第23話 おふとんのなかでじゃれあい
それから、ミーシャたちは、伸びたゴブリンを戸外の適当なところに転がすと、ヨーゼフの家に戻る。
ハンナやおかみさんは、まず2人にけがはなかったか、ついで男たちは大丈夫か、最後に外の様子を聞いてようやく安堵した。
「嫁入り前の娘さんに、傷でもついたら大変だよ。2人とも別嬪さんなんだからねえ」
ハンナはそういって、戻ってきた2人をぎゅっと抱きしめた。
それから少しして、男たちが戻ってくる。一息入れて気持ちを落ち着けるために、ミルク茶をみんなで飲み、しばらくして寝ることにした。
このころの農家というのは、たいていは家族全員が一つの部屋で寝る、いわゆる雑魚寝である。
2人は客人だということで、ヨーゼフ一家とは別の部屋をあてがわれた。
ハンナがわざわざちょうどいいくらいにこなれた藁をシーツに包んで床に敷き、掛け布団に大きな羊の毛織物を持ってきてくれた。
巡礼者や修道女を受け入れているとあって、手慣れたものだ。
「今日も一緒の布団で寝るんですね」
濡らした布で顔や体を軽く拭いたミーシャとエリサは、お互い下着姿になって、向かい合って座っていた。
ランプの小さな灯が、ごくわずかな明るさをもたらし、互いの姿をかろうじて見せる。
夜目の魔法もすでに効果は消え、相手がどのような表情なのか、あまりうかがい知れない。
「エリサは、嫌……じゃない?」
「どうしてですか?」
「いや、だって……アタシたち、まだ出会って3日もたってないじゃない。それなのに、毎日一緒の布団で寝るなんて……」
「ミーシャさんは、嫌なんですか?」
「そんなことない! そんなこと、ないけど」
「ないけど?」
「……ちょっと恥ずかしい」
すると、エリサはいきなりミーシャの胸に抱きつく。
「何いってるんですか。昨日だって一緒に寝たじゃやないですか」
いきなりエリサに抱きつかれ、慌てて両の腕で彼女を抱きとめたミーシャは、
「ま、まあそれはそうだけど」
「大丈夫ですよ。ミーシャさん、いびきもかかずに、寝言も言ってませんでしたよ」
「そ、それならいいんだけど」
「寒いから早くお布団入りましょう」
(なんだか昨日も、お風呂に入る際にそんなことを言われた気がする)
エリサは、羊の織物をまさぐって手元に引き寄せると、ミーシャに抱きついたままそれをがばっと被った。
そのまま、なしくずしに、ミーシャはエリサに押し倒される。
ミーシャはエリサを胸に抱いたまま、布団に横たわった。エリサの花の蜜のような香りが立ち込める。
正直言うと、ミーシャは自分の手をどこに置けばいいのか、困惑していた。今はエリサの背中をホールドする形になっているが、
(本当は、いろんなところを触ってみたい)という妙な気持ちと、
(いやいや、そんなことしたらヘンタイじゃないか)という理性のはざまで揺れ動いている。
一方のエリサは自由そのものだった。しなだれかかったまま横たわったことで、両手がふさがってしまう。そのため、もぞもぞとミーシャの腰のあたりから藁の敷布団をもぐり、ミーシャの背中あたりに両手を回す。2人がより密着するが、エリサの顔は、ちょうどミーシャの両の乳房のはざまに摺り寄せる形になった。エリサはそこに頬ずりする。
「わたしよりもたっぷりあっていいなあ……」
「ちょ、ちょっと。恥ずかしいって」
ミーシャは、自分の顔が紅潮したのを感じ、身をよじる。
「それに、腹筋が硬くてカッコいいですねえ」
エリサは、後ろに回していたはずの手をいつのまにか前に戻し、人差し指でミーシャのへそのあたりを、すうっと一撫でする。
「…っ」
ミーシャはエリサの指が敏感な部分に触れたことで、全身に電撃が走ったような感覚を覚えた。
ぞくぞくっとした蟻走感。とはいえ、けして不快なものではない。体の芯が、急に熱くなるのを感じる。
「え、エリサだって、繊細できれいな肌してるじゃない」
仕返しとばかりに、ミーシャはエリサの背中を下着の上からするりと撫でる。
「ひゃ! くすぐったい!」
「そう、くすぐったいの?」
びっくりしたエリサにちょっといじわるしようと、ミーシャはエリサの背中全体をさわさわと指で撫でまわす。
肌着の感触の上からでも、エリサの肌がふにふにしていることがわかる。子猫や子犬のお腹を撫でているようだ。
「ふ、ふわあ……っ……んくっ」
エリサが急に変な声を出し、ぎゅっ、と体をこわばらせたのをミーシャは感じた。もぞり、とエリサが掛け布団の中で足をくねらせる。
「ご、ごめん。だいじょうぶ?」
「……だいじょぶ、です」
布団の中から、ちょっと上気気味の、エリサの声がする。
ちょっと気まずいかな、という思いがミーシャの中にこみ上げるぐらいの沈黙。
ろうそくの灯がちょっとゆらめいた。遠くの方で、羊が小さくべぇ、と鳴いたのが聞こえる。
2人はずっと黙っていて、お互いの息遣いが聞こえるようだった。
ややあって、エリサがその沈黙を破る。
「まだわたしが師匠と一緒にいたころ、毎日一緒のお布団で寝てたんです」
「そうなの?」
「たぶん、まだ小さかった頃、のような気がします」
「のようなんだ」
「記憶がおぼろげにしかなくて……もしかしたら、一緒に寝たのも空想かもしれません」
エリサがそういうと、ミーシャは少し強くエリサを抱きしめた。
「師匠のところを出てから、ずっと一人だったから、だれかとこうやって一緒に過ごせることが、わたしはとてもうれしいんです。一緒に歩いたり、ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、同じ布団で寝たり……」
「そっか」
ミーシャは、布団の中から顔を出さないエリサの頭を優しくなではじめた。
「……ミーシャさんの撫で方、師匠にそっくりです」
しばらく押し黙っていたエリサが、ぽつり、といった。
そういうところは覚えているんだな、とミーシャは思った。
「もうちょっと撫ででもらっても、いいですか?」
エリサが布団の中でもぞもぞと丸くなるのをミーシャは感じた。
ミーシャは「いいよ」といって、そのまましばらく撫で続ける。
ランプの油がなくなった。すぅ、とあたりは真っ暗になる。
やがて、どちらからともなく、すぅすぅと寝息を立て始め、2人は眠りに落ちていった。
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