシャは驚いた。
「まさか、あの悪徳警官?!」
「ち、違うんです! あの人は、実はいい人でした。そうではなくて、スコラ修道会の人たちに」
センイが味方だったという話を聞いて、ミーシャは「うーん」とうなる。だがすぐに、
「え、ちょっと待って! 燃えたってことは、アタシたちの荷物は?!」と現実的な問題を思い出した。
そう、カネ! 金貨! 全部燃えてしまったら、一文無しだ!!
するとエリサは「ちょっと待ってくださいね」といって、祭服の中に手を入れる。
ごそごそと手探りで何かをつかむと、祭服の脇からミーシャのリュックが飛び出てきた。
それを見たミーシャは、一瞬、何が起きたかはわからなかったが、どうも何かそれが魔法的な力なのだろう、と思い込んだ。
「あんまりたくさんは入らないそうなんですけど、生き物以外はなんでもしまえるから便利なんです」
エリサがそういうので、ミーシャは(師匠の遺物なんだろう)と推測して、自分を納得させた。
「それで、燃える僧院から脱出して、ソニアさんの命が狙われているからって、ここへ」
「なるほど。そんなことがあったんだね」
そういって、今度はミーシャが、ここに至るまでの話をする。
「そうだったんですか。じゃあ、わたしたちも、反乱軍? の仲間なんでしょうかね」
「そうなるなぁ」
ミーシャは、少し伸びた髪をいじりながら、そう答えた。
「でも。アタシはエリサと無事に合流できて、よかったよ」
「わたしもです。ミーシャさんがいないと、わたし不安になるみたい」
2人はお互いにそうささやいて、見つめあった。
やがて、どちらからともなく顔を寄せ、軽く口づけをかわす。
それだけでは足りなかったのか、二度、三度と、今度はしっかりお互いを感じるほどに。
とろんとした顔つきのエリサは、「えへへ」と笑って、ミーシャの胸に顔をうずめた。
ミーシャも無言で、エリサを優しく抱き寄せる。
そしてミーシャがふと視線を周囲に向けると。
「……なっ! ボ、ボク、何もみちょらんです!」
両目を掌で隠しているモディラの姿がそこにあった。
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