表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合冒険譚。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/69

第42話 戦闘開始!

 突入の合図は、森の中で、少し空が見えるところに射られた矢だった。

 

 「矢なんか射ったって、わかるもんかねぇ」

 

 「音出すよりは、ゴブリンに気づかれにくいからいいかもしれないぜ」

 

「それによ、森の中んだから、鏡を使った通信の方が難しい。『今から始める』が伝わればいいんだから、とりあえず矢でも射ておけばいいんじゃねえか?」

 

 「なるほどね」

 

 騎士が矢を2本射たのを見つつ、ミーシャたちは小声でささやき合った。

 

 「よし、突入開始。軽い駆け足で進め」

 

 指揮官含めて35人。突入点に整列した一団が、アンドレの号令を受け、ゆっくりと動き始める。

 

 巣の南側は一直線の通路のようになっていたが、それは森の中まで続いていた。

 通路は、大人5,6人が横に並んで楽に歩ける幅がある。そこだけ木が生えておらず、まばらに膝下ぐらいまでの草が生えているくらいだ。よく見ると、草や土の隙間から、大きな平たい石が敷かれているのに気が付いた。

 軽い駆け足で巣まで向かうことにしたのは、罠を警戒してのことであったが、これならば罠を仕掛けるところもないので安心だった。

 

 「あれが入り口か。ありゃ石造りの神殿みてえだな」

 

 「だな。何とはなしに、お宝の匂いがするぜ」

 

 一団の目の前に見えているのは、大きい柱状の2本の石が、その左右を土壁に覆われて直立している様子だった。見た目には、まるで城門であった。

 

 「突入後、2班に分かれる。前方の第1班はそのまま直進、後方の第2班は左折だ」

 

 アンドレは、もはやこの距離で隠密行動は不要、小声で指示する必要はないと考え、騎士らしくよく通る声で指示を出す。

 ミーシャは列の前の方、第1班にいた。このまま突入後、直進する。

 

 「奴さんらの声が聞こえてきたぜ、そろそろだな」

 

 「ミーシャ、無理すんなよ。巣の討伐はな、戦争と同じだ」

 

 隣を進むひょろ長の冒険者が、腰から二丁の手斧を抜きつつ、ミーシャに声をかける。

 

 「なに、普通のゴブリン退治と一緒だろ?」

 

 「いんや」

 

 全体の足取りが、だんだん早くなってきた。前列にいる冒険者は、獣のような顔つきになってきている。

 

 「巣の討伐は、全滅させることが目的だ。大人だろうが、ガキだろうが、皆殺しだ」

 

 ミーシャがひょろ長の顔を見ると、さっきと一変し、ギラギラと目が血走っている。ミーシャは思わず、息を飲んだ。

 

 「お前にガキが殺せるか? 無理はすんな。何かあったら俺らを呼べ。そういう汚れ仕事は俺たちおっさんの仕事だ」

 

 「突撃!」

 

 ひょろ長の言葉が終わるかどうか、それにかぶさるように、アンドレの強い号令が飛んだ。

 男たちは一斉に、「わぁあああっ!!!」と喊声を上げて、巣に向かって走り出した。

 

 (くそっ。おっさんらに負けてたまるか!)

 

 ミーシャも、その勢いに飲み込まれないよう、喊声を上げて巣に走り込む。

 観測点から見ていたイメージと、実際の巣の中では、様子が違って見えた。

 高いところからだと巣の構造がよくわかったが、実際に中に入ると、

 

 (視界が狭いッ)

 

 段々の丘が壁のようになって、視界を遮る。

 巣の中には、段々の丘に掘られた巣穴や、崩れかけた石造りの廃屋などがつる草が張った状態で並んでいる。地面は石造りだが、通路と同じように土が堆積し、短い草が生えていた。また、ところどころに棒切れとか、籠のようなものとか、何に使うかわからない道具のようなものが立てかけてあったりもする。

 

 「「ギャッギャッ!」」

 

 人間たちの襲撃に、慌てて数匹のゴブリンやコボルトたちが飛び出してきた。

 

 「ほうら、出てきたわい!」

 

 太い棍棒を持った冒険者が、ゴブリン2、3匹をまとめてなぎ倒した。

 

 「ガルルルルッ」

 

 その傍らでは、腕をコボルトに嚙みつかれた冒険者が、振り払おうと手を振りつつ、小剣の柄でコボルトの頭を小突いている。ゴブリンの一団がわらわらと湧いて出てきた。すでに第1班は乱戦状態、第2班は左折して制圧戦を展開し始めている。

 

 (アタシはっ?)

 

 ミーシャが周囲を見回すと、錆びたナタを持ったゴブリンが飛びかかってきた。

 

 「死ねっ」

 

 ミーシャは冷静に、小剣を突き出す。切っ先が宙を飛んでくるゴブリンの胴体に、ぐさりと刺さる。「ぎゃっ」ゴブリンは呻くが宙を飛ぶ勢いはやまず、腹に刃を沈めつつも、ナタをミーシャに向かって振り下ろす。

 ミーシャはとっさにバックステップを踏み、ゴブリンの斬撃をかわす。

 

 「そっち、2匹いったぞ!」

 

 誰かの声がしたので振り向くと、コボルトが鉤爪と牙をむいて飛びかかってきた。

 

 ミーシャは、しゃがみつつ、下から剣を振り上げる。一匹のコボルトはその剣筋で頭部を顎から割られ、もう一匹はすこしたじろいだ。と、そこへ横から矢が飛んできて、コボルトのこめかみに突き立つ。

 

 ミーシャが矢の飛んできた方向を見ると、小型のクロスボウをもった先輩のスカウトが、ミーシャを見てにやりと笑った。

 

 ミーシャは片手の親指を立てて、感謝の意を伝えると、次のゴブリンに向かって行った。少しばかり体が大きい個体だ。

 

 ゴブリンは、力任せに手にした棒切れをふるってくる。ミーシャは小剣で受け流そうとするが、

 (意外と重いな)

 力強さに一瞬、おや、と思った。

 

 よくみると、手にしていたのは棒切れではなく、金属の棒だった。

 

 ゴブリンが真っ向から振り下ろした金棒が、地面を叩く。カン、と高い金属音がして、土埃とともに石の欠片があたりに飛ぶ。

 

 「あっぶねーなーっ」

 

 思わずミーシャはそう叫んだ。大柄なゴブリンは、「ぎゃぎゃっ」とわめくと、再び金棒を大きく振りかぶる。と、そこへミーシャは斜に飛び込み、振り上げたゴブリンの両腕を斜め下から薙ぎ斬る。ゴブリンの両腕が、棒を持ったまま飛んで行った。

 

 「とどめ!」

 

 返す刃で、ミーシャは自分の腕が切り飛ばされたことに気づいていないゴブリンの首を叩き落した。


 乱戦が少し落ち着き、目の前のゴブリンたちが少なくなったころ、髭面の冒険者が、巣穴の一つを覗き込んで言った。

 

 「……ん? 巣の中は、空かぁ?」


 「メスもガキもいやしねえ。おかしいなぁ」

 

 「どうした? 中に何もいないのか?」

 

 兜をかぶった騎士が、髭面の冒険者に問いただす。

 

 と、その時である。

 無数の岩石が、彼らの頭上から降り注いできた。


 「うわっ。ちきしょうめ! こいつらやりやがる!」

 

 ひょろ長の冒険者が、ひときわ大きな声で喚いた。

 段々の上の層、ポールアームでも届かない巣穴から、ゴブリンたちが急に出てきて、下に向かって石を投げ始めた。さっきの乱戦時よりも、数がずいぶん多い。しかも、石は下手をすると子どもの頭ぐらいはある。兜をかぶっていたとしても、まともに食らえば怪我ではすまない。

 

 「くそっ、退け退けっ」

 

 既に何人かの冒険者や騎士たちは、この投石攻撃で負傷していた。中には伸びてしまっている者や、頭から血を流している者も少なくない。この攻撃で第1班は、巣の奥まで進んだ組か、負傷者を連れ巣の入り口付近まで後退した組の2つに分断された。

 

 ミーシャは巣の奥の方へ進んだ組である。

 

 と、そこへ、

 

「で、でたっ! トロルだ!」

 入り口側の方から、叫び声が上がった。


土日はお休みで次話は月曜日に更新します(月・水・金更新)


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ