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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合冒険譚。

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第41話 森へ突入!(下)

 本隊がやってきたのは、それから1刻(1時間)をわずかに過ぎたぐらいだった。

 

 「まあ、みんなしてぞろぞろやってきて」

 

 「がちゃがちゃいってますよね。あれだと、ゴブリンたちも異変に気づいていると思います」

 

 50人近くの武装した冒険者と騎士たちが、足場の悪い森の中を進んできた。さすがに馬はいないものの、鎖帷子や板金鎧を身に着けた騎士たちは歩くとガチャガチャうるさいし、槍やハルバードといったポールアームを肩に担いでやってくる者もいる。冒険者たちは金がないのと手慣れているのとで、隠密行動向きの革鎧に短剣、小剣、手斧あたりを手にしていた。

 

 「やっぱり、なんだかゴブリンたちがこっちの方を見ている気がします」

 

 「あー。そだね。何匹か、こっちのほうを指さしてる」

 

 茂みに隠れて巣の様子をうかがうミーシャたちは、一足先に戻ってきた騎士に、巣の様子がおかしいことを伝える。報告を受けたリンドムートは、そのことは織り込み済みだと言わんばかりの笑みをわずかに浮かべ、

 

 「では、すみやかに作戦にかかる。正面突入を行う部隊は、速やかに移動を開始せよ。突入の指揮は予定通りアンドレが取れ」

 

 といった。

 

 リンドムートに従っていた青年の騎士は、「はっ」と一声応じると、30名を超える部隊を連れて移動を開始する。

 

 「ミーシャ。そなたも、正面からの突入隊に加われ」

 

 やおらリンドムートはそんなことを言い、ミーシャとエリサの二人を驚かせた。

 

 「えっ。お言葉ですが、アタシが行って戦力になるんですか」

 

 「巣の地形は、今まで観察してきたのだから、そなたが一番、戦場のことを把握しているだろう」

 

 それに、魔術師に正面突破をさせるわけにはいくまい、とリンドムートは言葉を続ける。

 

 反論しづらいところを突かれたミーシャは、不服ながらもその指示を飲まざるを得なかった。しぶしぶ彼女は、アンドレの指揮する部隊に加わって移動を始める。気がかりなのは、このあと戦いが始まって、どのようにしてエリサが祠にたどり着けるのか、あるいは自分がそこまで行くのか、ということだ。

 

 「お、ミーシャもこっちに来たのか。あのお嬢ちゃんは、別動隊か」

 

 「まあ、お前だったら、こっちのほうが性に合ってるかもな」

 

 突入隊の中には、見知った顔の冒険者たちが多かった。

 

 「おっさんらはこっち、だわなあ。あれ? ちゃんと酒抜けてんの?」

 

 「大丈夫大丈夫。今は酔ってるうちには入らないから」

 

 判断力が危うくなるからといって、前の日に酒を控える冒険者も少しはいるが、戦意が上がるからという名目で、戦いの前に強めの酒を少量ひっかける者は多い。そしてそれは、ベテランと呼ばれる中年以降の冒険者に偏って見られる傾向だった。

 

 「飲むなと命じても飲んでしまうのだから、どうしようもない」

 

 ミーシャたちの話を聞いた、アンドレは、嘆息しながら、そうぼやいた。

 

 「いやいや、騎士様たちの戦い方と、我ら冒険者のやり口は、少々違うのですからな」

 

 一番顔が赤く、酒臭い息を吐く小柄で頑健そうな冒険者が、アンドレに向かって言い訳を言う。顔と首と胸が一体になったようなもさもさとしたひげ面に、毛皮のついた古い革鎧に太い樫の棍棒を持ち、手斧を腰に下げたその姿は、蛮族か、領邦地帯に住む亜人のドワーフのようである。

 

 「冒険者の戦い方は、わっといって、ぱっと戦う。瞬間瞬間の勝負ですわい。そういうときは、酒の女神オエナの加護が物をいいますでな」

 

 そういって、男は腰に下げた小瓶の中身をあおった。大方酒だろう。

 

 「だからってさぁ、始まる前に酔いつぶれちゃダメだぜ?」

 

 ミーシャが呆れた顔でツッコむと、周りの冒険者たちが静かに笑う。

 

 なるべく物音を立てずに行動する、というのは、いかに粗野に見えても、冒険者たちの分が上だ。

 騎士や従者は金属製の防具のおかげで、足場の悪い中での移動は疲労しやすいし、音もかちゃかちゃと鳴らしていた。

 

 「お、あぶねえ。土牙だ。踏んづけとくか」

 

 「おっと。草絡めで転んじゃ、板金鎧じゃ大音が立ちますぜ」

 

 「なぁ、だれか傷薬の予備持ってねえか。ひとつ貸してくれよ」

 

 おっさん冒険者たちは、小声ながらもおしゃべりを続けたまま、突入地点まで向かってすたすたと歩く。騎士や従者は黙然としたまま規律正しく歩くのだが、ミーシャとしても、おっさんたちと一緒にいる方が、気が楽だった。

 

 もし、エリサと一緒にリンドムートへ仕えるようになったら、自分たちも騎士たちのようにふるまわなければならないのだろうか。それは面倒だな、とミーシャは思う。

 

 「なぁ、冒険者ってのは、みんないつもこうなのか?」

 

 「あー、うん。ここにいるのは、全員ベテランだから……」

 

 「ベテランかぁ。なんだろう、この余裕っていうのは、少し気が抜けるな」

 

 見た目の年が近いから話しやすいのだろうか、アンドレに小声で聞かれて、ミーシャはそう返した。

 

 観測点から、突入ポイントまでは、少しの時間、斜面を下り、それからしばらく木々の間を抜けて平地を歩くだけだ。普通だったら、見回りのゴブリンなり、コボルトなりと遭遇戦があってもおかしくないが、行く道のりはリスぐらいにしか出会わなかった。

 

 (索敵自体は、ちゃんとしているから、見逃しているわけじゃないんだけど、なんか引っかかるな……)

 

 ミーシャは周囲を見回しつつ歩くが、何もなさ過ぎて、かえって違和感があった。冒険者の勘、というヤツだろうか。何もなさすぎるところが、かえって不気味である。

 

 「隊長さんよ、そろそろ予定のポイントじゃねえのかい?」

 

 やがて、先頭を歩く、ひょろりとしているが不敵な面構えの冒険者が、やおらアンドレの方を見て尋ねた。

 アンドレは、「うむ」と言ってうなずく。

 すると、冒険者たちの様子が一変した。それまでゆるんだ空気で、まるでハイキングか何かに見えた一団は、急に空気をぴりっとさせて、皆一言も口を利かなくなったのだ。誰も示し合わせたわけではない。みんなベテランだからこそなせる熟練のスタイルだ。


 冒険者のことをだらしのない連中、と思っていたアンドレは、その変化に思わず襟を正したようだ。

 一瞬、きょとんとしたかと思うと、すぐに顔つきを改め、

 

「隊列を整えたのち、リンドムート様に合図を送り、速やかに突入する」といった。


平日月・水・金の21時半更新です!


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