第2話 ドワーフの少女モディラ
礫は鋭く弧を描いて、狼たちに向かって飛んでいく。
それは当たりこそしなかったものの、
すぐにミーシャたちの存在に気づき、牙をむいて駆け寄ってくる。
「【雷陣】っ!」
その狼たちに、エリサが雷の攻撃魔法を投射する。
エリサの攻撃魔法の威力は、なぜかごくわずかしかない。
だが、狼たちは驚いて「キャン!」と一鳴き、もんどりうって転げまわった。
「今だっ!」
それを見たミーシャは、剣を振り上げ、狼たちのところへ躍り込む。
駆け寄りざまの一撃は、狼たちの分厚い毛皮と脂肪を切り裂いた。
刃をふるって瞬時に3匹を切る。
あたりにぱっと血が散り、間もなく3匹は息絶えた。
「キミ、大丈夫?」
3匹を倒したことを確認したミーシャは、木の上にいる子どもに声をかけた。
見上げると、エリサの祭服に似た格好の、どうやら女の子のようだ。
「たたた、助けて頂いてありがとうございますー!」
女の子は、枝を抱きかかえるようにしがみついていた。
「もう狼は倒したから。自分で降りられる?」
「あわわ。必死で登ったので、降りられるかどうかわかりませーん」
といったところで、バランスを崩して宙ぶらりんになる。
「お、お、落ちるー!」
足がぶらんと垂れ下がる。腕の力だけではとうていしがみつくこともできず、すぐに手が枝から離れた。
ミーシャが動いた。
「危ないっ!」
ミーシャはその真下にもぐりこみ、落ちてくるその子を抱きとめた。
ちょっと重たい。だが、ミーシャはしっかりとお姫様抱っこで受け止める。
緑色の瞳と目が合った。
「キミ、ケガはない?」
ミーシャが抱きかかえたまま声をかける。
女の子は、ミーシャの顔をぽーっと見つめてから、急に我に返り、
「だ、大丈夫です。 ありがとうございました!」
といって、のたくたとミーシャの腕から降り、深々と頭を下げた。
女の子の頭からは、ふさふさした毛に覆われた、短い立ち耳が生えていた。
「ん? キミ、亜人? それにその服装は?」
女の子は、身につけていた祭服の小枝や葉を払い落としながら、
「はい。ボク、モディラといいます。御覧の通りドワーフです。そして、ブノア修道会のヴァーダン僧院に所属しています」
モディラと名乗った少女は、一言でいえば、もふもふしていた。
背はエリサよりも拳2つ分ぐらいは背が低いだろうか。
とはいえ、頑健なドワーフ族の特徴で、肉付きはよい方である。
肩口で切りそろえたオレンジ色のショートボブから、ウサギのような短い立ち耳がのぞいている。
それに、祭服の隙間から見える手足は、髪と同じ色の短い被毛に覆われていた。
顔立ちは、ほぼ人間と同じだが、幼く愛らしい。
ただ、首はぐるっと、ふわふわした飾り毛に包まれているのが印象的で、見た目にはキツネの襟巻を巻いているようだ。
「あなたも、同じ祭服を着ておられるということは、《白魔女の娘》なんですか?」
モディラに話しかけられたエリサは、ぽかんとした顔つきで、
「《白魔女の娘》?」
するとモディラの立ち耳がびくっと跳ねる。
「えっ。じゃあその祭服は? ブノア修道会の人ではないんですか?」
飾り毛のあたりが、少しびりっとしたように逆立つ。警戒しているのだろうか。
「この服は、わたしの師匠が遺してくれた形見の品なんです」
「師匠とおっしゃると?」
「魔法のです」
するとモディラは、「なるほど。じゃあ、エリサさんのお師匠様は、白魔女様の敬虔な《娘》だったのかもしれませんね」
一人で勝手にうんうんと得心がいったようだった。
「でも。エリサさんは、こんなカッコいい方と一緒に旅をされているんですよね。いいなー。ボクも早く、かっこいい伴侶を見つけて冒険の旅に出たい」
モディラは、ミーシャの方を見上げる。その瞳は、さっきに比べて心なしかキラキラ度合いが増している。
「修道女なのに、冒険の旅に出るのか?」
「ボク、《聖女》になりたくて。そのためには伴侶を見つけて、人助けの旅をしないといけないんです」
「モディラは、《聖女》になりたいのか?」
モディラは「はい!」と元気に返事する。
「ところで、どうして、こんなところに一人でいたの?」
「ヴァーダンからのお使いの帰り道だったんです。でも、その途中、狼に追いかけられて」
「それで、この木に登ったわけ?」
「はい。それなら1匹ずつしか来ないだろうし、魔法で追い払うことだってできると思って。でも、木へ登るときに、魔法を使うのに必要なワンドを落としてしまったんです」
モディラはそういうと、自分が登っていた木の根元あたり、落ち葉をがさがさとかき分けて、簡素な彫刻が施されたカシの短杖を見つけ出す。
「あったあった。よかった。無くしたら、また司祭様に怒られるところだった」
(また?)
ミーシャは、そこに引っかかったものの、あえて突っ込まないことにした。
「それはそうと、モディラはこの後どこまで行くの?」
「フリンジ辺境伯領の主都シャロンです」
「ヴァーダンからだと、この道って、遠回りじゃんか」
すると、モディラは「アルゴンヌの森を真っすぐ抜けたらすぐなんでしょうけど」ともじもじする。
「まさか、道を間違えたのか?」
ミーシャがまさか、という顔をすると、モディラは顔を真っ赤にしてうつむき、小さくうなずく。
「おいおい。ここ、アルゴンヌの森の南端だよ。2日か3日は余計に遠回りしてる」
「お恥ずかしい限りで……」
いよいよモディラが消え入りそうな雰囲気で恐縮した。
「ミーシャさん。あんまり、小さい子をいじめちゃだめですよ」
すると、エリサがモディラをかばうように、ミーシャの前にたちはだかる。
「いや、別にいじめるだなんて。ちょっと遠回り過ぎて、びっくりしただけだから」
あわててミーシャがエリサに弁明する。
「あの、実は道に迷ったのもあるんですけど、実は、いまアルゴンヌの森って、それはそれは恐ろしい盗賊団も出没してるみたいなんです。途中の村でそういう話を聞きました」
「そうなんだ。だったら」
その方が、この子にとってはかえって命拾いだわな、とミーシャは思った。
「アタシたちも、シャロンへ向かう途中なんだ。一緒に行く? その方が、安全だろ?」
「いいんですか!」
ミーシャからの思いがけない一言に、耳をぴん!と立てて、喜色を示す。
「はい! ありがとうございます。お二人に白魔女様のご加護がありますように!」
(加護を得たのはモディラの方だと思うけど)
ミーシャはちらっとそう思ったが、何やら気配を感じて、すぐに顔つきを変える。
エリサも感づいたようで、ミーシャに視線を送ってきた。
「仲間が来たみたいだね」
突如、周囲に剣呑な空気が漂い始めた。
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