表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/87

第27話 崩落

 夜半。


 「……ん! 起きてください! エリサさん!!」


 激しくドアを叩く音! モディラの必死な声!

 エリサは目を覚ますと、もうすっかり部屋の中は暗くなっていた。だが、なにかが変だ。


 エリサはドアを開けると、「うっ」と息をのんだ。焦げ臭いにおいが、あたりに立ち込めている。


「よかった! 早く、逃げてください! 火事です!!」


 モディラは、エリサの手を取って走り出そうとした。


「ちょっと待ってください!」


 エリサはモディラの手をほどくと、壁に立てかけていた錫杖と、ミーシャのリュックなど装備一式を手に取った。


「そんな悠長な!」


 モディラが叫ぶと、エリサはミーシャの装備を、祭服の内側にしまい込んだ。

 一抱えはあるリュックが、どこかへするりと滑り込んで消えた。


「?!」


 とっさの出来事に言葉を失ったモディラ。


「お待たせしました! モディラさん」エリサは部屋を出ると、モディラの手を取る。


「逃げましょう!」


 僧院内には、すでにあちこち、火の手が回っていた。

 もうもうとした黒煙、夜の闇を赤く照らし出す火。そして激しい熱。


「【障壁】!」「‡恵みの雨‡!」


 エリサが火から身を守るために魔法の壁を作り、モディラは少しでも火を消そうと魔法で雨を降らす。

 だが、火の手の勢いは激しく、少しばかりの水ではどうにもならない。


「きゃっ!」「うわぁっ!」


 黒く焼けた柱が、2人の頭上に落ちてくる。【障壁】の効果で弾いたものの、2人は怖くて声を上げる。


「ほ、他の皆さんは……?」「みんな、逃げたはずです!」


 2人は火を避けながら、階段を駆け下りる。

 降りた先のホールは、すでに何本も柱が焼け落ちている。

 丸い天屋根はぽっかり空いて、煙がそこからもうもうと夜空に吸い込まれていく。


「モディラ! エリサさん!」


 外に出た2人をソニアが抱きしめた。


「みなさん、ご無事ですか?!」


 エリサが叫ぶと、全員が顔を見回し、子どもの一人が言った。


「……ろべーるが、いないよ?」


 それを聞いて、ひ、と息を吸ったのは、ソニアだった。

 

「あ! けんをとりにもどるって、いってた!」


 子どもの一人が思い出したように言う。

 その言葉を聞いた途端、ソニアは突如、燃え盛る僧院の中に駆け出した。

 モディラに「みんなを!」といって、慌ててエリサもそれについていく。


「ソニアさん! 待って! 【障壁】っ!」


 再びエリサは、魔法の防御壁を構築した。

 だが、燃えて崩れ始めた建物の下敷きになれば、助からないだろう。それでも、ないよりはましだ。


「孤児院は、僧院の奥です!」


 ソニアとエリサは、火に包まれた廊下を駆け、中庭を抜け、孤児院へ行く。

 火の回りは遅いが、それでもすでにかなり燃え盛っていて、いつ崩れるかわからない。


「ロベール!」ソニアが叫ぶ。


 エリサは、手近な部屋を見て回る。どこにもいない。


「ロベール! 返事なさい!」


 ソニアの声に、ロベールは応じない。


 するとエリサは、階段の陰に倒れているロベールを見つけた。


「ソニアさん、あそこ!」


 エリサとソニアが駆け寄ると、ロベールはおもちゃの剣を抱いたまま、気を失っていた。


「煙の毒が回っているのかもしれません……」


 ソニアはエリサに向かってそういうと、ロベールを抱きかかえ、


「ひとまず、中庭へ!」


 孤児院から中庭へと逃げ戻る。

 少し広い芝生にロベールを横たえると、ソニアは‡解毒‡の魔法を使った。

 すると、赤みがさしていたロベールの顔が、すっと元に戻る。


「よかった……」


 エリサがそうつぶやいたのもつかの間。


 何かの予感。エリサは、背後を振り返りつつ、錫杖を横薙ぎにふるった。


 錫杖が、何かに当たってかきん、と弾く。


 「ちいっ!」男の声が聞こえた。


 黒づくめの曲者だ! 2人。その手には、黒く塗られた大型のナイフが握られていた。

 渦のようにねじれた独特の形状が禍々しい。


「だれですかっ!」エリサは強い口調で問うが、当然のことながら曲者たちは何も言わない。

 ただ、ナイフを構えた様子が、明らかに敵対的であることを告げている。


「っ……!」


 曲者は、ナイフを構えるとエリサに飛び掛かる。


「【念動】っ!」


 エリサはとっさに、とびかかってきた曲者に、物体を動かすエネルギーをぶつけた。


「ぬおっ!」


 曲者2人は、急に押し返されるような圧力を感じ、ふわっと後方に宙返りする。


「魔法使いか!」


 男の声がぼそりと聞こえた。


「狙いはそこな司祭一人。退け、余計な殺しはしたくない」


 「嫌です!」


 エリサはまなじりを決すると、ソニアを背にして錫杖を構えた。


 ――どうしよう。わたしには、人を傷つけるような魔法が使えない。でも、守らなきゃ!


 エリサは一瞬、迷ったものの、すぐに頭脳を回転させ、


 ――【静寂】!


 以前、ケルベロスに襲われた際に使われた、存在をかき消す魔法をソニアとロベールに使う。


「何?! 消えた!」


「落ち着け! 姿が見えなくなっているだけだ……術者を殺せば、魔法も解ける」


 そう。わたしがしっかりしている間は、ソニアさんたちをこの悪い人たちから守ることができる。

 あとは、この人たちをどうにかしなきゃ……。


 エリサは油断なく、目の前の2人に注意を払う。

 だが、男たちはためらいなく、ナイフを構えて飛び込んできた。


「【液状化】!」


 エリサを亡き者にせんと、ナイフを構えて踏み込んだ曲者たちの足元が、急激にぬかるんだ。

 ずぶり、と膝のあたりまで、片足が潜り込む。


「【乾燥】!」


 男たちが足を抜く間もなく、エリサが次の魔法を放つ。

 するとこれまで泥のようになっていた地面が、たちどころに乾いて、男たちの片足をぎゅっと地に縛り付けた。


「貴様、面妖な術を使いおって……」


 片足が抜けなくなった男たちは、力任せに引き抜こうとする。

 だが、しっかりと乾燥した大地は、そうやすやすと戒めを解かない。


「ソニアさん、この隙に……」


 エリサが背後を振り返った瞬間。

 男の一人が、懐を探って細い筒を取り出した。吹き矢だ。

 口に当て、エリサを狙ってぷっと毒矢を放つ。


 だが、エリサには毒矢は当たらなかった。

 突如割り込んできた太い樫のメイスに、細い毒矢はもろくも弾き落とされた。


「……まさか、貴様?!」


 男が叫ぶと、その叫びを最後に、男はメイスの強烈な一撃に昏倒した。

 その勢いはすざまじく、殴られた男は宙を飛ぶ。

 土に埋まった片足はブーツが脱げ、数秒ほど空中遊泳をした後、地面に転げ落ちる。


「ひっ! ……くそっ!」


 もう一人の男は抵抗しようとするが、腹部を思い切りメイスで突かれる。

 「おげ……」とひとこと吐いて気絶し、その場に崩れ落ちた。


 「あなたは……!」


 振り返ったエリサは驚きの声を上げた。


「……小娘。姫様は、いずこぞ?」


 そこにいたのは、メイスを手にした、黒づくめの壮年の男――センイ・フィール警察大尉だった。


「……っ!」エリサは、突如現れたセンイに、警戒の色を浮かべる。


「細かい説明は後だ。姫様はどこにおられるのか、聞いておる」


 センイが敵ではなさそうだと認識したエリサは、【静寂】の効果を解いた。

 すると、植え込みのそばでじっとしているソニアと、まだ気絶したままのロベールが姿を現す。


「!」


 センイの姿を見たソニアは、驚きのあまり息をのんだ。

 センイはそんなソニアの様子にいささかも動揺せず、膝を屈し、臣下の礼をとる。


「力及ばず、ヴィンセントめらスコラ修道会の奴ばらに、焼き討ちをさせてしまいました。申し開きはございません」


 そういって、センイはぐっと頭を下げる。


 するとソニアはセンイに駆け寄り、肩に手を置く。


 「頭を上げて。あなたには一切の責はありません。これも、すべてゲオルグたちが仕組んだことですから」


 ソニアの言葉を聞き、センイは「ありがたくお言葉」といって立ち上がる。


「ともかく、この場を脱出します。スコラ修道会の追っ手も来るでしょう。市外への脱出の手引きは準備しております」


 センイがそう言ったので、エリサたちは、焼け落ちる寸前の僧院を抜け、モディラたちのもとへ戻っていった。

月・水・金の20時半更新です!


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ