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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合冒険譚。

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第48話 祠の中にて(下)

 白い光が、狭い祠の中を駆け巡る。風は強く吹き、光とともに渦を作り出していた。

 ミーシャは吹き飛ばされそうになりながらも、何とかこらえていた。

 

 エリサは変わらず、人形のように渦の中心に立ち続けている。

 ミーシャは、光と風が自分の体を貫通する、奇妙な感覚(それでいて痛みなどの嫌な感じはなかった)に包まれていた。不思議なことに、この光と風に触れるたび、ミーシャは自分の体内に力が湧いてくるような感覚を得る。

 どれほどそれが続いただろうか。体感としては四半刻(約15分)、実際にはごくわずかの時間だったであろう、やがて光と風は穏やかに収束し、すべてが魔導書の中に吸い込まれていった。

 

 後には、静寂に満ちた岩室の祭壇と、無言で立ちつづける2人の姿がある。

 

 「エリサ?」

 

 「……」

 

 「エリサ、だいじょぶ?」

 

 我に返ったミーシャは、おそるおそる、いまだに人形のように硬直したままのエリサに歩み寄る。そして、震える手で、そっとエリサの肩に手を置こうとする。

 

 その途端、バチッ、と小さな稲妻がはじける音がして、かすかな痛みと衝撃が手から伝わってくる。

 

 「きゃっ」

 びっくりしたミーシャは、自分でも思いがけず、かわいらしい声を上げて、慌てて手を引いた。

 

 「ミーシャさん……」

 

 すると、エリサが抑揚のない声で、ミーシャの名前を呼んだ。

 

 エリサは、木偶人形のように機械めいて、ゆっくりと、ミーシャの方を見る。

 

 その顔は、一切の表情がない。目も死んだように、茫洋としている。

 

 「え、エリサ?」

 

 ミーシャは困惑した。あのかわいらしいエリサが、今は死霊のようで、とても恐ろしく見える。

 

 「ミーシャさん……」

 

 エリサは、手にしていた本を両手で胸に抱きしめると、一転表情を崩して、

 

 「いまの『きゃっ』って、すっごく可愛かったですね! もう一回言ってください!」

 

 と言った。

 

 ミーシャは思わず、へなへなとその場に崩れ落ちた。

 

 「あら。ちょっといたずらが過ぎちゃいましたか」

 

 エリサはいつもの様子に戻ったようで、手に入れた魔導書をいそいそとローブの内側にしまい込んだ。

 

 「エーリーサーっ」

 

 ミーシャはそんなエリサの様子を見て一安心すると、急にムカムカとした怒りが沸き上がり、飛び起きるとエリサの両頬を指でつまむ。

 

 「あのねえ、心配したんだからねえ!」

 

 「ふひはへん(すみません)」

 

 「反省の色が足りない!」

 

 ミーシャはちょっと強めに、エリサの頬を引っ張る。

 

 「ほへふはひゃい、ひーひゃひゃん(ごめんなさい、ミーシャさん)」

 

 エリサは涙目になりながら、両手をじたばたとさせる。

 

 「そういう悪い娘には、お仕置きが必要だよねぇ」

 

 ミーシャは少し意地悪な目をして、片手の親指と人差し指でエリサの両頬をぷにゅっとつかむ。

 

 「お、おしゅおきでしゅか?(お仕置きですか?)」

 

 エリサは変にゆがんだ口のためにまともにしゃべれず、まぬけな声を上げる。

 

 「そう、お仕置き……」

 

 ミーシャはエリサの頬をつまんでいた指を下方にスライドさせ、顎を指先で、くい、と持ち上げる。そしてそのまま、2人の距離が近づき、エリサが何かを察したのか、目を閉じたのを見て、

 

 「ふごっ」

 

 やおらミーシャは、人差し指でエリサの鼻をぐい、と押し上げた。

 

 「オ、オーク鼻……っ」

 

 ミーシャは、ぼそりとそういって、一人で笑い始めた。

 

 エリサは色々な意味で恥ずかしい思いをしたのか、真っ赤になって、

 

 「もー! ミーシャさんの意地悪!」

 

 「そう。アタシ、意地悪なの」

 

 ミーシャの言葉に、猛抗議をしようとしていたエリサの唇は、それから、完全な不意打ちでミーシャの唇によって一瞬ふさがれた。

 

 だが、その直後。

 祠に強い衝撃がかかった。ドォン、という地響きとともに、祠全体が地震のように激しく揺れ、やがてぱらぱらと天井から細かい石くれが砂粒とともに落ちてきた。

 

 「な、何だよっ。せっかくこれからってときに!」

 

 ミーシャはとっさにエリサを抱え込んでかばいつつも、祠の外に向かって悪態をつく。

 

 エリサは不意に唇を奪われたことにドギマギしながら、

 

 「ミーシャさん。そ、外に出てみましょう!」

 

 ミーシャの胸から離れて、いそいそとランプを操作し、石扉を開けた。

 

 外に出た2人が見たのは、文字通りの死闘だった。


 ◇


 さかのぼること少し前。

 リンドムート率いる討伐部隊は、ミーシャとエリサが祠の方に向かっていったことに気づく余裕もなく、トロルとヘルハウンド、そしてゴブリンたち相手に激戦を繰り広げていた。負傷者を出しながらも、彼女たちは魔物たちを駆逐していく。

 やがて、ポールアーム部隊によりトロルをめった刺しにして勝利をおさめた後、

 激しい破壊音が、北の方から聞こえてきたことに誰かが気づいた。

 

 「あ、あそこ! ミーシャたちがいるぜ!」

 

 「ホントだ。え、なんだあれ? 腕が四本あるトロルがいるぞ!」

 

 「なんだ、あいつら、このままじゃ死ぬぞ!」

 

 熊トロルが激しく暴れ、石の柱や壁をなぎ倒す轟音により、エリサが祠周辺に施した【認識阻害】の効果は完全になくなった。

 

 「救援部隊を送る。アンドレ率いる騎士8名、救援に向かえ!」

 

 リンドムートはただちに部下にそう命じた。

 

 「姐さん! 俺らにも行かせて下せえ! あいつらを見殺しにはできん!」

 

 「そうだ。俺ら冒険者だって、ああいう手合い相手にやってきたんだ!」

 

 すると冒険者の数名が、リンドムートに向かって叫んだ。

 

 「よし、では志願者はアンドレの指揮に入り行け。ただし、この討伐の目的は掃討だ。他の者は、速やかに巣の中にいるゴブリン、コボルトどもを殲滅せよ」

 

 冒険者たちは素早く目配せし、騎士についていく数名が選出された。冒険者は、こういう時の行動はとても速い。

 「では我らはこれより2人の救援に向かいます!」

 

 アンドレがリンドムートに報告し、いざ出発となったそのとき。

 

 「「「な、なんだ!?」」」

 

 ドォオオン!という轟音とともに、巨大な爆発が祠で起こった。一瞬、強烈な光がその場にいる者たちの視界を奪った。爆風がすさまじい勢いで飛び、リンドムートたちのいる場所にも、石の破片がバラバラと舞い落ちてくる。

 

 「な、何が起こった!?」

 

 リンドムートは思わず叫んだ。

 少しして、祠のあたりの土煙が消える。柱や壁ががれきと化し、破壊力のすごさを感じさせる。

 

 「トロルの姿がないぞ!」

 

 「あの二人、無事なのか?」

 

 「いや、あの爆発だろ? 普通だったら……」

 

 「そもそも、何で爆発したんだ!?」

 

 やがて、奇妙な静寂が場を包む。

 

 皆考えたくないのだ。ミーシャとエリサが爆発に巻き込まれてしまったことを。

 

 静寂を破ったのは、ひょろ長の冒険者だった。

 

 「なあ、だれか、様子を見に行った方が、いいんじゃねえか?」

 

 今度はみんな、お互いに顔を見合わせる。

 

 「誰も行かぬか。ならば、私が行こう」

 

 リンドムートが言った。

 

 「おやめください。何があるかわかりません!」

 

 アンドレがすぐさま、主人の行動をいさめる。

 

 「だめだ。こういう時こそ、私が行かねば」

 

 リンドムートはロングソードに付いた血のりを、腰に手挟んでいた雑布で拭って清める。

 

 彼女の手にした剣が、朝の陽光に照らされてきらりときらめいた。

 

 「ともに行く勇者はいるか?」

 

 リンドムートがぼそりというと、その場にいる男たちの顔つきが変わった。

 アンドレはその様子を見て、自分自身も身震いを感じながら(これが、この方の将器なのだろう)と強く思った。

 

 そして、皆が志願しようとしたその時、

 

 「おい、新手が来やがった。ありゃあ、ここの主だぜ、きっと」

 

 ひょろ長の冒険者が、祠の方を向き、顎をしゃくって皆に伝えた。

 そこには、崖の上の祠から飛び降りて来る、巨大でいびつなトロルの姿があった。

明日の21時半更新です!


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では、また次回もよろしくお願いします!

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ミーシャさん!?!?やるときゃやる女だぜ!! 魔改造トロルさん生きとるやんけ!!!
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