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第22話 忍び寄る騒乱の影

 ゲルダの言葉を聞いて、ミーシャはしばらく沈黙していたものの、やがて静かに首を横に振った。

 

 「力を貸すっていったって……アタシ、エリサのところに帰んなきゃ」


 そういってから、ベッドから抜け出ようとして、ゲルダに押しとどめられる。

 

 「無理よ。貧民街の教会でしょ。ブノア修道会の。きっともう、センイたちの監視下にあるわ」

 

 「な、なんでも知ってるんだな……」

 

 「ええ。わたしたちにとっても、あそこは大事なところだからね」

 

 ゲルダは、ベッドサイドに腰かけ、言葉を続ける。

 

 「前にも言ったけど、わたしたち、フィルマール子爵家の旧臣なの」


 「そうだったね」

 

 「まあ、うちはただの厨房方。でも、そのおかげで、あの愚かしい遠征計画に従軍もせず、その後のゲオルグの子爵家乗っ取りのときも、目を付けられることがなかった」


「乗っ取り……その話、モディラから聞いたよ」


 「モディラって、あのドワーフの子? 意外とよく知ってるのね。そう、今から数年前。フィルマール子爵家は、ゲオルグに、正確に言えばヴィンセントに入れ知恵されたゲオルグによって、家名も領地も強奪されたの」

 

 「それで……」

 

 「奥様は、すでに病で亡くなられていて、残されたのは、一人娘のお嬢様。するとゲオルグは、本来なら子爵の継承権があるお嬢様を、保護という名目でむりやり婚約者にして、それから『女性は本来無能力だから、フィルマール子爵位は夫である自分が継承する』なんていいだしたの。その辺の手回しは、教会法関係も含めて、すべてヴィンセント率いるスコラ修道会が段取りした」

 

 ゲルダの言葉に、ミーシャは絶句した。汚い、あまりにも汚い。ミーシャは心中、反吐が出た。

 

 「もともとフィルマール子爵家は、フリンジ辺境伯家の血筋なのね。かなり遠い昔に、小さな分家として創設されたんだけど、河川の通行権を持っていたから、財政的には豊かなほうだったの。それをゲオルグのやつに狙われた」

 

 「ひどい話……許せない」

 

 「でしょう。やつが子爵家を乗っ取った後は、家臣たちは全員お払い箱。退職金なんかないわよ。それで、一度はみんなばらばらになったんだけど、どうしても、アイツのやり方が許せないって、お家復興のために、今は耐え忍んでいたところ」

 

 「じゃあ、ギルドが焼き討ちされたのは……」

 

 「きっと、わたしたちの正体をヴィンセントが感づいたのね。ギルドって、誰が出入りしてても怪しまれなかったから、拠点にしていたのよ。あの狼の件さえなければ、まだ隠し通せたのかもね」

 

 「ごめん……」

 

 ミーシャが悲しそうな顔になると、ゲルダは笑みを浮かべて言った。

 

 「いいの。どうせ狼の件は討伐次第、辺境伯家に連絡するようナイショのお触れが出てたの。変にごまかせば返って怪しまれたはずだわ」

 

 「そっか」

 

 そういうと、ミーシャは狭い天井に視線を向けてから、はぁ、とひとつため息をついた。

 

 「アタシもお尋ね者になったのは、狼の件だけじゃないな。モディラやエリサと一緒にいたからだ。モディラは本物でエリサは格好がブノア修道会のそれだったから」

 

 「それも、あるかもしれない」ゲルダは言った。

 

 それを聞いて、お家騒動に宗教対立、一介の冒険者が巻き込まれるべき問題じゃない、そうミーシャは思った。


 「なんだかなあ。この街すごくきな臭いじゃないか。アタシはさぁ、お金の匂いは好きなんだけど……」

 

 「お金……お金、ねえ。あなた、お金にがめついの?」

 

 ゲルダはそういうと、渋い顔になった。するとミーシャはあわてて、

 

「いや。お金は大事じゃないか! 生きていくのに必要だし、それこそ、お家再興にもお金が要るじゃない? アタシ、別にがめつい方じゃないし、汚い方法で稼ごうなんて、思ってもないし!」

 

 「いや、それはわかるけど。仲間にするには、報酬がいるのよね。うーん。じゃあ、子爵家の復興ができたら、ソニア様に何かお願いしてあげるわよ」

 

 「たら話かー。でも、まあいいや。助けてもらったお礼もあるし。ただ、アタシたちも旅の目的があるから、最後まで付き合えるかどうかは保証しないよ」

 

 「それでもいいわ。とりあえず、『鬼殺し』の力が借りられれば、わたしたちの士気も上がるはずだから」

 

 ミーシャの言葉を聞いて、ゲルダはベッドサイドから立ち上がった。

 

 「だったら、『馬の脚は速い方がいい』よね。できるだけ早く、ここから町の外の拠点に移動したいの。今晩にでも動けそう?」

 

 ゲルダの言葉に、ミーシャは体のあちこちをさすってから、

 

 「まあ、大丈夫だと思う」

 

 と返す。実際、ミーシャの体の打ち身は大した傷ではない。これも身体強化の特性なのだろうか。

 傷の治りですら速いように感じる。

 

 「そっか、よかった。じゃあ、パンがゆ、冷めちゃったから温め直すね」

 

 ゲルダはミーシャの答えを聞くと、ミーシャが食べていたパンがゆのボウルをもって部屋の外に出ていった。


 

 その日の夜。ミーシャはエリサのことが気になりつつも、ゲルダたちとともにシャロンの街から脱出した。


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