第24話 星の導きに思いを託して
「アルゴンヌの森は、今でこそ街道も拓かれましたが、昔は、今よりずっと深い森だったそうです」
食堂のそばにある暖炉にやかんをかけ、ハーブティを3人分用意して、ソニアはエリサに話し始めた。
――その昔。赤毛の英雄レオンハルトは、白魔女アルボフレディスとともに、魔王エツィルを倒すための旅をしていました。
その途中、2人はここ、シャロンの街にもやってきました。
その当時、アルゴンヌの森には、魔王エツィルの配下となっていた魔女が、非道の限りを尽くしていました。
それを知ったレオンハルトと白魔女様は、アルゴンヌの森にすむ魔女を退治するためにやってきたのです。
ですが、なんと、その魔女と白魔女様はそっくりだったのです。
領主は「魔女が来た」とおそれおののきつつも、2人をもてなし、そして、ワインの中に強い眠り薬を入れました。
2人は気づかずそれを飲んでしまい、気絶したように眠ってしまいます。
領主は家臣や村人に命じて、2人を縛り上げ、火あぶりにしようとしました。
やがて夜が白み始めた頃。目を覚ました2人は、自分たちが縛られ、薪の中にはりつけられているのに気づきます。
2人は、自分たちの潔白を訴えました。でも、人々には信じてもらえません。
レオンハルトはこう言いました。
「わたしたちがアルゴンヌの森にすむ、本物の魔女を倒してくる。だから、この戒めを解いてほしい!」
ですが、到底2人のことを信じられない領主は、「そんなことをいって、だまされないぞ」と火あぶりの準備を進めます。
そこで白魔女様が、
「わたしはここに残るから、レオンハルトだけでも行かせてほしい」
と懇願しました。
領主は、他の村人たちと相談して、
「今日の日没までに戻ってこなければ、この魔女は火あぶりだからな」
といい、レオンハルトを解き放ちました。
ソニアは、そこまで話してから、モディラが戻ってきたのを見て、やかんのお湯をポットに注ぐ。
「何かお話されてるんですか?」
モディラが問うと、エリサが、
「白魔女様が火あぶりにされるお話を聞いています」
と応える。
モディラはソニアからハーブティの入ったマグカップを2つ受け取り、1つをエリサの前において、自分は空いている椅子に腰かけた。
「モディラはよく知っている説話ですよね」
ソニアがモディラに問いかけると、「はい」と彼女は応えた。
「じゃあ、続きをお話ししますね」
すると、モディラがたどたどしく、話の続きを口にし始めた。
――「アルボフレディス。ボクは必ず戻ってくる」
そういって、レオンハルトは、アルゴンヌの森に向かって駆けだしました。
残された白魔女様は、ただひたすら、時が過ぎるのを待ちました。
やがて太陽が昇り、中天に至り、そして西に傾き始めます。
領主は、縛られたままの白魔女様に、
「あいつは、戻ってこないぞ。どうせ逃げ出したんだ、お前を見捨てて」
といいました。
白魔女様は、そんな領主に向かって笑みを浮かべて、
「いいえ。レオンハルトは必ず戻ります。あの人は、そういう人です」
とお答えになりました。
そしてまた、時間が経ち、段々と夕暮れ近くになってきました。
空には夕闇のベールが張られ、月や星が姿を現します。
領主は、「やはり戻ってこないな。お前は見捨てられたんだ」と白魔女様に言いました。
それでも白魔女様は、
「わたしは、レオンハルトを信じます」
と強く言い切られました。
領主は白魔女様の気高さを見て、いらだち、
「早く戻ってきてほしいだろう?」
といいますが、白魔女様は、
「早く戻ってほしいと思うのは、わたしの勝手な都合でしかありません。それは、わたし自身の弱さからくる願望なのです。だから、わたしは、そうは願いません。わたしは、わたしがどうなろうとも、あの人がなすべきことを果たすことを願います」
と慈愛に満ちた顔で領主に言いました。
すると領主は、白魔女様のお言葉に心を打たれ、
「あなたは、邪悪な魔女ではない。すぐに戒めをお解きします」
といいましたが、
「それは無用です。だって、ほら、レオンハルトが帰ってきましたから」
白魔女様がそうおっしゃると、街のはずれから走ってくるレオンハルトの姿がありました。おしまい。
「……というお話があるんです。だから、ボクたちブノア修道会では、待ち人が早く帰ってくることを願うのではなくて、やるべきことを成し遂げて帰ってくるように願いなさい、ということなんです」
モディラがそう言って話を終えると、エリサはぱちぱちと拍手をした。
「お話、面白かったです。……そうですね、わかりました。わたし、ミーシャさんのことを信じています。だから、もう、心細くありません!」
そうエリサが言うと、ソニアは満足げにうんうんとうなずいた。
そこに、モディラが付け加える。
「このお話ですけど、本当にあったことらしいんです。アルゴンヌの森の中に、いつできたか記録がない、ブノア修道会の僧院があるらしいんです。今はもう誰も使っていなくて、多分廃墟なんだろうと思うんですが、言い伝えによると、そこがその魔女を倒した場所らしくって」
モディラの言葉に、エリサは目を丸くした。
「おとぎ話じゃないんですねー。すごいです!」
エリサの言葉に、モディラはなぜか自信たっぷりにふんすと鼻を鳴らした。
それから、エリサは宿坊に戻った。
1人しかいない部屋は、やっぱりさみしい。
2人がいる手前、心細くないなんて言ったものの、やっぱりさみしいし心配だし、早く帰ってきてほしいのだ。
「ちょっとだけ……」
エリサはローブの中に手を入れると、カードの束を取り出した。
このカードは、占いの道具だ。
ミーシャと出会う前は、エリサはこの力で路銀を稼いでいた。
エリサはテーブルの上にカードを円になるよう並べると、気持ちを集中して1枚引く。
カードをめくると、星のマークが描かれている。
「星は……道しるべ、困難なときの希望、そして天の導き。うん、ミーシャさんは、きっと大丈夫」
占いの結果にちょっと落ち着いたエリサは、明日ミーシャを探しに行こうと心に決めて、ベッドにもぐりこんだ。
月・水・金の20時半更新です!
もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!
レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。
では、また次回もよろしくお願いします!




