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第10話 ダークサイドミーシャさん

 男たちはめいめいに、得物を構えてミーシャたちを取り囲んだ。

 殺しはヤバいな。ミーシャはそうとっさに判断すると、すぅ、と潜り込むような独特のステップを踏んだ。

 そして、顔に傷のある男の顎めがけて、垂直に足を蹴り上げる。


「ぐおっ」


 顎に強烈な一撃を食らった男は吹っ飛んだ。宙を舞って、そのまま受け身もとらずに石畳に昏倒する。


「このっ」


 それを見た鉄兜の男は、サーベルを振り上げ、ミーシャを袈裟懸けに切り捨てようとする。

 ミーシャは前転して男の斜め後方に転がり出る。

 腕の力をばねにして、後ろ足で右、左、と男のサーベルを持った腕の脇続けざまに蹴った。

 脇の柔らかい部分に痛打を受けて男は倒れ込み、サーベルを取り落とす。


「蹴りばっかりしやがって、なんてじゃじゃ馬だ」


 今度は2人がかりでミーシャに襲い掛かってきた。メイスとロングソードだ。

 2人は同時に振りかぶり、ほんの少しだけタイミングをずらして、ミーシャに殴りかかる。

 ミーシャは体術でさっと後ろにかわすと、飛び後ろ回し蹴りを一人目の脳天に食らわせた。

 脚が地面に着くと同時に再び跳躍して、とび膝蹴りをもう一人の顎に決めた。


 圧倒的な戦闘能力の差であった。


 「口ほどにもない。自分たちの立場が分かった? ごめんなさいは? あぁ? こら?」

 

 ミーシャは、太った男の後頭部をブーツで踏みつけながら、そう言った。

 

 「うぐぐ……」踏みつけられた男がうめく。


「あの、ミーシャさん。もうそれくらいにしてください」


 エリサがおろおろしながら、ミーシャの袖を引っ張る。


「この方たちだって、けして、悪気があってしたようには思えませんし」


「え? エリサ、こいつら、悪気しかないじゃんか。いちゃもんつけやがって」


 ミーシャの剣幕に恐れをなしたモディラは、今度はエリサの後ろに隠れていた。


「こういうのは、舐められたら、ダメなんだよ。きっちりシメておかないと」


 女一人の冒険者稼業を続けてきたミーシャは、過去何度も危ない目に遭ったことがある。

 だからこそ、こういうことについてはキッチリしていないと、後が危ないのだ。


 「あうう。ミーシャさんって、ボクの実家と同じ人種だったんですね」


 モディラが耳をペタンと寝かせて、エリサの背後から顔を出す。


 すると、遠くの方から大声をあげながら誰かがやってくる気配がした。

 モディラの耳が、ぴんと張る。


「衛兵です。逃げましょう!」


 モディラが叫ぶと、ミーシャは「うん」とうなずき、エリサの手を引いてその場を逃げ出した。

 3人は走る。いくつもの路地を進んで、小さな広場でいったん立ち止まる。衛兵は追ってこないようだ。


「ば、ば、ば、ばれましたかね?」


 モディラが青い顔をして、ミーシャに問うた。


「大丈夫。なんかあったら、全部アタシのせいにしてくれればいいから」


「ダメです。そのときは、わたしも一緒です」


 わかっているのかどうかは知らないが、エリサはそう言ってミーシャの腕に抱きついた。


「ううう、怖いよう。心配だなぁ」


 モディラはあたりをきょろきょろしながら、そうぼやいた。


 やがて追手が来ないことを確信した3人は、今日の目的地に向かって歩き始めた。ブノア修道会のシャロン僧院である。

 僧院は、シャロンの町の北の端、うらぶれた、あまり日の当たらないところにあった。

 周囲の家々も粗末な建材を使っており、道は石畳などなく、でこぼこだらけだ。

 

 やせた犬がわんわんと吠え、継ぎあてを着た子どもたちが無秩序に走り回っている。

 わずかでも日当たりの良いところには、老人たちが座り込んで、ゆっくりと煙草をふかしていた。

 

 ただ、うらぶれているわりにはにぎやかで、様々な生活音や人の話し声、ときには怒鳴り声までもが混ざり合って聞こえてくる。スラムというには平和そうだが、だからと言って、生活環境としてはあまりよろしくない。

 

 僧院は、こぢんまりとした木造であるが、柵で周囲を囲み、小さいながらも庭があった。

 目を楽しませる草花と、実用的な何種類ものハーブや薬草の花壇がしつらえられていた。

 

 「へえ、庭があるんだ」

 

 「聖典にいわく『町にいても森を忘れず、森にいても町を忘れず』。贅沢かもしれませんが、食費や香料代を節約しても、草花を大切にしています。でも、ここに植えてあるものは、全部生活の役に立つものばかりですよ」

 

 聖堂の入り口につるされた、大きくて分厚い板を備え付けの木づちでコンコンと叩きながら、モディラが言う。

 

 「とても居心地がいいお庭ですね」

 

 「このお庭は、ソニア司教様が丹精を込めて育てているんです。エリサさんに気に入っていただけて良かったです」


 コンコンと鳴らしてから、しばらく待っても、人が出てこない。


「出かけてるんですかね?」


「どうなんでしょう?」


 モディラはもう一度、コンコンと板を叩いた。


 すると、入り口のドアがゆっくりと開けられる。


 エリサは「こんにちは」と言おうとして絶句した。


 出てきたのは、花と緑が豊かな教会に似つかわしくない、ごつい中年の男だったからだ。

 この人から、なんだかお酒の臭いがする。


 「あ、あう……」エリサが固まる。


 すると、男がじろりとねめつけるようにして、口を開いた。

平日月・水・金の20時半更新です!


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