表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/69

第4話 ミーシャさんはお金大好き

 「へえ。あなたたち、あの狼たちの群れをやっつけてくれたの。こんな田舎じゃ、引き受けてくれる冒険者も少なくって、助かったよ」

 

 今日の目的地である村の冒険者ギルド。

 そばかすの浮いた明るい雰囲気の受付嬢は、ホールにしつらえられた大暖炉に薪をくべながら、ミーシャの差し出した狼のしっぽを見ていた。

 

 「えっ? すごい、もしかしてこれって、ヌシのしっぽ?」

 

 大きなしっぽがあることに気づいたとき、受付嬢はひときわ大きな声を上げる。

 そして、「ちょっとこれ貸して」というと、ヌシのしっぽをもって、奥の部屋へ行く。

 

 「お父さーん。ちょっこしぃー」


 やがて、金物がガラガラとぶつかり合って響く衝突音。

 ついで、豊かな鼻ひげを蓄えた、禿頭の親父が転げるように3人の前に現れた。

 

 「あ、あんたら、あのヌシを倒したのか!」

 

 親父は口にくわえたパイプを落としそうになりながら、食い入るようにミーシャに尋ねる。

 

 「ああ。あれ、やっぱりヌシだったのか。どうりでデカいわけだよなぁ」

 

 「本当。大きな狼でしたね」

 

 「正直、生きた心地がしませんでした。思い出しただけでもまだ震えがきます」

 

 どこか余裕のある3人の様子を見て、親父はあんぐりと口を開ける。

 

 「あいつは、もう何年も前からこのへんを根城にしとった狼のヌシなんだ。さんざん、家畜や旅人がアレの餌食になっててな。このへんの領主や商人組合から懸賞金出てたんだが、どうにもならん。だから、そろそろランツクネヒトにでも頼まな、なんて話してたんだよ」

 

 「ランツクネヒト?」

 

 「ああ、あんたらはこの辺のモンじゃないのか。だったら知らんだろうなぁ」


 この辺のモンであるモディラは、

 

 「ボクは「ランツクネヒトはよぉ、領邦地帯の男爵やら子爵やらの一族郎党連中でよ」

 

 「ボク、領邦「奴ら、年中戦争ばっかりしよるから、カネはねえが、腕っぷしはあらぁな」

 

 「ヴァーダン僧院の「で、傭兵団として大陸中をうろついてて、金目当てで何でもするのさ」

 

 そこまで言って、親父はへえ、と唸りながら、ヌシのしっぽをしげしげと眺める。

 モディラは不満げな顔をして、むすっと黙り込んだ。

 

 「……ところで、物は相談だが」

 

 急に親父は、ミーシャに顔を寄せて、声を潜めた。

 

 「な、なんだよ。急に怖い顔、近づけんなよ」

 

 ミーシャは親父が急接近したので、少したじろいだ。

 

 「あんたらが討伐したこのヌシの件、内密にしてくれんか?」

 

 「へ? なんでよ」

 

 「いやな」

 

 親父は少し苦い顔をして、

 

 「ここいらは、フリンジ辺境伯領ってことぐらいは、聞いたことがあるよな」

 

 「うん」とミーシャは気の抜けた返事をする。

 

 「そこによ、どうしようもねえドラ息子がおるんだ」

 

 「へぇ」とミーシャ。

 

 「ドラ息子?」とエリサ。

 

 「フィルマール子爵ですか」モディラが投げ捨てるように言う。

 

 すると親父は、「ドワーフのお嬢ちゃん、旅の人なのによく知ってるねえ」と驚きを込めた口調で答えた。

 モディラは褒められたことがかえって不服なのか、よけいに微妙な表情をした。


 「で、そのフィルマール子爵がどうしたのさ?」

 

 そんなモディラの様子を見ながら、貴族嫌いのミーシャは、ことさら興味なさげに言う。

 

 「辺境伯と言えば、武功あっての一門なんだわな。領邦地帯のはねっかえりやら、国境付近の山賊団、魔物なんかを討伐するからこそ、でっけえ領地を持ってる」

 

 「うんうん」


 「だがよぉ」

 

 そこで、親父はやれやれ、といったポーズをわざとらしくし、

 

 「そのドラ息子は、女の尻ぃ追いかけることはできても、武功の方はからきしなんだ。次期当主がそれだぜ? 今のフリンジ辺境伯、親の身としちゃあ、心配でならん」


「へえ、それは困りましたね」


 とエリサは、わかったようなわからないような返事をした。


「しかもフリンジ辺境伯、中風(脳卒中)で倒れて以来、政務はずっとドラ息子を代理にして、《スコラ修道会》の顧問団をつけてやらせているらしい。辺境伯本人は、公の場にも出てこない。めったなことはいえないが、もう実は亡くなっている、なんて噂もあるぐらいだ」


 親父の口から、スコラ修道会の名前が出たとき、モディラはちょっと嫌そうな顔をした。


「まあ、領内の権力を自分に集中させようとして、これまで有力な家臣を追放してきたツケだわな。ロクに忠誠を誓う家臣もいないし、唯一の嫡男はアレだし」


 そこまで言って、親父がさらに声を潜める。


「で、今ここに、領内を悩ましてきた狼のしっぽがあるってことだ」

 

 「あー、すると」

 

 そこでミーシャは、合点がいった。この狼は、ドラ息子が討ち取ったことにするのだろう。

 

 親父はぴしゃりと自分の禿頭をひと打ち、

 

 「わかるか。わかってくれるよな。これもまぁ、渡世の義理ってやつよ。俺たちギルドも、領主様には逆らえない。内証金はたんまりはずむからよ。ヨロシク頼むぜ」

 

 「いくら?」

 

 「通常の討伐報酬が、金貨30枚。内証金が、追加で20枚。あわせて金貨50枚(日本円で約250万円)」

 

 「悪くないね」

 

 ミーシャは、にやりと悪い笑みを浮かべる。

 いや、本当は、悪くないどころかすごくいい。

 ミーシャはまるで富くじに当たったかのようで、内心では踊り出したい気持ちでいっぱいだった。

 

 「むむ。なにかミーシャさんに、悪しき気配を感じます。聖典にいわく『企みのある人は偽りの笑顔を見せる』です」

 

 「本当ですね。モディラさん。ミーシャさんは、お金が絡むとこういう顔になるんです」

 

 「なんと。むむむ」

 

 モディラが少し渋い顔になると、

 

 「なにがむむむ、だ。モディラの取り分もあるんだからな」

 

 ミーシャは、モディラの頭をわしゃわしゃしながら言った。

 

 「はう。ボクはそのお金を受け取ってもいいのでしょうか」

 

 ミーシャに髪をくしゃくしゃにされたモディラが、ぼそりとつぶやいた。

月・水・金の20時半更新です!


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やはり!金!これに限る!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ