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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

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第34話 エリサの告白

 「……いってぇーっ」


 ミーシャは、エリサに不意の頭突きを食らい、痛みで完全に目が覚めた。

 想像もつかなかったが、エリサは石頭だった。めっちゃ痛い。


「ミーシャさん。どうしたんですか?」


 「ううん。何でもない」


 ミーシャはまだ目がチカチカするのを振り払い、平静を装って言った。


「ふうん」


 エリサはどこかイタズラっぽく、鼻を鳴らしてミーシャの目をじっと見つめる。

 エリサに至近距離で見つめられて、ミーシャはドキドキしながらも、じっと見つめ返してしまった。


「ミーシャさん。わたしのこと、抱っこして寝てたんですか?」


 そこでミーシャは、我に返って、まだ自分がエリサを抱きしめたままであることを思い出した。

 慌てて離れようとするが、エリサの方からするりと手を伸ばしてきて、ミーシャの腰のあたりに手を回し、ぎゅっとホールドする。

 ミーシャは、エリサの肌の柔らかさと体温を、より濃厚に感じ取った。


「……」


 エリサの大胆な行動に、ミーシャは頭が真っ白になる。自分の体温が、胸の奥から急上昇するのをはっきりと感じる。


「毎日抱っこして寝てもいいんですよ?」


 エリサは、少しかすれるような声で、甘い吐息交じりにミーシャにささやく。

 そして、


 かぷ!


 エリサは、ミーシャの首筋に甘噛みした。


 「ひゃん!」

 

 突然の出来事に、ミーシャは声を上げる。

 エリサはそんなミーシャを見て面白がり、さらに、かぷかぷと首筋をかむ。


「ちょ、エリサ……だ、だめだって」


「ふぁにふぁふぁめらんれすふぁ?(何がダメなんですか?)」


 エリサは反対側の首に噛みついたままで、もごもご口を動かす。

 ぞくぞくっとした快感が、ミーシャの背筋を貫いた。

 ミーシャは身をよじって、エリサから逃れようとする。すると、首筋は難を逃れたものの、次は鎖骨のあたりに、エリサの唇が触れる。


「んっ!」


 ミーシャは突然の刺激に、目をぎゅっとつぶって、体を震わせた。

 エリサはきょとんとした表情になり、やがて意地悪な笑みを浮かべる。


「ミーシャさん、ここ、くすぐったいんですねぇ」


 そういうと、エリサはミーシャの鎖骨に頬ずりをし、軽く唇を触れさせる。

 

「あ……エリ……ダメ……」


 (エリサは単にじゃれているだけだろう)そう思っていても、ミーシャの感覚が、エリサに触れられるたび、鋭敏になる。

 ミーシャの肌が上気して、うっすらと汗が浮かぶ。すると、すんすん、とエリサが鼻を鳴らすので、ミーシャは恥じらいを感じながらも、どこか一方では恍惚とする。

 これ以上エリサに何かされると、どうにかなってしまいそうなミーシャは、やがて意を決し、


「もう! おしまいっ!」


 くるりと体勢を入れ替えて、エリサに馬乗りになった。


「はわっ」


 両手を掴まれて、ベッドに抑え込まれたエリサは、「うぐぐ……」と悔しそうな顔をする。


「もう。イタズラが過ぎるよ!……悪い子には()()()()しないとねぇ」


 そして、怖そうな声色を出して、エリサを脅かす。だが、ミーシャはオシオキなんて本心ではするつもりはない。

 だって、そんなことをしてしまうと、何かタガがはずれてしまいそうなことを、ミーシャは自分でよく知っていた。


 だから、


 ぺしっ!


 エリサのおでこに、デコピンを一発決める。


「いたっ!」


 ちょっと涙目になったエリサを見て、(今はまだ、これでいい)とミーシャは思う。

 だが、そこに油断があった。

 エリサのどこにそんな力があるのか、ミーシャは何かの弾みでひっくり返されて、逆にエリサの体が上になる。


「えっ?!」ミーシャはまさか体術でエリサに負けるなんて、と驚いた。

 エリサは、そのまま上体を前に倒し、両腕で挟み込むようにしてミーシャの顔を覗き込む。さらりとしたエリサの髪が垂れ、ミーシャの頬を撫でる。


「……大事なお話、してもいいですか?」


 そして、さっきとは打って変わった真剣な様子で、ミーシャに言った。

 ミーシャも「うん」と真剣なまなざしで応じる。

 

「なんで魔導書を探しているか、お話ししてなかったですよね」


「ギルドに登録するときは、白魔女の系譜を継ぐ者の役目って言ってたけど」


「はい。わたしは、世界でたった一人の、白魔女アルボフレディスの弟子ですから」


 そうなんだ、とミーシャがあいづちをうつ。


「そして、わたしの中に、《世界》が入っています」


 エリサの言っていることの意味を、ミーシャは一瞬、理解できなかった。


「わかりにくいですよね。すごくざっくりいうと、白魔女が生み出した古今のすべての魔法が、わたしの中に埋め込まれています」


 え……。とだけ言って、ミーシャは固まった。それって、どういうこと?


「これは信じてもらえないですよね。でも、そうとしかお伝えできないんです」


「えーっと。じゃあ、エリサは、全部の魔法が使えるってコト?」


「そうです」


 エリサは、いつものふわふわした雰囲気とは打って変わり、冒しがたい雰囲気で言った。


「でも、今はまだ、使えません。封印されている、といった方がいいでしょう。そして――」


「まさか。その封印を解くカギが、『クロウテルの魔導書』?!」


 ミーシャが先走って言うと、エリサは無言でうなずき、ややあって静かに口を開く。


「……わたしの記憶も、全部、魔法と一緒に封印されてるんです」


 「どうして?」とうめくようにミーシャは言う。


「わからない。でも、こんなことができるのは、きっと師匠しかいません」


 ミーシャは息をのんだ。あの夢を見ていなければ、エリサの言葉は、心を病んだ者のうわごとにしか思えない。


「どうして師匠は、わたしの記憶を封印したんでしょう。わからない。でも、思い出したい――」


 やがて、ミーシャの頬に、ぽたりと一粒の涙がこぼれた。エリサの大きな瞳から、涙があふれだしている。


「――お願いです、ミーシャさん。わたしと一緒に、《魔導書》を探してください――!」


 ――本当は、とりあえず今回の1冊だけ探せばいいやって思っていた。それから先のことは、その時でいいって。

 まだ出会ってから、数日も経っていない正体不明の女の子。そんな子のいうことを真に受けていいのか。

 冒険者なんて生き方、そう長く続けられるもんじゃない。やがて年だって取る。いつ働けなくなるかわからない。

 さっさと金を稼げるだけ稼いで、いずれどこかの小さな村で、のんびり生きていくのがアタシのささやかな夢だった。

 だけど、この子と一緒にいれば、そんな夢は遠くなるけど、楽しくやっていけそうかも。

 アタシはこの数日、ずっとそんなことばかり考えていた。

 

 ――でも、こんな顔見せられちゃ、もう絶対ほっとけないじゃん!


 ミーシャは、何も言わず、エリサを力強くぎゅっと抱きしめた。

 ミーシャの腕の中で、小さくなってすすり泣くエリサ。そんなエリサの背中を優しくなでながら、


「だいじょうぶ。だいじょうぶ。全部見つけるまで、一緒にいたげるから」


 自分でもびっくりするぐらい穏やかな声で、ミーシャはエリサに声をかけ続けた。


平日月・水・金の21時半更新です!


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では、また次回もよろしくお願いします!

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