表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/69

第28話 間の悪いときに限って敵が出てくる!

 そのころ、ミーシャとエリサは、ゴブリンの巣を一望できるエリアにいた。


 (あれ、巣じゃなくて、村だよね。家もいっぱいあるし……)

 

 (ですね。……あ、羊に餌あげてる)


 2人はゴブリンたちが仕掛けていた、いくつもの罠を避け、低木の茂みの隙間からゴブリンの巣の様子をうかがっていたのだ。

 そこで、ル・ガルゥの存在に気が付いたのは、エリサだった。


 (あのゴブリン、なんであんなに大きいんでしょう!)

 

 (あんなの、見たことない。ゴブリンキング……なんかよりもずっと大きい気がする)

 

 (なんだか、ゴブリンというより、ほとんど仕草が人間そっくりですね)


 (なんか、奥の方が騒がしくなってきたな……あ、なんか来た)


 (あれ、もしかしたら、トロルじゃないですか?)

 

 (えっ、ウソだろ? あっ、ホントだ! やばい、これはやばすぎるよ。しかも3匹!)

 

 (確か、トロルって、すっごく強いんですよね?)

 

 (いや、強いっていうか、本当ならこんなところにはいない魔物だよ)

 

 (ギルドの人たちで勝てますかねぇ?)

 

 (というか、まずはアタシたちが見つからないようにここから逃げないと)

 

 (コクコク)


 その時である。エリサは急に何を思ったのか、もぞもぞしはじめ、やがて懐から魔法の羅針盤を取り出した。


(――!)


 エリサは、羅針盤の盤面を見て、驚きの表情になる。


(どうしたの? 急にもぞもぞして。……まさか?!)


 エリサは、ミーシャに盤面を見せた。

 針は、祠のある方向を刺している。そして、盤面に刻まれた何かの記号が、激しく明滅していた。


(この近くに、《魔導書》があります! おそらく、あの祠の中!)


(え、マジかよ! どうする? 今行くのは、ちょっと危ないけど……)


(行かなきゃ! ああ、でも、もしゴブリンたちに見つかったら、大変なことになりますよね)


 すると、ミーシャは無言でエリサの懐に、羅針盤を押し込んだ。


(ごめん、気づくのが遅れた。それが光っているから、もしかしたらあいつらに気づかれるかもしれない)


(あ、ごめんなさい……わたし、つい舞い上がっちゃいました)


 すると、ミーシャは、


(ちょっとじっとしてて! ……あいつ、こっちを見ている)


 音は立てずに、強い口調で言う。ミーシャの視線の先には、ゴブリンキングと思しき個体が、こちらの方をじっと見て、微動だにしない様子が写っていた。


(【認識阻害】が効いてないのか?)


 もしそうであっても、向こうからは茂みが邪魔をして、容易にこちらの姿は見えないだろう。

 だがその個体は、近くにいたゴブリンたちへ、自分たちがいる方角を指さしながら、何かを指示している。


(やばい。見つかったかもしれない。エリサ、一時撤退だ)


 ミーシャは手短にそう言って、エリサを連れてその場を足早に立ち去る。

 

 すでにミーシャの頭の中には、ここに至るまでの明確な地図が記憶されている。後は急ぎギルドに戻り、状況を報告するだけだ。


 2人はできるだけ静かに、そして急ぎ足で森を抜けた。帰り道は容易で、往路の半分以下の時間で事足りる。

 

 「もうすぐ、【認識阻害】の効果が切れます」

 

 森へ入る前に休憩した岩陰を通り過ぎたあたりで、エリサがミーシャに告げた。

 

 「よし。ここまで逃げれば、もうゴブリンたちは追いかけてこないだろう」

 

 日は、中天を差している。今から歩けば、日没までにはカンブレーの村に戻れるかもしれない。

 ミーシャは水筒を取り出すと、まず自分が一口飲む。そして、エリサにそれを向けると、水筒を受け取ったエリサも一口飲んだ。

 エリサはそれから、

 

 「……ちょっとお花を摘みにいってきます」

 

 恥じらう顔つきをしてミーシャにそう言うと、エリサはそそくさと少し離れた岩陰に歩いて行った。


 ◇

 

 (ミーシャさんは、どうしてお手洗いを我慢できるの? 冒険者だからかな)

 

 岩陰についたエリサは、ふぅ、と一息つくとそう思った。今日朝出て以降、ミーシャがトイレ休憩をしたような様子は一度もない。エリサは途中、トイレに行きたいなと思っていたのに、タイミングを外してしまったのだ。

 

 (うう、漏れそう……)

 

 ため池はもうすぐいっぱい。早く放流しないと大変なことになる。

 エリサは、ローブと下のワンピースをたくし上げると、その場にかがみこもうとした。

 

 その時。

 

 「ぐるるるるる」

 

 森の木陰から、唸り声が聞こえる。

 

 「ええっ! それは困る……」

 

 もじもじしながら、エリサは立ち上がり、岩に立てかけた杖を手にした。

 

 低木の陰から、1頭の獣が現れた。豺だ。ただの豺ではない。3つの頭を持つ、大型の豺。エリサは、ぞわり、と空気が張り詰めるのを感じた。

 

 「これは、【静寂】……。まさか、ケル……ベロス?」

 

 ケルベロスと呼ばれた豺は、3つの頭からよだれを垂らしつつ現れる。全体的には茶色と黒の混じった体で、普通の犬と比べれば2回りほど大きい。豊かな飾り毛を持ち、がっしりとした体格。エリサの方をじいっとにらみつつ、ふさふさのしっぽを高く立て、小刻みにゆっくりと揺らしている。

 【静寂】の魔法は、【認識阻害】の上位魔法である。一定の時間、一定のエリア内で行われた一切のことが、まったく外の世界からは把握できなくなる。ケルベロスはこの魔法を使って狩りをするため、それが終わった後には、犠牲者の痕跡だけがそこに残る。この魔物が『冥府の番犬』などと呼ばれるのは、犠牲者が冥府に連れ去られてしまうから、という想像による。

 

 「なんですか? わたし今からお花摘みするんです。あっちいってください!」

 

 「ばう! わぅ、がるううう!」

 

 「きゃう!」

 

 エリサの抗議に、ケルベロスは獰猛な一吠えで応える。あまりの剣幕に、エリサは自分の肌が粟立つのを感じる。

 

 「ううっ……ミーシャさぁん……」

 

 泣きべそをかきながらも、エリサは杖をケルベロスに向けた。

 

 なるべくすみやかに、動きを小さく、あの子を倒すか追い払うしかない。そうしないと、乙女の大ピンチである。

 

 すぅ、とエリサは息を吸い込み、小声で呪文を唱える。

 

 「【炸裂球】っ!」

 

 杖の先から、光の球が射出された。音と光で威嚇して逃げてくれれば、それでもいい。


 だが、ケルベロスはそれを難なくひらりと避け、猛毒の粘つく唾液をエリサに吐き掛ける。

 

 エリサは、空中に小さな魔法陣を描き、盾となる【障壁】を現出させる。毒液は【障壁】により弾かれた。と、それを見越したのか、ケルベロスは地面を一蹴り、空中からエリサに向かって飛びかかった。

 

 「きゃっ」

 

 ケルベロスの鉤爪も【障壁】によって防がれたが、衝撃と圧がエリサを襲う。

 耐え切れずにエリサは後ろに倒れ、コテンと尻もちをついた。ケルベロスの獰猛な顔、獣がもつ、むわっとした生臭さがエリサの間近に迫る。

 

 「っ…」

 

 尻もちをついた途端、じわぁっと肌を濡らす嫌な感覚。脂汗がエリサの背筋を流れる。

 

 (これは、やばいかもしれないです……)

 

 エリサは、ごくり、と唾を飲み込んだ。


平日月・水・金の21時半更新です!


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ