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記憶の魔導書を巡る百合冒険譚!  作者: 難波霞月
第2章 ゴブリンたちと森の秘密。
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第19話 荷馬車に乗って

 太陽はすでに上り始めており、正直言えば(ちょっと出遅れたかな)とミーシャは思った。

 ミーシャとエリサは、村へ乳製品を運び入れ、生活用品を積んで牧場へ戻る荷馬車に乗せてもらい、ゴトゴトと街道を進んでいた。

 馬車の主である高齢の農夫は「ゴブリンぐらいならなんとかなるけど、まあ、ついでだしな」と2人を受け入れた。

 

 「今日はどのあたりを探索するんですか?」

 

 「この2日間、ゴブリン襲撃が多発している街道筋のあたりは、もうほとんどチェックしたんだよね。だから、もう少し森の奥の方、ガルガンチュアのふもとあたりまで行ってみようかなと思う」

 

 ミーシャは絵地図を見ながら、自分が探索したエリアと、エリサがたどってきたエリアを重ね合わせ、まだ未探索のエリアである霊峰のふもとを指さした。

 

「だいぶ街道から外れるみたいですけど」

 

 「うーん。でも、アタシが探索したとこ、エリサが通ってきた道、んで、他の連中から聞き出した情報。それらを合わせると、もうこのあたりぐらいしかないんだよね」

 

 「ゴブリンたちは、そんな遠いところから、街道まで遠征してきてるんですか?」

 

 「いやぁ、わかんない。あいつらの行動範囲、どれくらいかなんて、だれも調べたことないし」

 

 「あー、そうだ。獣人族の人たちとかは、村に子供や女性を残して、男の人たちだけで何日も離れたところまで狩りに出るみたいですよ。それと一緒かも」

 

 「ゴブリンが、そこまでレベルの高いこと、できるかなぁ?うーん……」

 

 季節は夏が過ぎ、秋の足音が急速にやってきた頃である。王国の中でも北の方に位置するカンブレー伯爵領では、もうこの季節になると、日中でもあまり暑いとは感じない。夜は少し冷えるが、それでも寒くて震えるほどではなく、探索の仕事には適した頃合いだった。

 

 「ゴブリンらは、まんだ退治できねえかね?」

 

 ややあって、馬の手綱を操りながら、高齢の農夫が2人に話しかけてきた。

 

 「あいつらよう、おらの牧場の柵さ壊して、羊っこがめたりよ、しったげやじまげだ」

 

 「「……?」」

 

 「おらんとこさだけでねえよ、あっちゃこっちゃわっつらばっかして、なもかもね」

 

 「「……??」」

 

 「ところで、あねっこらめんこいねえ。おらんとこのまごらのよめっこにならねか?」

 

「「……???」」

 

(どうしよう、何を言っているのかぜんぜんわからないです)

 

(魔法で翻訳とかできないの?)

 

(そういう魔法があったような気がするんですけど、思い出せないんです)

 

「はは。としょりの言葉さわかんねか。孫らももうこんな言葉っこ使わねからよ。ただ、おらもめったに村さいかねからよ、標準語は苦手なんで、ぶじょほだんし」

 

「あ、いえ。わたしたちも不勉強ですみません。それで、さっきのことなんですけど」

 

「孫らの嫁っこにきてくれるか?」

 

「あー…違います。ゴブリンのことです。羊を、とられたり、してるってことですか?」

 

「んだ」

 

「えっと……他の農家の皆さんも、被害に遭ってるってことですか?」

 

「んだ。カンブレーの村にいる代官様にお願いしても、街道の方が、被害が大きいからって、相手してもらえねえんだ」

 

「お爺さんたちが暮らしているのは、どの辺なんですか?」

 

「お山のほうさね」

 

 そういうと、農夫はガルガンチュアを指さす。

 

「ゴブリンたちが、爺さんたちの牧場に現れだしたの、いつ頃ぐらい?」

 

 ミーシャの問いに、農夫は少し考えるようにして、「三月ほど前かね」といった。

 

「あー。すると、街道にゴブリンが現れだしたより、少し前ぐらいかぁ……」

 

 今度はミーシャの方が考え込むそぶりをした。

 

「最近はよ、犬っこみたいな奴も一緒に出だしただよ。あいつらすぐ噛みつぐから、しまがならねえなぁ」

 

「犬っこ……コボルトか!」

 

コボルトは山岳地帯に住む魔物で、ゴブリンと背丈は同じぐらいだが、歩く犬のような姿をしている。単体での戦闘能力はゴブリンより上だが、あまり頭はよろしくない。ゴブリンとはなんとなく意思の疎通ができるようではあるものの、たいていはゴブリンにいいように使われている。このあたりだと、ガルガンチュアのふもとから中腹あたりで見かけることが多い。

 

「爺さん、このまま、爺さんの牧場まで連れてってくれないかな?もしかしたら、そっちの方にゴブリンの巣があるかもしれない」

 

「なんにも」

 

「「?」」

 

 ミーシャとエリサを乗せた荷馬車は、やがて街道をそれ支道に入り、北の方へと向かって行った。


 ◇


 ミーシャたちが乗った荷馬車は、初秋の日差しを受け、順調に牧場にたどり着いていた。日は中天を少し超え、もうしばらくすれば、西に傾き始める。

 

 「着いたけんども、あねっこら、これからなんとする?」

 

 牧場は、広いなだらかな丘陵地帯で、遠くの方まで転々と林が見え、ずっと奥には広大な森林地帯と霊峰ガルガンチュアのふもとが見える。寄り集まるように数軒の家があり、もっと多くの家畜小屋がある。

 

「羊、いないですね」

 

「羊っこはよ、あっちゃこっちゃいって、草っこさくてける。ばんげにはけえる」

 

「夕方まで、放牧してるんですね」

 

(エリサ、言葉わかるようになったの?!)

 

「ミーシャさん。どうしましょうか。今から森に入ることもできますけど……」

 

「やめれやめれ! すんまばんげになる。危ない。今日はおらえさけ」

 

 「今晩、泊めてくださるんですか?ありがとうございます!」

 

(だからなんでわかるのよ……)

 

 エリサは農夫と言葉を交わしながら、荷下ろしを手伝い始めた。ミーシャもそれに倣い、食品だの薬だのが入った籠を家まで運ぶ。

 

 「あらあら、お客さんかしら。珍しい」

 

 ミーシャが中庭に籠を置いていると、中から恰幅の良い老女が出てきた。

 

 「こんにちは」とミーシャ、次いで入ってきたエリサがあいさつする。

 

 「もっこらさ退治するために、村から来たあねっこらね」

 

 「あらまあ。こんなかわいらしい娘さんたちが、魔物退治を?」

 

 「んだ」とだけいって、重い荷物を担いだ農夫は、中庭に続きの納屋に入ってしまった。

 

 「今どきの娘さんは、そんな危ないことさするの?」

 

 老女が物珍しそうにミーシャたちをのぞき込む。

 

 「アタシたち、冒険者なんです。アタシはミーシャ。スカウトです。この娘はエリサ。魔法を使うことができます」

 

 「ああそう、すごいねえ。あたしはハンナ。で、あっちの爺さんはヨーゼフ。爺さんは、ここからもうちょっと北の村出身で、あたしはカンブレー出身さ。まぁまぁ、こんなところでもなんだから、お入り」

 

 ハンナはそういって、2人を招き入れた。

平日月・水・金の21時半更新です!


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