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第23話 待ってるだけでも、お腹は空くの。

 「……ミーシャさん、まだ帰ってこないですね」

 

 ミーシャの帰りを待っていたエリサは、宿坊の中で明かりを灯してじっと外を見ていた。

 そこへカンテラを手にしたモディラがやってくる。

 

 「あれ? まだミーシャさん帰ってきてないんですか? おかしいなあ」


 モディラはそういうと、カンテラを近くの小机に置き、腕を組んで首をかしげる。


 「そろそろ夕食なのでお迎えに来たんですよ。うーん?」

 

 モディラはひとしきりうんうん悩むと、

 

 「さきに夕食召し上がってください。冷めちゃいますから」

 

 カンテラを手にして、エリサにそう告げた。

 

 エリサは、ミーシャのことが気がかりになりながらも、モディラに促されるまま、食堂に向かった。

 

 「あら? ミーシャさんはおられないんですか?」

 

 食堂にはソニアと子どもたちがいた。ソニアにそう尋ねられ、エリサは「はい」と小さな声でうなずいた。

 

 「おねーちゃんも、ごはんたべる?」

 

 「ちゃんとてをあらわないとだめなんだよ」

 

 「もっちーもてをあらおうね!」

 

 エリサとモディラは、子どもたちに食堂脇の手洗い場へつれていかれる。

 

 「あかげのおねーちゃんは?」

 

 「……まだ帰ってきてないみたいなの」

 

 「よふかし! だね。きっとどこかでみちくさしてるんだとおもう」

 

 「道草ですか」

 

 子どもの無責任な言葉に、エリサはそう返す。

 

 (ミーシャさんに限って、何か危険な目に遭ってるはずは無いと思うんだけど……)

 

 エリサの胸にちょっとした引っ掛かりが生まれる。

 ミーシャは熟達したスカウトであり、かつ魔導書の力によって常人以上の身体能力がある。

 もし何か危険があったとしても、回避できるはずだ。

 それに、少なくともエリサよりも世慣れているのだから、まさか人さらいなどに遭ったりはしないだろう。

 そこまではエリサも心配はしていない。だが、日が暮れても帰ってこないのは気になった。

 

 「エリサさん。ミーシャさんはそのうちお帰りになりますよ。だから、まずは食事にしましょう」

 

 モディラがそう進めるので、エリサは子どもたちと一緒に食卓へついた。

 

 「きょうのごはんは、かぶのすーぷだよ! わたしがしさいさまといっしょにつくったの」

 

 ひとしきりお祈りが済んだ後、女の子が自慢げにそういった。

 

 エリサが深いボウルに注がれた白いスープに大きな木のさじをいれる。

 少しもったりとした触感が伝わってくる。

 

 「蕪……ですか?」

 

 中をかき回しても、蕪らしきものはない。

 小さく刻まれたニンジンや玉ねぎと蕪の葉っぱ、それに細長く裂かれた白い肉のようなものが、どろどろとしたスープの中に漂っているだけだ。

 不思議そうな顔をしたエリサに答えを教えたのは、ソニアだった。

 

 「これは、このあたりでよく作られる料理なんです。茹でた蕪を丁寧につぶして、とろとろに仕上げたもの。それに野菜と、塩づけの魚を一緒に煮て、味をつけています」

 

 「わたしがかぶをつぶしたの!」

 

 女の子が胸を張って言う。

 

 「じょうずにかぶをとろとろにできるおんなのこは、いいおよめさんになれるって!」

 

 女の子の言葉に、エリサは「へえ。そうなんですか」といい、スープを口に運んだ。

 滋味に富んだ蕪のコクに、塩漬けの魚から出た塩気と風味がマッチしている。

 脂をあまり使っていないのでさっぱりしているが、それでも見た目によらず、食べ応えがある。

 

 「ボクの故郷では、蕪のかわりにジャガイモ、魚の代わりにソーセージを使うんですよ」

 

 むぐむぐとスープを食べながら、モディラが言う。

 

 「へえ。いろいろあるんですね」

 

 とエリサは応じながらも、心のどこかでミーシャのことが気になって、なんとなく生返事だった。

 

 ソニアはそれを察したのか、

 

 「エリサさん。まずは食べてくださいね。何か気になることは、それから一緒に考えましょう?」

 

 というと、エリサは、はっとして、

 

 「あ、はい。そう、ですよね……」

 

 といって、苦笑いをするのだった。


 食事が終わり、モディラはソニアに頼まれて、子どもたちを寝室に連れて行った。

 

 食堂の中には、ソニアとエリサがいるだけだった。

 

 「エリサさん、ミーシャさんのことを心配されているんです?」

 

 「えっ。どうしてわかったんですか」

 

 「ふふ。何も言わなくたって、そう顔に書いてあるんですもの」

 

 そういってソニアが笑みを浮かべると、エリサは思わず自分の両頬を撫でまわす。

 

 「あら、本当に書いているわけじゃないですよ」

 

 「で、ですよね。ええ、わかって、います。でも、その」

 

 「心配なんですよね。大切な伴侶が、そばにいないから」

 

 「……はい」と、うつむき加減で、エリサが言う。

 

 「いつも一緒にいる人が、いないだけで、自分が心細くなったり、何かその人が事故にでもあっていないか、心配になったりしますよね」

 

 ソニアの問いかけに、エリサは無言でうなずく。

 

 「そういうときは、わたしたちブノア修道会では、待ち人が早く帰ってくることを願うのではなくて、やるべきことを成し遂げて帰ってくるように願いなさい、という教えがあるんです」

 

 「……?」


 ちょっとよくわからない、という感じで、エリサはソニアの方を見た。

 

 「ふふ。みんなすぐにはわからないんです、このこと。でも、これは白魔女様のあるエピソードに由来するんです……」

 

 そういうと、ソニアは席を立ち、

 

 「お茶を淹れてきてから、お話ししますね」

 

 といった。


 エリサは、そんなソニアへ、すがるような視線を向けるのだった。


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