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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

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第32話 姫騎士様からの好感度が上がりました

 (お貴族様にそこまでさせたら、これ以上は、ヤバいかな)

 

 敏感に状況を察したミーシャは、

 

 「わかりました。リンドムート様の御為に、私たちの知る限りをお伝えいたします」

 

 出ていこうとするのをくるりと振り返り、中年男に一瞥をくれながら、リンドムートに深々と礼をした。中年男の、忌々し気な視線をちらりと感じた。

 

 「……あのー。言葉で説明するよりも、実際に見て頂いた方が早い気がします」

 

 ミーシャが急にいじわるを言ったり、出ていこうとしたりしたのを不思議そうに感じていたエリサは、話の流れが元に戻ったことを察知すると、おずおずと口を開いた。

 

 「見る? どうやって」

 

 ギルド長が腕を組みながら言う。

 

 「【記憶投射】の魔法を使います。よろしいですか?」

 

 エリサがそうさらりと言うと、一同は顔を見合せた。そんな魔法は聞いたことがない。

 

 「よい。やってみせよ」

 

 ややあって、リンドムートがエリサに許しを出す。

 エリサはそれを聞くと、目を閉じて大きく深呼吸した。


 深呼吸したエリサは、目を開けると、手印を結び、聞こえないほどの小声で呪文を唱える。

 すると部屋の空気の流れが変わり、夜光石が明滅する。

 

 「何だ、これは?!」

 

 中年男が狼狽した。直後、エリサの瞳から光が投射された。

 部屋の壁面に、エリサとミーシャが見てきた光景が映し出される。それは、ル・ガルゥが築き上げたゴブリンの村の様子である。


 鎖帷子の青年が驚きの声を上げた。

 

 「これが、ゴブリンの巣……か?」

 

 「あれは、家か? 畑、のようなものもある」

 

 「あいつら、羊の世話をしているぞ。そんなことがあるのか?」

 

 リンドムートは、押し黙ったまま、壁に投射された映像をじっと見つめていた。

 

 「1体、普通のゴブリンと違う個体がいました。あそこです」

 

 ミーシャは壁に近寄り、祠がある丘の上を指さす。

 

 「でかいな……」

 

 ギルド長が感嘆の声を上げた。

 

 「あんな個体は、これまで見たことがない」

 

 「森の中にあんな祠があるなんて、聞いたことがないのう。もしや、未踏破区域なのか?」

 

 老人も映像を食い入るように見つめていた。

 

 時間にして、数分程度だろうか。やがてエリサの瞳から出る光が淡くなり、映像はうっすらと消えていった。

 

 「状況は、お分かりになりましたか?」

 

 ふぅ、と一息ついたエリサは、お偉方がいる前にもかかわらず、目のあたりを指でつまんでぐにぐにとほぐす。

 

 「実はこの魔法、ものすごく目が疲れるので、あんまりやりたくないんです」

 

 それを聞いたリンドムートは、一瞬ぽかんとして、その後、カラカラと笑った。

 

 「面白い娘だ。そのような魔法、これまで誰も使わなかった。よほど優れた学院で学んだか、師匠についたのだろう。そなた、どこで学んだ?」

 

 「卒爾ながら脇より申し上げます。あまりその娘の出自を問いませぬよう。実は本人も、記憶がおぼろげとのことで、師匠のことを聞いても益のないことかもしれません」

 

 エリサが答える前に、老人が割って入る。

 

 「構わぬ。申せ」

 

 「わたしの師匠は、ノルゲンシュタインの森に棲むアルボフレディスといいます」

 

 エリサの言葉に、リンドムートは、ふ、と小さく笑い、

 「なるほど。そなたは救世の白魔女の弟子、というわけか」

 

 「いえ。ものぐさで朝寝坊の行き遅れだと本人は言っていました」

 

 エリサがあまりに真剣な顔で答えたので、リンドムートはあっけにとられた。一方、周囲の男たちは『行き遅れ』という単語が出たことに心胆を激しく冷やす。この言葉は、女だてらに剣を振るってきた結果、婚期を大きく逃してしまったこの貴族令嬢を揶揄する言葉として、陰で使われることもあったのだ。

 

 「いいな。気に入ったぞ。エリサ、私はお前が欲しい」

 

 興味深げな表情を浮かべて、リンドムートはエリサに向かって言った。

 するとエリサは驚いた顔をして、さっとミーシャの背後に身を隠した。そして、小動物が物陰から様子をうかがうように、じいっとリンドムートの方を見る。

 

 「おやおや、振られてしまったか。別に取って食おうというわけではないのだがな。しかし、状況は十分に分かった。速やかに討伐隊を派遣する。トロルたちを警戒せねばならぬため、戦力の一部を街道の警備に回さねばならないが、他は羊飼いの集落を拠点として1両日中には討伐を行う」

 

 さっさとエリサのことを割り切って、リンドムートは表情を引き締めていった。

 

 「冒険者ギルドでは、街道の警備を行うものと、討伐隊に加わるものをただちに公募していただきたい。街道警備を厚くし、討伐隊は腕に覚えのある者に限る。警備といっても、トロルが出たら速やかに逃げること」

 

 リンドムートの言葉に、ギルド長は「承りました。明日の昼までには揃えましょう」と答える。彼は老人に目配せをすると、老人は人集めの手配のために部屋を出ていった。

 

 「代官は、ここ数日の街道間の移動を禁じる触れを速やかに出せ。さすがに今日はもう無理だが、明日は早いうちに早馬を隣町に出し、数日はこちらの村に来ぬように状況を知らせるようにせよ」

 

 ついで、中年男に彼女は指示を出す。

 「……承知いたしました」男はそう言って逃げるように部屋から出ていった。

 

 「騎士団はこれから班分けをし、出発に備える。ギルドと教会の好意を得て、今夜はここを宿舎とするようにして頂いた。よろしく手配せよ。モリス殿は、この者とともに行動してほしい。そなたの魔法の力は、戦術的に大きな価値がある」

 

 そして青年に命令を下すと、青年は「はっ」と一声発し、足早に部屋を出る。ガマガエルのモリスは、慌ててそれについていった。

 

 「さて。そなたたち2人には、私とともに討伐隊に加わってもらう。道案内が必要だからな」

 

 最後に、リンドムートはミーシャとエリサに向かってそう言った。


平日月・水・金の21時半更新です!


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― 新着の感想 ―
咄嗟にミーシャさんの後ろに隠れるのとても良い。
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