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白魔女ちゃんとパーティ組んだら、アタシの堅実冒険者ライフが大崩壊! え、ちょっと待って。世界を救うとか、そういうのはマジ勘弁して欲しいんスけど……!~記憶の魔導書を巡る百合冒険譚~  作者: 難波霞月
第1期 第2章 ゴブリンたちと森の秘密

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第25話 ミーシャの過去

 「集落の真ん中あたりに、なるべく深い穴を掘って埋めてください。できれば、目印になるように石か何かを置いてください。踏んでも大丈夫です。むしろ踏んであげた方が、効果が長持ちすると思います」

 

 古びた鍋敷きで作った魔物除けの護符についての説明を、エリサはヨーゼフ、ハンナ、ヨハンの3人に念入りに行った。この護符で、半径10町(約1キロ)程度は、魔物が入ってこられなくなるらしい。

 

 「気を付けて。あまり森に深入りしないように」

 

 「わかりました。ありがとうございます。もし、ゴブリンの巣をみつけたときには、この集落が討伐隊の拠点になるかもしれません。その際には、ご協力お願いします」

 

 ミーシャは、ことがうまくいった際の、次の一手もぬかりなく考えていた。自分の想像が正しければ、この近くにゴブリンの巣がある。その規模によっては、数十人単位の冒険者がこの後編成される討伐隊に参加するだろう。ならば彼らが一時的にも作戦基地や野営地として使用できる空間が必要だ。


 そのとき、やみくもに土地を荒らすことになっては、ヨーゼフたちに迷惑をかけることになる。だったら、あらかじめ依頼だけでもしておけば、双方にとって無用なトラブルを避けることができるだろう。

 

 「たぶん、今回の帰りの際にも、お伺いすると思います。では、行ってきます」

 

 そういって、2人はヨーゼフたちに一礼すると、森の方へと歩き出した。

 

 

 草原は、道こそないものの、足首ぐらいまでしかかからない草しか生えていないため、歩きやすかった。なだからな丘が連続しているが、林もなく、遠くまで見晴らすことができる。

 

 「こっち……ですね」

 

 エリサは時々立ち止まって目を閉じると、【失せもの探し】の痕跡を追った。エリサの意識には、白く細い糸のような光が、一直線に森に向かっているように見えるらしい。

 

 「だいたい、20町ぐらいは離れているようです」

 

 ミーシャがそれを聞き、遠くの方を眺めてみると、おおよそ森に入るか入らないか、といったところだった。

 

 「だいぶ近づいても大丈夫そうだね」

 

 2人は初秋の陽光のもと、仕事であることを忘れるぐらいのんびりと歩いた。

 あまり早く歩きすぎると、近づきすぎてしまうからだ。

 

 「のどかですね」

 

 「風が気持ちいいね」

 

 今は、こちらの方が風下だ。この時期は、霊峰から一方的に風が降りて来るらしい。追跡をするには、においで気取られないから好都合だ。

 

 「あ、あそこにアナウサギがいますよ!」

 

 エリサが指さした先には、ぴょんぴょんと跳ね回るウサギが数匹いた。

 

 「捕まえてごはんにしようか?」

 

 「かわいそうです。無理に狩らなくてもいいじゃないですか」

 

 ウサギの肉は、柔らかく少し粘りがあって、淡泊だ。脂が少ない鶏肉といった感じで、庶民から貴族まで好んで食べる食材だ。毛皮もかなり需要がある。

 

 「エリサがそういうならやめておくよ」

 

 もとよりミーシャとて、これからゴブリンの巣に行くのに、ウサギ肉をぶら下げていくようなつもりはない。

 しばらく歩くと、「10町ぐらいに近づきました」とエリサが言った。

 

 「たぶん、もう森の中に入っています」

 

 「5町ぐらいになったら、一回立ち止まろう」

 

 「この感じだと、だいたい森の入り口ぐらいかなと思います」

 

 冒険者と言ったって、日々派手な活劇をするわけじゃない。

 はっきり言って、今みたいに、地味にひたすら歩くということの方が多い。

 

 「エリサ、大丈夫? 疲れてない? 水飲む?」

 

 「大丈夫です。こう見えても、結構、歩くのは慣れてますから」

 

 それからもう少し歩いて見えていた草原の終わりは、低木がまばらに生え、その向こうには深い森が広がっていた。

 

 「やっぱり、5町くらいです」

 

「少しだけ、ここで様子を見よう」

 

 様子を見る間、大きな岩が転がっていたので、その陰で小休止した。

 エリサは岩にもたれかかり、ぺたんと座り込んでいる。もぞもぞとローブの切れ込みに手を入れると、なかから小さな茶色い紙袋を取り出した。なんだろうとミーシャがのぞき込むと、袋の中から蜜でくるんだアーモンドが出てきた。エリサは、1つつまんでコリコリと食べ始める。

 

 「ミーシャさんもいかがですか?」

 

 「うん、もらう。ありがとう」

 

 ミーシャは手渡されるがままに、エリサから蜜掛けアーモンドを受け取る。

 ミーシャはアーモンドをかじり、水筒を取り出して水を飲むと、エリサに手渡す。エリサも一口飲んで水筒を返す。

 

 「なんだか、ピクニックみたいですね」

 

 「そうだね。でも、いつもこうばかりじゃないんだ……。冒険者って、いつどこで命を落とすかわからないんだよね。昨日まで一緒にいた仲間が、今日には魔物の餌食になってる。それがたまたま、自分じゃなかっただけ、みたいなこともあるんだ」

 

 「……どうして?」

 

 「ん?」

 

 「……どうしてミーシャさんは、そんな危ないことをしてるんですか?」

 

 エリサにそう尋ねられたミーシャは、森の向こうにある霊峰を眺めながら語り始める。

 

 「一人で生きていくため、かな。昨日も話したけど、両親はアタシが12のときに、はやり病で死んじゃった。兄弟も、親戚もいない。残ったアタシは、一人で畑を耕すか、誰かの嫁さんになるか、修道院にでも入るしかない。まあ、街へ出て働くこともできたけど……できる仕事は小間使いか、体でも売るか。正直、どの道たどっても、あんまり幸せにはなれないかなって思ったんだ」


 ミーシャはアーモンドを一つ齧ると、言葉をつづける。

 

 「どうせ1人なんだったら、好きに、自由に生きたい。子どものときから、近所の男の子相手にも一歩も引けを取らない悪ガキだったから、だったら冒険者になってやろうって。それで、村を出て、一番近くにあったカンブレーの冒険者ギルドに登録して。最初は薬草取りとか、ゴブリン退治とかやってたけど、いざ冒険者になったら、自分に何の取り柄がないってことがわかって。それで、スカウトギルドに入って3年間、師匠について修業したの。で、2年前から独り立ちして、今に至るって感じかな」

 

 そこまで語ってミーシャはエリサの方を見る。すると、エリサはアーモンドを手にしたまま、涙を流していた。

 

 「ちょっと、どうしたの? 大丈夫?」

 

 「み、ミーシャざん……苦労ざれだんれすねぇ」

 

 「いや、こんなのよくある話だって! もう、泣かないの」

 

 ミーシャは懐から手拭いを取り出し、エリサの顔をぬぐってやる。

 

 「それよりも、エリサの方が、なんか複雑で大変そうな過去じゃない」

 

 「……わたじなんか、師匠にあまやがざえて、ぬくぬく育ってきただけなんでずぅ」

 

 鼻声でぐずぐず言いながら、エリサは手拭いで鼻をかむ。

 

 「そうかなぁ……。あー、もう。はい、休憩終わり! お仕事再開です!」

 

 まだ泣きじゃくっているエリサを引っ張り起こすと、ミーシャはことさらに力強く言った。


平日月・水・金の21時半更新です!


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