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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合冒険譚。

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第44話 遺跡での戦い(下)

 (やばい、やられる、かも)

 

 ミーシャは、再び繰り出されるトロルの重撃を避けようとした。だが、足がすくんで動かない。

 

 「ああっ、ああああああっ!」

 

 昏く空虚な光を宿したトロルの小さな目が、ミーシャに狙いをつけていた。

 そして、渾身の一撃が振り下ろされる刹那。


 「【炸裂球】っ!」

 

 トロルの顔に、高速で飛来した光の弾がぶつかり、激しい音をさせて爆発した。

 何が起きたか分からないトロルは、この不意打ちに驚き、バランスを崩し前のめりに倒れる。

 ミーシャは我に返り、ぱっと飛びのくと、この戦場に似つかわしくない、いい匂いがして、ふんわり柔らかいものが抱きついてきたことに気が付いた。

 「ミーシャさん!」

 

 「エリサ……助かったよ!」

 

 ◇

 

 ミーシャがトロルに攻撃される、ほんの少し前。

 突入部隊の戦いぶりを見ていたリンドムートは、まずい、と思った。

 緒戦こそ圧倒的有利に進めており、このままいけば順当に作戦通りとなるとみていたが、ゴブリン側の投石攻撃が始まり、部隊が分断されたときに、雲行きが怪しくなった。

 

 「伏兵による投石か……こんなこと、あり得るのか?」

 

 「ゴブリンは簡単な道具を使うと言いますが……伏兵など聞いたことがない」

 

 リンドムートと壮年の騎士は、戦況を冷静に観察しようとしていたが、

 

 「ああっ、ミーシャさん! 危ない!」

 

 エリサは、遠目からでもよく目立つミーシャの赤毛を目で追い、ハラハラしていた。

 

 「東側の制圧を行っている部隊は、アンドレが指揮しているのか?丘陵のせいで全く様子がわからないが、同じような状況なのだろうか」

 

 「その可能性もありますが、そうなれば、第1班の後退した部隊と一部が合流するはず……そうなっていない以上、おそらくは、また別の状況なのかと」

 

 すると、エリサが「ああっ」と小さく叫ぶ。

 

 「どうした?!」

 

 「巣の後方から、トロルが……! 後ろに逃げた人たちが、襲われています!」

 

 「何ッ?!」

 

 どこに気配を消していたのか、大柄なトロルが2体、木々の間からぬぅ、と現れ、巣の入り口あたりにいた負傷者を含む部隊を蹂躙し始めた。

 

 「また伏兵かっ」

 

 「きっとあれは、魔法の効果です。そうじゃなければ、あのあたりに隠れるところなんてないはず」

 

 エリサは、そういって祠の方を見た。すると、祠の前にある小高い広場のような空間で、大きなゴブリンが何やら魔法を使っているのが見えた。なお、この光景は祠一帯に施したエリサの【認識阻害】により、リンドムートたちからは気にも留められていない。

 

 「リンドムートさま。おそらくここには、魔法使いがいます。おそらくは、以前お見せした大きなゴブリン。あれがここの長であり、人間並みの知恵があって、魔法を使うように思います。そうでなければ、これほどのことはできません」

 

 エリサは、ただでさえ白い肌をさらに蒼白にして、少し声を震わせながらリンドムートに申し出た。

 

 リンドムートはエリサの様子に少し驚きながら、

 

 「して、そなたはどうすればいいと思う」

 

 「その魔法使いは、わたしが探し出して倒します。それに、何かおかしいと思いませんか。これだけ激しい戦いが起きているのに、ゴブリンたちはみな戦おうとするものばかり。メスや子どもたちが逃げまどう気配すらありません。獣や魔物は、ふつう、襲われれば逃げ出すものです」

 

 エリサの言葉に、リンドムートははっとした。もしや、巣への襲撃が事前に見抜かれ、非戦闘員のゴブリンたちが避難をしていたら。仮に自分がこの巣の長だったら、戦うことが避けられないとわかっていればどうするか。

 敵にとって地の利が無い巣の中に引き入れて、何らかの方法で分断し、そこにトロルを集中してぶつけて各個撃破、せん滅する。

 

 「作戦変更ッ。我々は直ちに救援に向かう! 目標はトロルの制圧! あれらさえ駆逐すれば、敵の戦力は大きく削げる!」

 

 リンドムートの号令に、別動隊の者たちが一挙に臨戦態勢になる。

 

 「エリサ、そなたは魔法使いを探し出し、それを討て。必要ならば、あの赤毛の冒険者とともに行動せよ。遊撃を許す!」

 

 「わかりました!」

 

 そのとき、「ああああああっ」というトロルの雄たけびが聞こえ、2体がミーシャに襲い掛かろうとするのが見えた。

 

 「ミーシャさん!」

 

 エリサは茂みから飛び出すと、斜面に向かって勢いよくジャンプする。

 

 「あ、エリサ殿!」

 

 壮年の騎士が慌てて声をかけるが、エリサは空中で【浮揚】の魔法を自らにかけると、ミーシャ目指して素早く滑空していった。

 

 「皆よく見よ。魔法というのは、これまでは弓矢の代わりに過ぎなかった。だが、おそらくこれからの戦の形を大きく変えるに違いない。しかし、我々はまだ地を這って進まねばならないらしい。では、総員、突撃!」

 

 そうしてリンドムート以下15名の精鋭が、斜面を下り救援に向かって行った。


 ◇


 時間は現在に戻る。

 ミーシャは、ゴブリンたちが投石に使っていた大きな石を両手で持ち上げると、【炸裂球】でショック状態に陥っているトロルの頭に叩きつけた。トロルは動転したまま、ミーシャを突き飛ばそうと、腕をむやみに振り回す。ただ、腕の可動域にミーシャたちが入らないらしく、逆に近くにいた不用意なコボルトをひっかけると、遠くに放り投げる始末だった。

 

 「この! 死ね!」

 

 ミーシャは2つ、3つと大きな石を執拗に叩きつけると、やがて頭蓋骨が割れたのか、トロルはうつぶせのまま血を流し、腕を急にだらしなくたらして、2,3回大きく痙攣して動かなくなった。

 

 ミーシャは、顔についた返り血を手で拭うと、

 

 「まずは一匹! うらあああああっ!」

 

 大きく叫んだ。周囲の人間たちが、わっと沸いた。

 

 「ミーシャがやったぞ!」

 

 「俺たちも続け!」

 

 「女に負けてたまるか!」

 

「強い女は、かあちゃんだけで十分だ!」

 

 冒険者たちの戦意が急に上昇し、その熱気に当てられたのか、騎士たちもさらに奮戦し始めた。もう一匹のトロルは、なおもミーシャを狙おうとしていたが、すでに冒険者や騎士に取り囲まれて押され始めている。

 

 「ミーシャさん。ケガはないですか?」

 

 エリサは、少し落ち着いた様子のミーシャに近づくと、彼女の頬に掌で触れた。

 

 「かすり傷、打撲、擦り傷、たぶん、頭にこぶもできてるかも……でも、まだ全然大丈夫。エリサは?」

 

 「わたしは大丈夫です。そして、リンドムートさんたちがこっちの救援に向かっています」

 

 ミーシャは下の階層を見ると、すでに騎士たちの増員が加わり、激しい戦いを繰り広げていた。その中には、自らロングソードをふるい、トロルと打ち合いをするリンドムートの姿もあった。

 

 「うわ、あの姫騎士様。まともにトロルとやり合ってら」

 

 「わたしたちは、あの大きなゴブリンと戦えるよう、許可をもらいました。早くいきましょう。この隙に、祠の中の魔導書を」

 

 「よし、わかった。行こう!」

 

 エリサの言葉を聞いて、ミーシャは即答した。そして2人は戦線を離れ、祠の方に向かって走り出した。

平日月・水・金の21時半更新です!


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