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第1話 ツンから始まる百合冒険譚。

挿絵(By みてみん)



鬼殺し(オーガスレイヤー)』。

 本人からすれば不本意な二つ名を持つ赤毛のミーシャは、危機に陥っていた。

 


 相棒である自称《魔女》のエリサが、ミーシャには目もくれず、前を向いてさっさと歩いている。

 秋の深まる季節。白樺の森を抜ける街道を2人は歩いていた。


 「ねえ。エリサってば」


(ツーン)


「ごめんよ。あやまるよぉ。だから機嫌治してよ」


(ちぇっ。なんだよ。何が悪かったんだよ。……ったく)


 ミーシャは困惑しきっていた。

 2人がパーティを組んで旅をする出発点となった、カンブレーの村を出たのは、数か月以上前。

 

 旅の発端は、エリサが追い求める《魔導書》探しを、ミーシャが手伝うようになったことだった。

 それから2人は、魔導書を探知する力を持った《魔法の羅針盤》を頼りに、旅を続けているのである。

 

 これまでの足取りは、霊峰ガルガンティアを回り込むように、街道をたどってずっと北へ。

 その道程で、事件やトラブルなどはいくつも起きたが、2人は仲良くやってきた。

 だが、なぜか今朝からエリサの機嫌が麗しくない。


 何が言っても「別に」とか「さぁ」とかしか言ってくれない。

 

 アタシ、なんか悪いことしただろうか。

 ミーシャは胸に手を当てて考えてみるが、何も思いつかない。


「エリサー。どしたのー?」


(ぷいっ)


「もしかして、お腹痛い時期になったー?」


(つーん)


 エリサは「ふん」と鼻息を鳴らしながら、とすとすと、降り積もる落ち葉を踏んで歩く。


 弱りはてたミーシャは、腰のポーチの中を探る。


(よし、こうなれば奥の手だ)


 そうして小さな四角いそれを取り出すと、エリサに向かって見せびらかす。


「ほーらエリサー。キャラメルミックスナッツだよー。おいしいよ」


 砕いたナッツをキャラメルで固めた携帯食だ。

 甘くておいしい。ナッツと甘いものが好きなエリサは、これに目がなかった。

 すぐにひくひくと鼻を鳴らし、ちら、とミーシャの方を見る。


 「ほーら、こっち向いてー」


 エリサの近くに、ミックスナッツを持っていく。

 すると、エリサはミーシャの手から恐るべき速さでミックスナッツを掠め取る。


「!!」


 斥候職(スカウト)であるミーシャは、一般人よりも敏捷性や動体視力に優れている。

 普通だったらエリサの動きなど、亀がのたのたしているぐらいのものだ。

 だが、刹那のうちに掠め取られたミックスナッツは、エリサの口の中に素早く収められていく。


 その間、エリサはミーシャとは目を合わせようとしない。


(とられ損かよ)


 と思ったミーシャは、ふと、エリサの頭に、きらりと輝く何かを見つけた。

 

 そのとき、ミーシャは(あっ!)と思った。

 あれは、昨日泊まった町の市場で買った髪飾りだ。

 エリサに「この中でどれが一番かわいいと思いますか?」と問われて、何も考えずに直感で選んだもの。

 

 あんまりうれしそうにするから、プレゼントとして買ってあげた。そんなに高い買い物でもなかったし。


 「エリサ、落ち葉が頭に」


 一計を案じたミーシャは、そしらぬ顔でエリサの髪に軽く触れた。

 エリサが振り向き、ギッ! と睨んでくる。だが、たいして怖くない。


「あれ? その髪飾り、つけてくれてたんだね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ミーシャは、声のトーンを少し落とし、王子様ボイスでエリサにささやいた。


「…………!」


 みるみるエリサの顔が紅潮し、雪解けの時期が来たようだ。

 エリサは、ちょっと髪飾りをいじいじと手で触れた後、


「えへへ」


 と恥じらいつつ笑う。そして、その場でくるんとターンして、


「そうですかぁ似合いますかぁ。やっぱりぃ、ミーシャさんが選んでくれたものですからぁー」


 と言って、体をくねくねさせた。それからエリサは、急に足取りも軽く、


「さぁ。日が暮れる前に、次の目的地までがんばりましょう!」


 といった。


 と、その時である。


「……っ。ごめんエリサ、ちょっと静かに」


 ミーシャが耳に手を当てて、周囲の音に意識を向けた。


 エリサは、ミーシャが構ってくれなかったからか、ちょっと頬を膨らませた。

 だが、今は構っていられない。


 遠くのほうでかすかに聞こえる、遠吠え。


「狼だ」


 ミーシャが小声でつぶやくと、エリサの表情にも緊張が走る。何か言いたそうな顔をするが、押し黙った。


「声の出所は、この先かもしれない。これから先、少し用心しておかないと、危ないかも。行こう」


 ミーシャは周囲を警戒しながら、先を急ぎ始めた。

 エリサが慌てて、その後を追う。

 背後にエリサが追いついた気配を感じたミーシャは、一言。

 

 「その髪飾り、やっぱり似合うね。いいと思う」


 とつぶやく。

 エリサが再びくねくねしそうになったので、ミーシャはエリサの手を取って歩き出した。


 

 しばらく行くと、ミーシャは道の隅に、狼の糞を見つけた。

 木の枝でつつくと、まだ柔らかく、湿り気がある。


「狼が近くにいるかもしれない。気配は無いけど」


 エリサが無言でうなずく。


 さらに道を進む。やがて2人は、遠くに狼の姿を見つけた。

 街道沿い、一本の白樺の周りを、数匹の狼たちがぐるぐると回っている。


(あれ、なんでしょう?)


(何かあの木にあるのか?)


 2人が遠くから様子を見ると、(あっ!)とミーシャが小さく叫んだ。


 人だ。白樺の枝に、人がしがみついている。それも、子どもだ!

 エリサと似た服を着た子どもが、必死で枝にしがみついていた。


「助けなきゃ。あの子、危ないっ」


 ミーシャは、ポーチの中から石礫を2つ3つ取り出した。

 

 そして、木の上の子どもに意識を取られている狼たちにへ投げつけながら、(ショートソード)の鞘を払う。

 

 エリサも何やら呪文を唱えながら、その後を追った。


挿絵(By みてみん)



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かわいい。 王子様ボイスなんてしたらそれはそれは火力が高い
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