表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/69

第17話 さらにダークサイドミーシャさん

 それから2日ほど経ったが、特に大きな収穫はなかった。

 ミーシャは、冒険者ギルドなどに通い、未発掘の遺跡などについて聞き込みをした。

 エリサは書庫の中を調べたものの、それらしい資料は残されてはいなかった。


 しかしそれでも、2人は、モディラやソニアには秘密にしている、ある確信があった。

 遺物(アーティファクト)『魔法の羅針盤』。クロウテルの魔導書のありかを指し示すマジックアイテムだ。


 「すぐ近くにあるはずなんですけど……」


 「その割には、針がふわふわ揺れて、不安定なんだよなぁ」


 2人が寝室で覗き込んだ羅針盤によれば、反応はごく近くにあるようだ。

 しかし、そのうち1つは、おそらく、この僧院のどこか。そしてもう一つは、領主の館の方向を指していた。


 「この建物の中にあったとして、どうしようか」


 「実はそれが一番困るんです。勝手に取ったら泥棒さんになってしまいますし」


 「だよねえ。くださいって言って、譲ってもらえるかもわからないし」


 2人して、うんうん唸っていると、モディラが部屋の中に飛び込んできた。


 「大変です! 領主様がお亡くなりになられました! いま、公示人が街角で布告しています!」


 2人は「えっ?」と口走り、モディラの方を見た。


 「確か、中風になっていたっていう、辺境伯のこと?」


 「そうです。それで、後継者はフィルマール子爵だった、嫡男のゲオルグになりました!」


 その名を聞いて、「あいつゲオルグっていうのかよ」と、ミーシャは嫌そうな顔をした。続けて、


 「じゃあなんだよ、狼のパレードをしてから数日も立たないうちに、代替わりしたってことだよね?」


「そうなります。何か、しっくりこないですけど」


「なんか怪しいよな。でも、それはアタシたちには、関わりのないことだよな」


 すると、モディラは立ち耳をぺたんとさせる。


「どうしたんだよ? モディラが落ちこんだりなんかして。何か関係あるの?」


 すると、モディラは悲しげな顔をして、


 「司祭様のことが、心配で」とだけつぶやいた。


 それをみたエリサが、モディラを部屋の中の椅子に座るよう誘う。


 「モディラさん。ここに座ってください。何があなたをそんなに悲しませているのか、よかったら聞かせてもらえますか?」


 エリサの言葉に、モディラはとぼとぼと歩いて、椅子に座る。

 そして、とつとつと語り出した。


 「司祭様のお名前、ソニア・ド・フィルマールといいます」


 「……フィルマール!」


 ミーシャは、モディラの一言で叫んだ。だが、「ゴメン、続けて」とモディラの発言を促した。


 「ミーシャさんはお気づきかもしれないですけど、司祭様は、もともと子爵家のお姫さまでした。フィルマール家は、フリンジ家の分家……しかも、唯一の分家だったんです」


「それって、どういう意味ですか?」


 「貴族の世界では、血統を残すことがとても重要とされています。だから、一族の血が絶えないように、兄弟姉妹で分家を作るんです。でも、フリンジ家は、100年前の戦争で多くの犠牲者が出て、フィルマール家しか分家が無くなりました」


 2人は、ふぅんと唸った。モディラは2人が理解したと見たのか、話を続ける。


 「でも、今回亡くなった辺境伯は、フリンジ家に何かあれば、血のつながりがあることを理由に、フィルマール家に乗っ取られるのではないか、と考えていたそうです。そこで、フィルマール家の力を削ぐために、司祭様のお父君や兄君を戦死させました。そして、ボクたちぐらいの年で相続人になった司祭様は、むりやりフリンジ家の嫡男であるゲオルグと婚約させられたんです。そこから保護と称して辺境伯は、フィルマール子爵家を支配下に置きました」


「ひどい!」エリサは両手をぐっと握りしめ、そう叫んだ。


「やがて、フィルマール家の乗っ取りを成し遂げた辺境伯は、用済みになった司祭様をどうしようか考えていたそうです。それを察した司祭様は、自ら世俗との縁を断ち、ブノア修道会に入られました」


 「じゃあ、婚約は?」


 「ふつうは、修道院に入った時点で破談になります。でも、辺境伯は何を考えたのか、『婚約の一時停止』としたそうです。そのため、法律上は、まだ司祭様はゲオルグの婚約者なんです」


 「……わけわかんないよ!」


 貴族の考えることはよくわからない。ミーシャはうんざりしたように言い捨てた。


 「ゲオルグは、司祭様が修道会に入ったことでフィルマール子爵としての相続権を得て、今はその地位を僭称しています。ただ、今後、あの人が辺境伯になったことで、司祭様にどんな影響が出るのか、想像がつかないんです」


 モディラはそこまで言って、泣きそうな顔で2人を見た。


 「少なくとも、いい方には転がりそうにはない、よね」


 「ボク、どうしていいかわからないです。司祭様には、ボクが修道会に入ったときから、ずっとお世話になってきました。だから、何とかしてあげたいんです。でも、ボクには何の力もなくて……」


 モディラの丸くて可愛らしい瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 するとエリサは、モディラの隣に立って、そっと肩を抱きしめてあげた。


 ミーシャは心中、(困った……)とつぶやく。

 ここで安請け合いすることは簡単だ。あの司祭様の身を、しばらく護るということなのだろう。だけど、それをすることにメリットがあるのか。

 安っぽい正義感だけでは、生きてはいけないし、自分たちの目的も果たせない。


 ふとみると、エリサと目が合った。エリサの目は(可哀そうだから何とかしてあげしょう)と言っている。

 ミーシャはさらに困る。

 

 やがて、ミーシャの悪知恵に光明が灯る。


 「わかった。アタシたちがここにいる間は、何とかできるように協力する。ただし、条件がある」


 「……条件、ですか?」


 涙で目が真っ赤になったモディラが、ミーシャに尋ねる。


 「実は、クロウテルの魔導書の、おそらく断片が、この建物のどこかにある」


「!!」


 ミーシャの言葉を聞いて、モディラの耳がピンと立った。


「モディラも知っての通り、アタシたちは、それを探している。これは、どうしても手に入れないといけない」


「じゃあ、まさか……」


 「そう、そのまさか。おそらくブノア修道会では、その断片の存在すら知らないはず。だから、それをアタシたちのものにしたとしても、存在が誰にも知られていないのだから、今まで通り、何も変わらない」


 「え。その、どうしてそれをボクに……」


「誰にも断らずに持っていけば、それは泥棒だろ? だから、アタシは、モディラに、ちゃんと断って持ち出そうとしているのさ」


 そして、ミーシャは悪い顔をした。「ひいい」と小さく叫んで、モディラはブルブルと震え出した。

 するとエリサが、ミーシャをたしなめる。


 「もう! ミーシャさん。そんなこといって、モディラさんを怖がらせないでください! ……でも、どうしても、わたしたちには、クロウテルの魔導書が必要なんです。だから、モディラさん、どうかお願いします。あとから返してっていうことになれば、お返ししますから」


 モディラは、エリサの顔を見て、一度半信半疑のような表情になったが、やがて、


 「本当に、後で返してくれるんですよね? ……じ、じゃあ、それでお願いします……」


 と消え言えりそうな声で言った。


 ミーシャはその答えを聞いて、にやり、と悪い笑顔になるのだった。

月・水・金の20時半更新です!


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ