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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第1章 赤毛の冒険者、忘却の白魔女と出会う

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第6話 ギルドで登録(上)

 霊峰ガルガンチュアのふもとに広がる、ラブレーの森。

 その東端のあたりに、カンブレーという土地があり、同名の村がある。


 このあたり一帯は、ラブレー伯爵領と呼ばれ、ひとつの町と数十の村や集落があり、近隣周辺地域の交易拠点として発展してきた。北に霊峰とその峰々がそびえ、その周囲を森が囲む。森を抜ける街道を西に行けば、この国の王都に続く。東に行けば内海貿易の一大拠点がある金融都市へ。南に行けば教会の総本山、北には数百諸侯限りなしと称された領邦地域がある。

 そのため、領内は、人と品物の出入りが他の地域よりも多い。そうなると、自然に金儲けのチャンスと、トラブルも増えてくる。


 冒険者ギルドは、そうしたトラブルを解決し、また自ら引き起こす《冒険者》どもを取りまとめる組織だ。そのネットワークは世界中に張り巡らされているが、経営自体は、各地で独立して行われている。手数料を取って冒険者に仕事をあっせんし、身分を保証し、様々な支援をすることで運営されている。

 仕事は、護衛、荷運び、採取、魔獣駆除、遺跡の調査など様々だが、大小さまざまな戦争など、国や貴族のドンパチには手を出さない。それは傭兵ギルドの職分で、互いに職域を侵犯しないように気を付けている。


「あれ? ミーシャじゃない。どうしたの? 昨日戻ってきて今日また出たばっかりなのに」


 その日の夕方。カンブレー村のギルドについたミーシャは、受付にいた看板娘のリリーに、顔が合うなりそういわれた。

 リリーは、15歳のごく普通の女の子。淡い金髪をツインテールにした、活発そうな顔立ちをしている。なお、ミーシャよりも2つ年下だ。

 彼女はギルドに寄せられた依頼が掲示してある、大きなボードを整理していたところだった。


「ああ、うん。ちょっと予定が変わってね」


「そうなんだー。あれ? その後ろにいる方は、だれ?」


「ああ。えっと。今度、新しくパーティを組もうと思って。でも、まだ冒険者登録をしていないんだ」


 ミーシャがそういうと、少しもじもじしながら、エリサがリリーに頭を下げる。


癒し手(ヒーラー)? そうだよね、ミーシャってソロだから、回復役とか必要だし」


「あの! わたし癒し手じゃなくて、魔……」


「そうなんだ! 実はエリサは、癒し手みたいな格好だけど、魔法使いなんだよ」


「へえ、そうなんだ。エリサさんとおっしゃるんですね。よろしくです」


 ミーシャがエリサの言葉を覆い隠すように言うと、リリーは特に意識せず、エリサに愛想よくあいさつする。


「じゃあエリサさん。新規登録の受付をしますね。こちらのカウンターへどうぞ」


 リリーはてきぱきと掲示物を片付け、受付用のカウンターにエリサを誘う。


「ああ、それと。爺さんいる? 討伐証明と、素材の買取があるんだけど」


「おじいちゃん? うん、2階の部屋にいると思うけど、呼ぼうか?」


「いや、こっちがいくよ」


 そういって、ミーシャはエリサに小声では話しかける。


「ここで、リリーが登録手続きをしてくれるんだけど、一人で大丈夫?」


 エリサは自信たっぷりの顔をして、


「わたし、読み書きできます。大丈夫です!」


 と応える。ミーシャは、一瞬眉をひそめて、


「エリサが魔女ってことは、2人だけの秘密だからね。リリーにも内緒だよ」


 そういってウインクをエリサに飛ばすと、エリサはちょっと頬を紅潮させ、わずかにうなづいた。


「すぐ戻るから。エリサはリリーにお願いして、手続きして。終わったらここで待ってて!」


 まあこれくらい大丈夫だろうと、思ったミーシャはエリサを置いて、ギルド1階のホールにある大階段を2階に上がる。この村の冒険者ギルドは、木造3階建て、食堂兼居酒屋兼宿屋兼道具屋兼修繕屋兼仮設賭場という、なんでもありの複合施設だ。2階の一角に、とある小部屋がある。室内は、入ってすぐに大きな作業台。その奥には小さな机に、様々なものが置かれた棚と、奥の方は倉庫に通じると思われる扉があった。

 討伐証明部位の照合と、それ以外の素材を買い取る特別な部屋である。

 そして、その部屋の主は、頭髪は見事にはげあがり、長い白ひげをたくわえた小柄な老人だった。


「おう、ミーシャか。お前さんがここに来るのは久しぶりだな」


「駆け出しのころは、よく世話になってたけどね」


「まぁ座れ。それと、何を持ってきたのか、ひとまずその台の上に並べておけ」


 ミーシャはソロで動く以上、けがのリスクが高く、荷物運びの手間もかかる『狩り』はあまりしない。他の仕事のついでにちょっと採ってきた薬種などは、リリーに渡しておけばすぐに換金してくれる。最初の頃はウサギだのなんだのを捕まえては、この部屋で査定してもらい、換金をしていたものだ。


「へへっ……爺さん、驚くぜ」


「ふん、驚くかどうかは、物を見てからじゃ」


 自慢げなミーシャがリュックから取り出した、蝋引き紙の包みをほどくと、老人は目を丸くした。


「おまえさん、これ、ヨツデグマじゃないか! 証明部位の掌に、それに胆と、おいおい、生殖器まで!」


「だろう? どうだ、驚いたか」


「いや、驚くなんてもんじゃないわい。これはお前さん、一山あてたな」


 老人は、品物を手に取りしげしげと改めると、


「本物じゃ」


 と断じた。それを聞いて、ミーシャはふふん、と鼻を鳴らす。


「どうよ。確かヨツデグマの討伐は、金貨20枚。あとは薬種だけど、今は発情期だから、安くはないわよねえ」


 ミーシャは頭の中で、金貨の小山がちゃりんちゃりんと心地よい音を鳴らしているのを想像した。

 だが、老人は部屋の壁につけられた伝声管から声が聞こえてくるのに気づき、そちらにかかりきりになる。


「なんだよ爺さん、トラブル?」


 老人は伝声管になにやら返事をすると、


「おうよ、お前さんの連れが、何やら大変らしい。孫娘が呼びよるわい」


 ミーシャはそれを聞いて、「えっ」と思ったが、老人と一緒に、1階へ降りることにした。

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