第49話 決戦!
ボス戦です!BGMにどうぞ。
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ミーシャたちが祠から出て、眼下の巣の様子を見たとき、そこでは死闘が繰り広げられていた。
身の丈はゆうに20尺(約6メートル)を超えるだろう、巨大なトロルである。頭部、背中、肘などからは、いびつに角のような突起がいくつも生えていた。ゴブリンの頭からは長い舌がだらりと伸び、よだれを垂らし続けている。
腕は2本。これも長さ20尺はあるだろうか。太さは成人男性の胴回りほどある。かぎ爪はないが、岩のように固く分厚い皮膚に覆われている。これで軽くぶたれただけでも、人間には致命傷だ。何より、太いのは腹である。槍で刺したところで、固い皮と分厚い脂肪、そして筋肉により、わずかな傷しか与えることができないだろう。つまり、致命傷を与えることは困難だ。
そして、そのトロルを相手に、騎士や冒険者たちが絶望的な戦いを強いられていた。
見ると、騎士と冒険者をはじめ、ガマガエルのモリス、騎士のアンドレやリンドムートらが、死力を尽くして、トロル化したル・ガルゥに攻撃を仕掛けている。だが、ロングソードやポールアームなどでは、皮膚をひっかいた程度の傷しか与えられず、モリスの魔法もわずかな足止めや目くらまし程度しか効果がない。
ぶん、とトロルが腕を振るうと、跳ね飛ばされた冒険者が、空高く舞い上がる。
トロルはそれを乱雑にわしづかみにすると、がぶり、と一口で食いちぎる。
「げえっ!」
ミーシャは思わず嫌悪に顔をしかめ、エリサは目を背けていた。
「遠巻きにしろ! 近づくとやられるぞ! 飛び道具で顔を狙え!」
リンドムートが指揮して、全員が距離を取る。
弓や投げ槍を飛ばすが、トロルは痒そうにそれを振り払う。
「な、なんだあいつ……」
「あの顔、魔法使いのゴブリンです……っ」
2人は怖気を感じた。エリサは、【鑑定】の魔法を使って相手の性質を診る。
「……やっぱり! 魔法使いのゴブリンと、私たち戦ったトロルが融合して……強化してる!」
エリサが、ぞっとした顔でミーシャを見た。
敵が遠巻きになったのを見て、トロルは、腕を一本、下から上にすうっと上げる。
「やばい、あの動作は! みんな、逃げろっ!」
ミーシャが叫んだ。
その直後、トロルの周囲の岩石が浮かび上がり、四方八方に飛び散る。
騎士の一人が、子どもほどの大きさの岩に跳ね飛ばされた。
くるくると空中を待って地面に落ちた後、痙攣して動かなくなる。
「【石弾】の魔法!」
「くそっ! あいつ、魔法まで使いやがる!」
崖の上から戦況を見て、2人は顔を見合わせる。
怖い。はっきりいえば、いますぐ逃げ出したい。
だが、騎士や冒険者たちが骸をさらし、また重傷を負って無力化した者も少なくないのを見て、
(やるしかない)
とミーシャは覚悟した。エリサと目が合う。エリサは、無言でうなずいた。
「どうする?」
「ここにある岩を、魔法でぶつけます!」
エリサは祠の周囲に散らばる、人間大の岩たちを指さして言った。
「そんなこと、できるの?」
「今なら、できます!」
エリサが凛とした表情で断言したので、ミーシャは、
「わかった。みんなを安全なところに逃がして、アイツの注意を惹く。時間は?」
「今すぐにでも!」
そういうと、エリサは目を閉じ、強く集中し始める。
わずかにエリサの体が白く発光し、ふわり、とローズゴールドの髪が宙に浮かぶ。
岩がゴトゴトと唸り、わずかに浮かび始めた。
ミーシャはそれを見て、崖上から眼下に向かって叫ぶ。
「みんな! そいつから離れて、物陰に逃げろ!」
全力で叫んだ。一瞬、ル・ガルゥも動きを止め、ミーシャの方を見る。
「わかった!」
リンドムートが叫んで返す。
それから、人間たちは直後、クモの子を散らしたようにル・ガルゥから逃げだした。
ル・ガルゥはどの人間を追おうか少し迷った挙句、崖の上のミーシャに狙いをつけて動き始める。
「エリサ!」
「はい!」
エリサが【念動】の魔法を発動させ、無数の岩々を空高く浮かびあがらせた。
そして、まるで雨のようにル・ガルゥに向かって降り注がせる。
それは攻城兵器の投石機を、何十台も動員したかのような猛攻撃であった。
ル・ガルゥは1つ、2つ程度の岩は、腕を掲げてはじいていたが、やがて十、二十と降り注ぐにつれ、腕、頭、胴と激しく打ちのめされ、やがて頭を抱えて丸くなった。
「効いてる!」
ミーシャはル・ガルゥが弱り果てているのを見て、エリサに向かって叫ぶ。
「ミーシャさん、行ってください!」
「えっ!?」
「大丈夫です。行けます。ミーシャさんの剣で、斬ってください! さぁ、ここから飛んで!」
エリサの言葉に、ミーシャは崖下を覗き込んでたじろいだ。ここから飛び降りれば、普通に死ぬ。
「いや、それは無茶だって……」
「いいから!」
エリサのすごい剣幕に、ミーシャは(ええい、ままよ!)と覚悟を決めた。
そのとき、ミーシャの瞳がすぅ、と赤い光を宿す。
ミーシャはショートソードを抜きはらうと、
「でやあああああああっ!!」
一声叫び、崖下にいるル・ガルゥ目がけて飛んだ。
飛んだ直後。
(え……行ける?!)
ミーシャは不可思議な確信を抱いた。体の動きが全てコントロールできている。
力の入れ加減、視覚、聴覚などの五感、すべてがクリアになっていた。
ミーシャは落下しながら、ショートソードを突き立てる体勢になる。
だが、相手もやすやすと殺されはしない。
ぶうん! とうなりをあげて、巨木のような腕がミーシャを払いのける。
「ぐわっ!」
ミーシャは避けることもできず、その一撃に薙ぎ払われた。
普通の人間なら、この一撃でぐしゃぐしゃになるだろう。
戦いを見守っていた誰もが、そう覚悟した。
だが、ミーシャは払い飛ばされながらも、空中で体勢を整え、崖を足場にして、あきらめずにル・ガルゥに飛びかかる。
「グガアアッ!」
再び、ミーシャを払いのけようとする剛腕。だが、ミーシャは、迫りくる腕を一刀のもとに切り捨てた。
切り飛ばされた腕は宙を舞い、やがて、どう……という地響きとともに、もうもうと土煙が上がる。
「ギャアアオウ!」
ル・ガルゥは苦悶の表情を浮かべたが、3本の手の1つで落ちた腕をつかみ上げ、残りの2本でミーシャに打撃を仕掛ける。その間にも、彼は拾った腕をバリバリと食らう。
ミーシャはその間に着地して、剣を構える。
「ミーシャさん!援護します!」
エリサは錫杖を振るって、【雷陣】! と電撃を飛ばす。
すると、杖の先から激しい稲妻が巻き起こり、ビシャン! とル・ガルゥを打った。
「ギャアアアアアア!」
ル・ガルゥは、強烈な電撃を受けて倒れ伏した。頭を抱えて守ろうとするが、体がしびれてあまりうまく動かない。
「今だ!」
ミーシャは、電撃により痺れを起こした隙を見逃さなかった。
跳躍し、剣を一閃。
頭をかばうようにしていた腕と腕の隙間、わずかにさらしていた頸部に、一撃を加える。
一瞬の間、そして、吹き出す鮮血。わずかな間の後、ル・ガルゥの首が、どん、と地に落ちた。
切断した頸部から、おびただしい血が噴出する。
さらに少しの間があり、頭部を失ったル・ガルゥの巨体が、激しい地響きを立てて地に倒れ伏した。
「……勝った」
ミーシャの記憶は、そこで途切れた。
明日21時半更新です!
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