第18話 壊れたギルドで朝食を
「おっ、昨日の王子様とお姫様のお出ましだぜ」
「ミーシャ。昨日はいいもん見せてくれたな。格好良かったぜ」
ミーシャとエリサが、トレイに乗った朝食セットを手に、何とか座れそうなスペースを探していると、おっさんたちがはやし立てた。
「爺さんにたっぷり請求されたから、おかげさまで、もうアタシたち破産寸前よ」
ミーシャは、おっさんたちの近くに座る。椅子はないから、そのまま床にあぐらをかいた。エリサはその横に、ちょこんと正座する。
朝食のメニューは、パンがゆとチーズ、こんがり焼いたソーセージに干した杏、ハーブをひたしてさっぱりした香りのする冷たい水。
パンがゆは、焼いて何日も経って固くなったパンをスープでふやかしたものだ。味がよくしみて、意外とおいしい。
「しかしよ、爺さんから聞いたぜ。ヨツデグマだなんて、よく仕留めたな」
「今の時期のあいつはよ、騎士団連中が10人束になってやれるかどうかだぜ?」
「あれは、まぁ、たまたま運がよかったから」
ミーシャはそういってごまかした。エリサはというと、もくもくとパンがゆを口にしている。もくもくと食べている割には、とてもゆっくりしている。
『早寝早飯芸のうち』などといわれ、どこでもすぐに寝られること、食事はとにかく早く終えることを美徳とする冒険者稼業としては、エリサの食事はまさに『お姫様』である。
「でもよぉ、お前も、ゴブリンの巣探しの仕事、受けてるんだろ?あの仕事、先に見つけた者の早い者勝ちだからなぁ。あんまりのんびりしていていいのか?」
「おっさんたちは、集落探しじゃないの?」
「いやいや、俺らは掃討の方をやるからよ。そういうのは、若い奴らの仕事さ。駆け出しの連中、みんなだいぶ前に張り切って飛び出してったぞ。場所を特定して金貨5枚。掃討に参加して金貨5枚。だったら、あくせく動き回らずに、のんびり待ってた方が楽だわな」
そういって中の一人は、タンブラーをあおった。
「あ、おっさん。朝から飲んでるのかよ」
ミーシャが突っ込むと、その一人は「えへへ」と笑う。
「しかしよ、お前を含めて6~7組がこの依頼を受けてるみたいなんだ。でさ、森の街道沿いからそう深い階層ではないはずなんだけどな、なぜか10日たっても、まだ誰も見つけられてないんだよな。ゴブリンの巣なら、大抵3日もあれば、最低でも手がかりぐらいは見つけるんだけどな。おっかしいよな」
「アタシも2日探したけど、ほんと、何もないんだ。時々、うろついてるやつらに出くわしたり、いろいろやらかした後の痕跡は見つけたりしたんだけどさ。一度、後をつけていったんだけれど、いつの間にかいなくなっちゃうんだ」
「お前ほどのスカウトが、後を見失うなんておかしいよな。どうしたんだろうなぁ、まあ、せいぜい頑張ってくれよ。俺たちおっさんは暴力が仕事だからよ」
そういうと、冒険者たちは皆「がはは」と笑う。
「そういやお嬢ちゃん、魔法使いなんだろう?魔法でばーっと、探せないのかい?」
甘くて軽い酸味がある干し杏を、大切そうに両手で持って、むっちむっちと食べていたエリサに、冒険者の一人が声をかけた。
「探索魔法を使えば、できるとは思います。でも、おおよその方向ぐらいしかわからなかったり、必ず集落をピンポイントで見つけたり……みたいなことは難しいです」
「ふーん。魔法っても、万能じゃないんだなぁ」
「まあ、魔法使い自体、この辺じゃあんまりいないだろ?ほら、あいつ、ガマガエルのモリス。あいつはこの辺で依頼を受けるパーティのメンバーだけど、もっぱら土系・水系の攻撃魔法が主体らしい」
ガマガエルのモリスと聞いて、エリサがびくっと肩を震わせた。
「冒険者になる魔法使いは、遠距離攻撃役か回復役だろうな。探索系は、スカウトがいればたいてい賄えるし」
「でもよぅ、モリスのヤツ、ああ見えて結構いい学院出てるらしいぜ?王都のそれなりに名の通ったところで修業したらしい」
「だったら、なんで冒険者なんかに。それなら、宮廷魔導士とか、貴族のお抱えとかあるだろう?」
「いやな……アイツ、探知魔法で同僚の女の子の、風呂やら用足しやら覗いてたらしい。それで、ぷふっ……それがバレて、探知魔法を師匠に封印されたらしい」
男たちの話を聞いて、ミーシャとエリサは一様に(うわ、気持ち悪い)と眉をしかめた。
「ところで、お嬢ちゃんは回復魔法も使えるんだろ?だったらよ、掃討の方も手伝ってくんねえかな。集落を見つけたら、だいたい10人ぐらいのメンバーで行くんだけど、回復魔法を使えるやつが1人しかいねえんだ」
「えっと……どうしましょう」
あんまりおいしそうに食べてるから、と壮年の剣士からもらった2つ目の干し杏を食べながら、エリサはミーシャの方を見た。
「まぁ、ゴブリンの巣掃討ぐらいなら、大丈夫だと思う。そのかわり、アタシもついていく」
「ミーシャさんが一緒じゃないと、わたし行きませんから!」
「仲のよろしいこったねえ」といいつつ、男たちがゲラゲラ笑った。中の一人がミーシャに向かって言う。
「じゃあよ。さっさと集落見つけてきてくんな。爺さんの方には、俺から話通しておくからさ」
土日はお休みで次話は月曜日に更新します(月・水・金更新)
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