表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/74

第38話 姫騎士様の甘いささやき

 翌朝。まだ太陽が地平よりも出るかなり前。支給された野営用のテントから、もぞもぞとミーシャとエリサがはい出してきた。

 

 「テントがあってよかったですね」

 

 「夜露にも濡れないし、地べたで寝るよりはだいぶ楽だったね」

 

 2人はすでに身支度を終え、ヨーゼフの家に向かう。

 先遣隊は、本隊よりも1刻(1時間)以上早く現地近くに行き、最終的な突入計画をたてることになっている。

 ここからは、先遣隊の隊長はリンドムートに変わる。アンドレが本隊を後から率いてくるそうだ。

 

 2人が知らされている基本的な作戦は、部隊を2つに分けての奇襲である。巣の南側にある入り口から本隊が突入し、ゴブリンを駆除、制圧しつつ相手を巣の北東方面に追い込む。この北東方面は、2人が最初に巣を見つけたときの観測ポイントで、木々の間を駆け降りることができる斜面になっていた。そして、追い込んだところで、残りが奇襲をかけ、一網打尽にするというものである。

 

 2人はヨーゼフの家に着くと、まずは昨日の豆のスープの残りに、砕いたクラッカーと少量の刻んだベーコン、それに香草を入れた豆がゆを朝食として供され、さっと平らげる。

 そうこうしているうちに他の先遣隊メンバーも三々五々に集まり、やがて軍装に身を包んだリンドムートが現れた。

 

 「よし、全員いるな。では、先遣隊は日の出までに森の入り口に到達。その後、明るくなってから森に入り、敵陣を視察。作戦の最終的な判断を行う。移動には馬を使う」

 

 彼女は必要な命令を明確かつ手短に伝えると、さっと外に出て、厩へ向かう。

 こうしてみていると、やはり威厳がある。ヨツデグマのアレを手にして取り乱していたとは、とうてい思えない。


 「馬だって。エリサ、自分一人で乗れる?」

 

 ミーシャがエリサにそう問いかけると、エリサはふるふると首を横に振る。

 ミーシャも、馬は一応乗れないこともないが、乗る機会がそうそうない。

 

 「というか、アタシたち、馬持ってないんだけど。どうなるの?」

 

 すると、どこかの騎士の従者が、馬を一頭、連れてきた。

 

 「リンドムート様から話を聞いています。この馬を使ってください」

 

 「おっ。助かる。まさかアタシたちだけ徒歩で走っていけってことじゃないのね」

 

 ミーシャは従者から馬の手綱を預かると、じっと馬の顔を見た。

 栗毛のしっかりした体つきだが、目はおとなしげである。牝馬だった。

 

 「今日はよろしくな」

 

 ミーシャが馬に声をかける。馬の方も、長いまつげを震わせると、口をもぐもぐしてミーシャの方をじいっと見つめた。

 ミーシャもそのつぶらな瞳を優しく見つめる。

 

 「……ミーシャさん! 早くいきましょう!」

 

 その様子を見ていたエリサは、なぜかむすっとした表情で、ミーシャの袖を引っ張った。

 

 「あ、うん。わかった。じゃあエリサは前に……」

 

 「エリサは、私とともに騎乗するように。少し、話がある」

 

 ミーシャがエリサを馬に乗せようとすると、先に騎乗していたリンドムートがやってきた。

 ミーシャとしてはエリサと2人乗りする気だったのに、思わぬ横やりが入るが、相手が相手だけに断るわけにはいかない。

 今度はミーシャが、むすっとした表情を浮かべる番だった。


 ◇

 

 まだ星明りがまたたく草原を、一群の馬が進んでいる。

 馬たちにとっては早歩き程度で、決して走っているわけではないが、それでも人間が歩くよりは随分と速い。

 馬たちは白いと息を吐きながら、静かに森へと向かっていた。

 

 「あの」

 

 無言のまましばらく馬を進めていたリンドムートに、エリサは思い切って自分から声をかけた。

 

 「お話って、何でしょう」

 

 するとリンドムートは、ちらりとエリサの方にまなざしを向け、

 

 「ああ、そうだった。待たせてすまぬな」

 

 といい、

 

 「あれ以来、やはり何度も考えたが、私はそなたが欲しい」

 

 エリサの背後から耳元に、ぼそりとつぶやいた。

 

 エリサは、リンドムートの官能的なアルトの美声に、一瞬、背筋を撫でられたような感触を受けたが、

 「女性同士の恋愛は、教会は否定していたように聞いたことがあるのですが……庶民ならともかく、お立場のある方がそんなことをしてもいいでのしょうか?」

 

 エリサなりに最大限、言葉を選んで返す。

 

 するとリンドムートは、ふ、と笑って、「そなたは、嫌だとは言っていないな」

 

 馬の手綱を握る両腕を、わずかに締めてエリサを抱きすくめるようにした。

 

 「い、いや。あの、それは、違います」

 

 慌ててエリサは否定するが、

 「ふふ。まあよい。違うということにしておいてやろう」

 

 リンドムートはそういうと、ちらりと騎馬隊の中に混じるミーシャの方を見、

 

 「しかし、さっきからそなたの仲間が、私をにらんで、ものすごい殺気を放っておるぞ。怖い怖い」

 

 吐息を感じるほど、エリサの耳元でそうささやく。

 エリサは急にミーシャのことを言われて、思わず視線が泳ぐ。

 エリサの視界の端に、ちらりとミーシャの姿が映る。

 

 (ああ、ミーシャさん、すっごく機嫌が悪そう……)

 

 ハラハラと気持ちがざわついたエリサをよそに、リンドムートはすっと顔を上げ、エリサの耳元から離れる。ただし、エリサの聞こえるようにだけ言葉をつづける。

 

 「そなたのような優秀な魔法使いが、当家には必要なのだ。必要ならば、あの赤毛の斥候も召し抱えたい。2人でヨツデグマを倒したのだろう。あの者も、おそらくは他の冒険者より抜きんでて優秀だ。私は、女であっても、優秀な者に力を貸してほしいと思っているのだ」

 

 「え? あ、ほしいって、そういう」

 

 「ふふ。勘違いしてもらっては困る。まぁ、そなたのような美しい乙女ならば、たとえ伯爵令嬢の地位を失ったとしても、一夜の過ちを犯してみたいものだがな」

 

 本気とも冗談ともつかないリンドムートの言葉に、エリサは思わずドキリとした。

 

「エリサ。今は、女は家にいて外に出ぬのが世の習いだ。外に出るのは女として浅ましい、粗野な振舞だと考えられているが、もともとは違う。力のある者、才のある者は性別など関係ない。それを証するのはそなたや、あの赤毛の斥候だ。とはいえ、当家は田舎の伯爵、まして私は騎士団を率いるとはいえ、家督を継げぬ娘に過ぎぬ。よい待遇を用意してやることはできぬが、できる限りのことはしてやりたい」

 

 淡々と、だが力強く語られた言葉に、エリサは直感で真実だと感じた。

 

 (この人は、本気でそう思っている。耳障りの言い甘い言葉じゃない)

 

 だが、エリサにはなすべきことがあるし、ミーシャだってどこかに縛られることは好まないだろう。

 

 「あの。お気持ちはわかりました。ただ、私たちにも、しなければならないことがあります。それが果たされるまでは、お返事することができません」

 

 エリサは、一言一言、かみしめるようにしてリンドムートに言った。

 

 リンドムートは、それを聞いて、

 「わかった。まあ大事なことだから、すぐに返事は難しかろう。私が生きている限りは、いつでもいい。当家に仕えたいと思ったら、訪ねてきてくれ」

 

 余地を残しつつ、あっさりと引き下がった。

 リンドムートの言葉を聞きつつ、エリサはちらりともう一度、ミーシャの方を見た。


 ミーシャは、気を取り直したのか、ほかの騎士たちに交じって周囲を警戒していた。

 さわやかな顔立ち、精悍な目つき。真剣に仕事に打ち込む姿を見て、思わず胸がきゅんとする。

 

 (……わたし、ミーシャさんと、ずっと一緒にいたい)


 そんなことを考えていると、

 背後で、リンドムートがふふ、と小さく笑ったような気がした。


平日月・水・金の21時半更新です!


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
^〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ