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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

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第30話 リリーちゃんはわかりやすい娘です

 「あれが、ケルベロスなの?! ウソ、初めて見た!」


「そうです。あれは、冥府の番犬と呼ばれるケルベロスです。……普通は、封印された遺跡の奥とかにしかいないんですけど……」


 2人はとことこと歩きながら、森からの帰路に就いていた。ゴブリンたちの追手はなく、さっきのケルベロスは偶発的なのか、それとも追手だったのかはわからない。

 そして、なぜかさっきから、くんくんと鼻を鳴らして自分の服についた匂いを確かめ続けているエリサ。ケルベロスの獣臭でもついたのかと思いながら、ミーシャは掌の中に納まる柘榴石を陽光にかざしつつ眺めた。


「これ、すごいよね。宝石でしょ?」


「……ケルベロスから採れる柘榴石ですね。結晶がきれいな部分は宝石になるし、そうでない部分も、錬金術士やドワーフの職人に高く売れるって、聞いたことがあります」


「うわ! やった! 臨時収入だ!」


 そうなるとミーシャの足取りは軽い。一方、エリサは、なにやらもじもじしながら、のそのそ歩く。


「どうしたの? エリサ。さっきから、なんか様子がおかしいよ。まさか、どっかケガでもしてるの?」


「あ、いえ! ……あの、その。わたし、臭くないですか?」


 エリサがそういうので、ミーシャが近づいて匂いを嗅ごうとする。

 すると、エリサは微妙に距離をとって近づかせまいとする。


「逃げられると確認できないじゃない」


「いや、あの、でも!」


 ミーシャがすんすんと鼻を鳴らす。エリサはうつむき加減で、上目遣いになりながら固まっている。


「うーん」


「どうですか?!」


「なんともないよ。蜜みたいな甘い匂い。臭いどころか、ずっと嗅いでいたいぐらい、いい匂い」


 ミーシャがそういうと、エリサは「はぁ」と安堵するようなため息をつく。


 「どうしたの。変なエリサ」


 そういいながらも、ミーシャは、血と汗と泥にまみれることの多い自分とは違って、獣の匂いさえもまといたくないと思っているだろうエリサのことが、女の子らしくてかわいいな、と思っていた。


 そしてミーシャは、歩きながら、さっきのことを考えた。あの声はなんだったのだろう。ものの見え方が変わったのは、なんだったのだろう。

 あんな変な力は、もともと自分には無い。昨日の晩、ゴブリンたちと戦ったときにも無かった。


「……そう言えば、右耳から聞こえてきたな」


 独り言を言って、右耳に触れる。硬質なつるりとした感触。夢の中で貰ったイヤーカフだ。


 (あの女の人から、エリサのことを頼むって言われたよな。……もしかしたらそれか?)


 それだけ考えて、ミーシャはそれ以上の追及を辞めた。考えても仕方がないことだった。


 ◇


 それからの帰路の途中、2人は、ヨーゼフたちの集落に立ち寄り、不安にさせないよう言葉を選んで状況を伝えた。「今日も泊っていけ」と引き留めようとするハンナに2人は丁重に断りを入れると、食べきれない量の食料を持たされた。

 その後は、食べ物の匂いにつられたゴブリンやコボルトの襲撃を二度ほど受け、日が沈みかけたころに、2人はカンブレーの村に戻ってきた。

 

「おーい! ゴブリンの巣、見つけたよ!」

 

 村の入り口あたりでたむろしている冒険者にミーシャが声をかけると、「あ、ああ」とぎこちない返事。

 2人はなんとなく、村内の様子が緊迫したような、変な空気になっているのを感じ取った。


 「何かあったんでしょうか?」

 

 「わかんない。でも、とりあえずギルドに行こう」

 

 ギルドに入ると、緊迫感はさらにつのった。

 

 「え、何これ……」

 

 2人は中の様子を見、唖然とした。

 中には、物々しい重武装した男たちであふれていたのだ。板金鎧がガチャガチャと鳴り、いつも以上に男臭い空気が充満している。ミーシャはそれを見て、すぐにランブレー男爵配下の騎士や従者たちであることを見抜いた。

 

 (なんで騎士連中がこんなところに……?)


 困惑するミーシャ。と、そこへ、金髪ツインテールが駆け寄ってきて、ミーシャに飛びつく。受付のリリーだ。


「ミーシャ! 無事だったのね!」


「リ、リリー。どうした? 何があったの?」


 リリーは青白い顔をしていた。


「大変なことになったの! トロルが街道に出て、10人以上が犠牲になったの!」


 「えっ……そうなの?!」


「ミーシャもゴブリンの巣の探索に行ってたから、もしトロルに襲われたらどうしようって……心配だったんだから!」


「ああ、うん。心配かけてごめんよ。アタシは大丈夫だから。エリサも」


 エリサはリリーに向かって、小さく手を振った。するとリリーは、すん、とした表情になって、


「あ、エリサさんもご無事でしたか。よかったですね」


 と事務的な口調で言った。ミーシャは、リリーの態度の変化に困惑する。エリサは、気づいていないようだ。


「そんなことより。今、何が起きてるんだ?」


「トロルが出たから、騎士団が動員されて、今、うちのギルドと代官所とで、討伐計画の会議中」


 わかった、といってミーシャは「ゴブリンの巣の所在が分かったんだ。どうすればいい?」とリリーに尋ねる。

 するとリリーは、


「おじいちゃんのところへ行って。2階のいつもの部屋にいるはずよ」


 といった。


 ミーシャはそれを聞くと、リリーに「ありがと」といって、エリサを連れて中央階段を上がる。

 リリーは頬を少し紅潮させてその様子を見送ったが、やがて「仕事仕事!」と頭を振って、忙しく立ち働きはじめた。


土日はお休みで次話は月曜日に更新します(月・水・金更新)


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