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第21話 誰も知らないどこかの場所にて

 「う、ううん……」

 

 ミーシャが一声うめいて目を開けると、そこは薄暗い、見知らぬ部屋だった。

 窓はなく、隙間から漏れる日の光と、小さなろうそくの灯だけが頼り。

 ミーシャは、自分が藁のベッドに寝かされているのに気がついた。

 

 「起きた? おはよ」

 

 ミーシャの視界におぼろげながらに映ったのは、どこかで会ったことあるような、そばかすの娘……。

 

 「あ!」

 

 ミーシャがびっくりして声を上げる。

 すると娘はミーシャの口を慌ててふさぎ、

 

 (しっ! 静かに。大きな声は出さんで!)

 

 ささやき声で、厳しく叱った。

 

 (村の、冒険者ギルドの)

 

 (そう。ゲルダ。何日かぶり? 鬼殺しのミーシャさん)

 

 ミーシャはゲルダをしげしげとみつめ、

 

 (あの、キミ、アタシに殺されたはずじゃ……)

 

 するとゲルダは、ふふっと笑い、

 

 「何言ってんのよ。あたしは今ここで生きてるし、あなただって、あたしを殺した覚えなんて無いでしょ?」

 

 ゲルダの言葉に、ミーシャはただうなずくしかない。

 

 「それはそうと」

 

 ゲルダは、手にしていた洗面桶の中から、何かを取り出す。薬草を練ったものと、清潔な布巾だった。

 

 「あなた、ずいぶんヤバいことに巻き込まれたね」

 

 ミーシャは自分が下着姿であることに気づいて驚くと、ゲルダが手当をしてくれていたことを感づいた。

 ゲルダは、当たり前と言った顔で、ミーシャの体に貼っていた薬草が塗られた布巾を新しいものに変える。

 ひんやりとした感覚が、腫れて熱を持ったミーシャの体を優しく包む。

 

 「うんうん、いい体をしとるね。特にこの引き締まった腹筋。じゅるり」

 

 手当のついでに、ゲルダはいやらしい目つきをしながら、ミーシャのへそのあたりに指を這わせる。

 

 「やっ……なにすんだよ!」

 

 「あら、かわいい声だすじゃない。ちゃんと女の子なのね」

 

 そういうと、ゲルダは意地悪そうに笑う。

 

 「それで、本当はどっちの子と仲良しさんなの? ハーフエルフの子? ドワーフの子? それとも、両方?」

 

 「べ、別にいいじゃんか、そんなの。関係ないだろ?」

 

 ミーシャが怒ったそぶりを見せると、ゲルダは「ふふふ」と笑って、

 

 「からかってごめんね。気力は元気そうだわ」

 

 と言い、あとは無言で、てきぱきと手当をする。

 

 「ああ。ホント、なんでアタシが、ゲルダと親父さんを殺して、放火までしたことになってんのよ」

 

 手当を終えた後、ミーシャはそうぼやいた。

 

 「もう。気づいてるはずでしょ? あいつのせいよ」

 

 「フィルマール、子爵?」

 

 するとゲルダは人差し指をミーシャの唇に当て、

 

 「あいつのことを、子爵って呼ばんで。あいつは、ゲオルグ・ド・フリンジ。ここでは、ゲオルグとでも呼んでやって」

 

 「じゃあ、そのゲオルグのせいだ」

 

 「そう。それに、その腹心であるヴィンセント。こいつは、スコラ修道会から派遣された政治顧問」

 

 「でも、なんでアタシが……」

 

 「そりゃ、証拠隠滅でしょ。あのオオカミの実績、あいつのものにしたかったんだから」

 

 「にしても、ひどくない? ギルド燃やして、2人も殺したなんて」

 

 「それは、ちょっこし、あたしらのせいでもある」

 

 「?」

 

 「まあ、それはそのうち教えるわ。しかし、あの『鬼のセンイ』と立ち回って、よくこれだけの傷ですんだものね」

 

 「あのおっさん! すごい腕前だった」

 

 「ふつーは、あばらの2,3本はやられるし、よくもまあ、打ち身だけで助かったものよ」

 

 「そうなのか……」

 

 「『鬼のセンイ』。フィルマール子爵家にいた頃は、騎士として名を馳せていたのよ。ビシビシ、領内の悪人を情け容赦なく捕まえる正義の味方、だった」

 

 そこまでいうと、ゲルダが渋い顔になる。

 

 「だった?」

 

「フリンジ辺境伯家に仕えるようになって、人が変わった。悪徳商人たちからはワイロをもらったり、屋台や冒険者に難癖付けては小銭を強請ったり。腐ったどうしようもないおっさんになってしまった。でも、腕は立つから、始末が悪いの。どうしてなんだろ、あんなに立派な人だったのに」

 

「そうなんだ……」

 

 悔しそうな表情を浮かべるゲルダを、ミーシャは複雑な思いで見つめる。

 

 ミーシャは、話題を変えようと、

 

 「ところで、ギルドは? 本当に燃えたの? あの、親父さんは?」

 

 するとゲルダは、

 

 「燃えたよ。でも、お父さんは無事」

 

 とだけ言った。

 

 「それに、ここはいったい?」

 

 「いろいろ質問もいいけど、まずは食事。はい、パンがゆ」

 

 ゲルダは手際よく、具の少ないクリームシチューに黒パンを浸したものを取り出した。

 

 「自分で食べられる?」

 

 ミーシャは、パンがゆが入ったボウルを受け取ると、大きな木のスプーンですくって食べ始める。

 

 ゲルダは、部屋の中に置かれている椅子に腰かけて、その様子を眺めていた。

 

 「ねえ、あなた。ゲオルグのこと、どう思う?」

 

 ゲルダの言葉に、ミーシャは食事をしながらも、はっきりと答えた。

 

 「一度、パレードで見ただけだけど、嫌な奴だと思う」

 

 「パレードのとき、孤児院の子どもたちと一緒にいたそうね」

 

 「どうしてそれを?」

 

 ミーシャはゲルダの言葉をいぶかしむ。村にいたはずのゲルダが、なぜそれを知っているのか。

 

 「わたしたちの目は、いろんなところにあるのよ。だから、あなたのことを助けることができたのよ」

 

 「キミたち、何者?」

 

 ミーシャは、パンがゆを食べる手を止めて、ゲルダをじっと見つめる。

 

 「そんな、じいって見られたって、別にあなたを騙そうなんて思ってないわよ」

 

 「いや、それはさ、こうやって助けてくれたんだから、わかるよ。でも、なんで、村のギルドが焼かれて、アタシたちがパレードにいたことをキミが知っていて、そこが全然わかんないよ」

 

 そういって、ミーシャは頭を振った。そして、言葉を続ける。

 

 「ただ一つ、はっきり言えることとして、キミは、いや、キミたちは、フリンジ辺境伯家、特にゲオルグのことを嫌っている。場合によっては、敵対しているのかもしれない。きっと向こうも、何かキミたちを付け狙っている事情があるかもしれない」

 

 ミーシャの言葉を黙って聞いていたゲルダは、ベッドのそばまでゆっくり歩いた。

 そして、ミーシャの顔をのぞきこみ、

 

 「なんだ。よくわかってるじゃない。なら話は早いわ。ミーシャさん。どうかわたしたちに力を貸して。あなたももう、フリンジ辺境伯領じゃお尋ね者よ。どのみち、わたしたちと行動を共にするしかないわ」

 

 といった。


 ミーシャは、思わずゲルダの顔をまじまじと見つめ返した。

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