表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/69

第29話 限界突破エリサちゃん(お察しください)

 ケルベロスは、よだれを垂らしながら、エリサを威嚇している。

 

 エリサは杖をくるりと回し、石突でケルベロスを突いた。ケルベロスはわずかに身をよじって難なくかわす。その隙に、魔力を使って、ふわり、とエリサは身を起こす。

 

 「ぐるうわふぅ!」

 

 ケルベロスは、鉤爪と牙を使って、ガンガンとエリサの【障壁】を叩く。この魔法が続いている間は、相手はエリサを傷つけることはできないだろう。しかし、そのままじっとしていてもらちが明かない。

 

 それは相手も同じことを考えていたのだろう、ケルベロスはバックステップを踏み、遠吠えをする。

 

 「あう、わうううぅぅぅ―ん!」

 

 「仲間を呼んだの?」

 

 これはエリサの読み間違いだった。ケルベロスは、ヨツデグマと並ぶか、それ以上の高ランクに位置付けられた魔物だ。その恐ろしさの源は、

 

 「【障壁】が破られてる!」

 

 相手の防御魔法を打ち消す〔遠吠え〕。

 エリサが、それに気づいてはっとした直後、再びケルベロスの毒液が飛来する。エリサは間一髪、横に飛びのいてかわしたものの、

 

 「っ…」

 

 ちょっと肌にじわりと熱いものを感じた。

 

 「く……本当に、このままじゃ……ダメです……っ」

 

 これ以上、戦いを長引かせるわけにはいかない。エリサは迷う。

 

 (即死の魔法を使おうかな……でも、あれを使うには、デメリットが大きすぎる……)

 

 エリサはヨツデグマに使った∴呪殺∴のことを考える。しかしあれを使うと、一時的ではあるが、魔力の上限値が大きく減少する。普通の魔法であれば、コップの中の水を使うようなものだ。水を入れればすぐに回復する。

 しかし、あの魔法は、コップの容量そのものを削る魔法。一度使えば、回復には長い時間を必要とする。

 

 はやくしないともれちゃう!

 エリサは、絶体絶命の状態に追い込まれていた。


 ◇


 「エリサ遅いなー。なにやってんだろ」


 ミーシャは、森のあたりを警戒しながら、エリサが戻ってくるのを待っていた。

 エリサは女の子だからか、何をするのも時間がかかる。朝の支度もゆっくりで、ご飯を食べるのもゆっくり。歩くのもゆっくりだから、きっと用足しもゆっくりなんだろう。

 そう考えた後、まあ、アタシも一応、女なんだけど。と、心の中で自分に突っ込みを入れた。


 「遅いからって、様子を観に行ったら、気まずいだろうし」


 いくら冒険者だからって、用足しの現場を他の人に見られるのは、ミーシャだって恥ずかしい。

 だから、もうちょっと待ってみることにした。


 その時である。


 右耳のあたりで、ちりん、とかすかな音がしたかと思うと、『警告です』と女の声が聞こえた。


「なっ、なんだっ?!」


 驚いたミーシャは、あたりを見回すが、だれもいない。


「な、なんだよ、これっ!」


 そんなミーシャをよそに、女の平坦な声が聞こえてくる。

『エリサが魔物に襲われています。距離50メートル。ナビゲートを開始しますか?』


 「え……なに? えっと、はい、かな」


 ミーシャがうろたえながら「はい」というと、ミーシャの後方から、光の矢が放物線上に飛び、向こうの岩陰に到達して点滅し始めた。


「わけがかんないけど……いかなきゃ!」


 ミーシャはリュックをそのままに、岩に立てかけていた小剣だけ掴むと走り出す。

 点滅する光のそばには、50という数字が出ていて、近づくにつれ数字が小さくなっていく。これは距離だな、とミーシャは直感した。


 ほんの数秒で、ミーシャは光のそばにたどり着いた。しかし、そこには何もない。


「……どうなってるんだ? ここだろ?」


 小剣を抜いたミーシャが、あたりを伺いながら独り言を言う。


『調査中……調査中…………【静寂】の効果を感知。視覚モードを変更しますか?』


「わかんないけど、とりあえず、はい、だ!」


 ミーシャがそう叫ぶ。すると、頭の中で『視覚情報にサーモグラフィーレイヤーを追加します』と、単調な女の声が響き、


「ええっ??」


 ミーシャの視界が一瞬ぼやけ、何やら赤や黄色のモヤモヤが2つ現れた。一つは人型、もう一つは……狼か何かだろうか?


 人型はおそらくエリサなのだろう。そして、もう一つの影が魔物だろう。


 2つのモヤモヤは、こちらがいることに気づいていない。魔物が人型に突っ込むと、人型はかろうじてそれを飛びのいてかわす。

 しかし、飛びのいた拍子に、ぺたん、と尻もちをついた。

 尻もちをついた人型の地面の周辺に、みるみる赤いもやが広がっていく。


「まさか、血?!」


 ミーシャは驚き、そして魔物に対して明確な殺意を覚えた。小剣を構えると、


「てめえええええッ!」


 姿勢を低くして猛スピードで突っ込む。四つ足の魔物は、ミーシャが間近に迫ったところで気が付いたのか、ミーシャの方を向く。


「死ねええええっ!」


 ミーシャは獣の首を跳ねた。赤い塊が宙を飛び、すぐに黄色、緑になって地面に転がる。やがてそれは青くなる。


 そこで、ミーシャの視界が切り替わった。【静寂】の効果が切れたのだ。


「ミーシャさん!」


「エリサ! 無事か?!」


 ミーシャは仰向けにしりもちをついたままのエリサを見、出血している様子ではないことを確認すると、次いで今しがた首を刈った獣を見る。


「え、頭が3つある狼?!」


 地面をもんどりうって転げまわる犬。ただ、1つは自分が切り飛ばし、あと2つはあたりに毒々しげな唾液をまき散らしながら、強烈な殺意をミーシャに向けている。


「まだ生きてるなっ! とどめだっ!」


 ミーシャは自分の中の殺意を抑えずに、ケルベロスに切りかかろうとする。

 ケルベロスが毒液を飛ばす。ミーシャは身をよじってかわすが、じゅっと焼ける音がして、胸当ての一部が溶けた。


「あわわ……し、【身体強化】!」


 エリサがあわてて、ミーシャに加護の魔法を放つ。ミーシャは体が軽くなったような気がして、飛ぶように駆けた。


「ひとつ! ふたつ! とどめだっ!」


 ケルベロスに接近したミーシャが、風を切るように小剣をふるう。ケルベロスの首が2つ飛び、そして、胴体も半分に断ち割られた。

 切断された胴体から、ごろり、と柘榴色に輝く拳大の宝石が転がり落ちる。

 ミーシャは一瞬、その宝石に目を奪われたが、すぐに振り返り、


「エリサ!」と叫んで、まだ転んだままのエリサのもとに駆け寄ろうとする。しかし、


「ストップ! ミーシャさん、ごめんなさい! あっち向いて、ちょっとだけ待ってください!」


 なぜかエリサに制止され、ミーシャはよくわからないままに、しばらく待たされるのだった。

平日月・水・金の21時半更新です!


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やっぱ日本人でしたか。エリサさんへの保護モードがすごいw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ