表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第3章 記憶の魔導書を巡る百合冒険譚。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/69

第39話 森へ突入!(上)

 馬での移動は、さすがに速い。以前、2人がケルベロスを倒した大きな岩の影まで、歩きのときは1刻(1時間)程だったのだが、馬で進むと半刻ちょっとしかかかっていない。空模様は、ちょうど東の地平に太陽が顔を出す頃だった。


 一行は目的地に着くと、めいめいに下馬する。馬は手近な低木などにつなぎとめる。馬の見張り役を担当する従者を数名置くと、騎士たちは、岩の近くに集まった。

 ミーシャは、リンドムートから離れたエリサのもとに一目散に駆け寄ると、

 

 (エリサ。変なこと、されなかった?)

 

 エリサの両肩を正面からしっかりと捕まえ、小声でそうささやく。

 エリサは、にこりと微笑を浮かべて、

 

 (はい。ちょっとお話してただけです)

 

 穏やかな口調でそう答え、続けて、

 (ミーシャさんと一緒に、配下にならないか、勧誘されました)

 と言葉をつないだ。

 

 「全員、集まれ。これからの作戦の確認を行う」

 

 ミーシャがさらにエリサから話を聞こうとしたところ、リンドムートが、小さくともはっきりと聞こえる声で周囲に呼びかけた。ミーシャたちを含む騎士たちが、彼女の方に向かって駆け寄る。

 

 (どういうつもり?このお貴族様。アタシとエリサを手下にしようって)

 

 ミーシャは、移動中のリンドムートの様子を思い出し怒りを覚えつつも、今は仕事の時間だと割り切って、リンドムートの顔を見た。

 

 「我々は、これから敵情の視察を行い、本隊到着前までに最終的な作戦判断を行う。これよりは、敵中に入るものと心得よ。相手はゴブリンだと軽く見てはならぬ。この者たちが事前に調べたところによると、道中には、土牙や草絡めなどの罠が仕掛けてあるらしい。山賊討伐に近いかもしれぬ。ましてや相手は魔物だ。人間よりも、誰かよそ者が縄張りに入ったことを感じやすいかもしれん」

 

 「では、潜入はどのように」

 

 「冒険者2名を先達として、まずはこの者たちが通ったルートを進む。罠の類は、できうる限り取り除くか、わかりやすいようにしておけ。それと、弓が使える者は、短弓を用意せよ。移動中にゴブリンを見つけた場合、速やかに射殺すのだ」

 

 リンドムートの指示を受け、騎士2名が速やかに道具入れから弓を取り出し、弦を張った。他の騎士は、ロングソードを腰に差しつつ、取り回しがいい手斧などを得物にする。

 

 「目標の巣は、距離10町(1000メートル)程度だが、移動はそれなりに悪路だそうだ。もう少し日が昇ってから、出発する」

 

 リンドムートは昇りつつある太陽の方に目を向けて、そう言った。

 

 日はやがて完全に姿を現し、夜気が陽光に蒸されて霞となり、草原にたなびき始めた。森の中からは小鳥の声が聞こえてくる。

 

 「隊長、そろそろ行きますか?」

 

 豊かな鼻ひげを蓄えた壮年の騎士が、岩に腰掛け瞑目していたリンドムートに声をかけた。

 リンドムートはその声を聞くと閉じた目を開け、ミーシャとエリサを見つけると、

 

 「そろそろ出る。先導してほしいが、よいか」

 

 口調こそ丁寧だが、有無をいわさぬ威厳をもって、2人に声をかける。

 ブリーフィングの後の短い待機時間に、馬上での話をエリサから聞いたミーシャは、

 

 (貴族にしては、いいこと考えてるじゃんか)

 

 と、リンドムートに一目置くようになっていた。

 むろんエリサは、ミーシャに「一夜の過ち」云々まで正直に話すほど愚かではない。

 

 「承知しました。先導します」

 

 ミーシャはそう答えると、座って干しリンゴを食べていたエリサに目配せする。

 エリサは急いでリンゴを咀嚼し飲み込むと、立ち上がって服についたほこりを払う。


 リンドムートの号令が下り、一団はミーシャ、次いでエリサの順に森に入っていった。


 まずはごつごつとした岩場の多いゾーン。金属鎧を装備した騎士たちは歩きづらそうにしていたが、そこはやはりプロの戦闘職。なんなく踏破をしてみせる。リンドムートも、時折他の騎士の手を借りながら(本人は自分だけでも十分行けると思っているのだが、貴族社会には色々と作法があるのだ)、危なげなく進んでいく。


 さらに進んでシダ類などが生えているエリアに出る。このあたりから、ゴブリンの罠が仕掛けられている。その様子は、先日とはそう変わらない。罠の数も増えた様子はなく、2人は騎士の一団を連れて、確かな足取りで森を進んだ。背の高い広葉樹が少しずつ赤みを帯びてきている。まだ当分、落葉はしないだろうが、もし落ち葉が降り注ぐと、罠の存在はより分かりづらくなるだろうか。


 ミーシャはそんなことを考えつつ、途中、見つけた罠は効率重視で雑に解除する。今はスピード優先、土牙は斜めに踏みつけて刺さらないようにし、草絡めはショートソードの先で断ち切る。他の騎士たちも、ミーシャに指摘されるか、気づき次第、ミーシャと同じようにしていた。


 運がいいのか、夜行性であることが多いゴブリンの習性か、朝早い時間帯では、遭遇戦となることはなかった。一団は光がまばらに入り、高木、低木が入り混じる獣道を進んでいく。

 

 「この森、思ったより起伏があるな。丘のようになっているのかもしれん」

 

 途中、リンドムートが独り言のように言う。

 「となると、ゴブリンの巣は丘と丘の狭間にあるのか。いや、外からはうかがい知れない地形だから、全体としてはすり鉢状になっているのかもしれぬな」

 

 独り言が続くので、エリサが不思議そうな視線を彼女に向けた。

 するとリンドムートは、

 「ふふ、おかしいか。これも習い性でな、病弱の弟が軍略に凝っている。わが愚弟が言うには、指揮官は常に地形を考慮せよ、考え、想像をめぐらすことを怠るなとうるさいのよ。あれの体が頑丈ならば、私がこのようなことをしなくてもよいのだがな」

 と言った。

 

 「時折、女の身であることが疎ましくある」

 

 そして、誰にも聞こえないように、リンドムートはぼそり、と呟いた。


土日はお休みで次話は月曜日に更新します(月・水・金更新)


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ