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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

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第31話 姫騎士様再登場!

「爺さん、入るぜ」


 ミーシャはそういうと同時に、部屋のドアを開けた。

 すると老人――ゲイルは、椅子に座ったままじっとしていたが、ミーシャたちの姿を見て、驚いて腰を上げる。


「ミーシャじゃないか! お前さんら、無事じゃったか!」


「ああ。おかげさまで、ぴんぴんしてるよ。財布の中は風邪ひいてるけどね」


 ミーシャの皮肉を、老人は無視した。


「大変なことになったぞ。下の様子はみたじゃろ?」


「リリーから少しは聞いたよ。トロルが出たんだって?」


「ああ、そうじゃ。駆け出しの奴らが大勢やられた。大惨事じゃ!」


「爺さん。アタシたち、ゴブリンの巣を見つけた」


「ゴブリンだけじゃないんです。そこに、トロルがいて」


「何? あんた、今、トロルといったな?」


 エリサの言葉に、ゲイルは唖然とした。


「はい。なぜか腰から下が泥まみれのトロルが3匹」


 老人は、それを聞いて「うーん」と唸り、

 

 「わかった。報酬は後できちんと払うが、まずはちょっとこっちに来てくれ」

 

 2人はそのまま、2階にある応接間へ連れていかれた。

 

 「ゲイルでございます。失礼しますぞ」

 

 老人は応接間の前に立つ騎士へ何事か言うと、彼が扉を開けて訪問者を告げる前に割り込んでいった。

 騎士は老人に押しのけられて、思わずたたらを踏む。ミーシャとエリサは、その後について入っていった。

 応接間は、ギルド長の部屋の隣にあり、様々な来客をもてなす場だ。とはいえ、田舎のことゆえ、彫刻が施された長テーブルに革張りの椅子がある程度に過ぎない。しかし、天井近くに換気用の窓しかない半密室のため、夜光石の照明がふんだんに使われており、壁にはとても大きな、壮麗な絵が描かれている。


 英雄レオンハルトと白魔女アルボフレディスが、東方より来た魔王エツェルを打ち倒すシーンだ。英雄レオンハルトは、不死の軍団を率いて東方より来たりし魔王エツェルを、自らの身を犠牲にしてこの世とあの世の狭間に封じ込めた。今から1000年前にあった、英雄戦争の一幕を描いたものである。燃えるような赤髪を持つ勇壮な男性の英雄、白銀の髪に白いローブをまとう白魔女、そして青黒く不気味な魔王の色彩が鮮やかだった。


 2人はその壮大な絵に圧倒されながらも、すぐに部屋の中にいた者たちへ目を向けた。

 

 テーブルには大きな地図が広げられ、それを囲むように、板金鎧姿で長い黒髪が艶やかな姫騎士リンドムート、その部下と思しき鎖帷子を着込んだ細身の若者、ひょろりとしたあごひげを生やした貴族風の中年男性、一見、山賊の親玉かと思うような豊かなひげをたくわえたギルド長の4名に、なぜか長髪の魔法使い――ガマガエルのモリスもいた。

 老人は恭しく一礼すると、口を開く。

 

 「ギルド長。ミーシャとエ…エ…エリ」

 

 「エリサです」とエリサが言う。

 

 「そう、そのエリサとミーシャが、ゴブリンの巣を見つけた。しかも、トロルどももそこにいるらしい」

 

 老人の言葉に、「なんだと?」とモリスを除く4名が色を失った。

 

「どういうことだ。状況を報告せよ」


 リンドムートが、威厳ある態度で2人に尋ねた。

 

「どうした。遠慮はいらぬぞ。直答を許す」

 

 リンドムートは、貴人らしい凛とした声色で、ミーシャの方をまっすぐに見た。

 ミーシャと目が合うと、ちょっとだけ視線が泳いだが、すぐにクールな姫騎士の仮面を被る。


 「ここより北北東に5里(約15キロ)、街道からガルガンチュアへの支道を進んだところに、羊飼いの集落があります。それから西に1里でラブレーの森に入りますが、その奥10町(約1000メートル)奥にゴブリンの巣があります」

 

 「ふむ」とあごひげを撫でながら、貴族風の男が唸る。

 

 「トロルがそこにいたとか」

 

 ついで、青年がミーシャに問う。リンドムートは無言のまま、ミーシャを見つめている。

 

 「はい。私たちは、そこで3体のトロルがゴブリンたちと巣に戻ってくるところを見ました。いずれも、腰から下が泥にまみれていました」

 

 「ボ、ボキの魔法だ」

 

 ガマガエルのモリスが思わず声を上げる。しかし、ギルド長に一瞥を向けられ、慌てて口をつぐんだ。

 

 「ゴブリンたちはかなりの量の戦利品を運んできていました。トロルたちは、ゴブリンの指示に従っているように見えました」

 

 「まさか。どうみても力はトロルの方が上なのに、そんなことが」

 

 青年が驚きの声を上げる。しかし、その後にエリサがつぶやいた一言に、一同はさらに驚愕する。


 「あそこは……巣というより、村でしたよ。家があって、羊の囲いがあって、貯蔵庫みたいなのもあって……あ、子育てをしていたり、水汲みみたいなこともしたりする個体もいましたね。それから、コボルトたちもかなりいました」

 

 「なんと!」貴族風の男が、芝居がかった様子で、額に手を当てた。そして、エリサを指さすと、ヒステリックな声を上げる。

 

 「貴様、嘘偽りを申すな! そのような話、聞いたことないわ!」

 

 エリサのことを嘘つき呼ばわりされたことは、ミーシャの癇に障った。

 

 「アンタ、この村の代官だろ? 羊飼いの集落からさ、何度も魔物の討伐要請が出ていたはずなンだけどなぁ。何度言っても取り合ってもらえなかったってたよ?」

 

 ミーシャはやぶにらみのまなざしを中年男に向ける。一同の視線が、男に集まる。

 

 「な、なにをいいかがりを! わたしは! 領内の治安を正しく守るよう誠心誠意務め、代官の任を果たしてきた! 貴様のような一介の冒険者風情に、何がわかる!」

 

 「あ、そ。なら、アタシたちはお暇するよ。爺さん、報酬の金貨5枚ちょうだい。すぐにこの村から出ていくから。行こう、エリサ」

 

 そういって、ミーシャはエリサの手を取り、部屋から出ていこうとする。

 

 「待て」

 

 呼び止めたのはリンドムートだった。


「この者の非礼は私が詫びる。どうか、そなたたちが見聞きしたことを教えてほしい」

 

 そういって、彼女は軽く頭を下げた。

平日月・水・金の21時半更新です!


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