表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の魔導書を巡る百合冒険譚!  作者: 難波霞月
第1章 赤毛の冒険者、忘却の白魔女と出会う。
10/29

第10話 すごくうれしくない逆ハーレム

 一方そのころ。

 エリサは、オオカミやヤマイヌたちに囲まれ、絶体絶命のピンチを迎えていた。

 ミーシャが定宿にしている部屋に行き、荷物を片付けたまではよかった。

 それから「食堂で待っているように」と言われていたので、ちょっと身ぎれいにしてから、おとなしく食堂で待っていただけなのだが。

 

 「キミ、カワイイねえ。冒険者なの?うちのパーティに来ない?」

 

 「ねえねえ、おじさんが冒険者としての基礎をね、手取り足取り教えてあげようか」

 

 「きっ……キミも魔法使いなの? ボ、ボキも同じ魔法使いなんだ。これって運命カモ?」


 有象無象の冒険者の男たちに、エリサは取り囲まれていたのだ。


 (ミーシャさん、早く来て下さいーっ)


 エリサは、食堂の中央にある丸テーブルに座り、生まれたばかりの子羊のように震えていた。

 テーブルの上には、注文したわけでもないのに、種々の料理が所狭しと並んでいる。香草と果物のサラダ、山鳥のロースト、川ガニのフライ、カワカマスのムニエル、アナウサギとキノコの油煮、チーズと半熟の目玉焼きが乗ったそば粉のガレット、白パン、フレッシュなぶどう、チーズの盛り合わせに干したアンズ、それに素焼きのボトルに入ったはちみつ酒。

 どれもこれも、エリサの周囲にいる男たちからの差し入れだ。

 

 「あ、あの。みなさん、ご自分のお席があるんじゃ……」

 

 「やだなあ。ボクはいつでもキミのとなりだよ」

 

 「お前みたいなナヨナヨ坊やじゃダメだろ。俺のようなたくましい歴戦の戦士でないと」

 

 「何だよ、おっさん。エールの飲みすぎで腹が出てるじゃないか」

 

 「なんだてめえ。年上への口のきき方を知らねえのか」

 

 「いい加減引退したらどうなんだ。いいだろう、ちょっと表出ろよ」

 

 「えっ、えっ。ちょっと、ケンカしないでください!」

 

 若い細身の剣士と中年の大柄な戦士が、エリサの隣で口論を始め、やがて胸倉のつかみ合いになる。

 「お、いいぞやれやれ!」と、周囲の他の酔客たちがはやし始めた。エリサに群がっていた他の男たちが、上手にライバル2人を輪から外す。エリサのことを忘れて怒りに溺れる2人は、やがて揉みあいながら店の外に出る。

 

 「ねっねっ。ああいう乱暴なやつは、だめだよねぇ……」

 

 するとエリサのすぐ脇に、長髪をだらしなく垂らした小太りの魔法使いがのぞき込んできた。

 その魔法使いと、ガマガエルの魔獣の姿が一瞬だけ二重写しになり、エリサは「ひっ!」と声を上げ、大きくのけぞった。

 

 (ふええ、男の人は、苦手なのにーっ)


 エリサが誰かに助けを求めようと視線を走らせる。受付のリリーちゃんはどこかに行ってしまっている。

 厨房のお母さんたちの姿はここからじゃ見えない。エリサは視線を2階に移した。

 すると、長く美しい黒髪をたなびかせ、階段を勢いよく駆け下りてくる、板金鎧姿のきれいなお姉さんを見つけた。


「あのー!……「ひゃあああ!」……ああー」


 お姉さんは、奇声を上げながらそのまま外に飛び出していく。エリサは落胆した。そして、だれかが、「あれ、姫騎士様だよな」とつぶやいたのが聞こえた。

 

(なんとか、なんとかしなくちゃ!)


 状況を打開しようとエリサが頭をフル回転させようとしたとき、背後から、ぬぅ、と太くたくましい腕が伸びてきて、エリサの肩を、がし、と抱き寄せる。

 力任せで乱暴なように見えて、意外と優しい手つきだが、それはけしてミーシャの腕ではない。


(ぴぎゃああああああっ!)


 エリサは、 口から心臓が飛び出しそうなぐらいにドキリとして、心の中で絶叫した。

 

 「……おうおう、なんだいお前ら。俺がいない間に随分と楽しそうじゃねえか」

 

 エリサが、こわばりながら視線を声の方向に向けると、銀髪を短く刈り上げた、赤銅色の肌の大男がいた。粗野ではあるが整った顔立ち、しかし、全身から野獣めいた危なさを感じさせる。エリサは今、その男に背後から抱きすくめられていた。

 

 「べ、ベルンハルト……」ガマガエルの魔法使いが、顔を引きつらせながら言う。

 

 「さん、をつけろよ。ラード野郎」

 

 ベルンハルトと呼ばれた男が魔法使いをにらみつけると、魔法使いはダラダラと脂汗を流し、口をパクパクさせる。

 

 「なぁなぁ、こんな別嬪さんを囲んで宴会だってのに、俺が呼ばれてないってのはどういう了見なんだ」

 

 ベルンハルトは、テーブルの上に置かれた山鳥のローストをわしづかみにすると、むしゃむしゃと食い散らかし、

 

 「手が汚れたな」

 

 山鳥の脂で汚れた手を、魔法使いの着ていたローブで拭った。その手ではちみつ酒が入ったボトルをつかんでグイっとあおると、

 

 「甘い酒だな。こんなの、女子供が飲むもんじゃねえか」

 

 といって、乱暴に卓の上に置いた。

 

 (なんだか、また面倒くさそうな人が来た……)

 

 エリサは泣きそうになるのをこらえて、じっと体をこわばらせる。


 「……『騎士くずれ』のベルンハルトだぜ、生きてやがったんだ」

 

 「……あいつよぅ、賞金稼ぎのクセに懸賞首なんだろ?」

 

 「ああ。このあたり一帯をうろついては、表も裏も関係なく依頼を受ける。金、酒、女、暴力、自分の欲求のままに生きてやがる。あいつと関わると、ロクなことにならねえ」

 

 背後の遠くのテーブルから、ささやくように男の噂が聞こえてくる。

 エリサは、ヨツデグマに出会った時以上の恐怖を感じた。

 

 (本当にお願いです。ミーシャさん、早く助けに来てください!)


次話以降、平日月・水・金の朝7時過ぎ更新です!


もしよろしければ、評価、ブックマーク、感想などお寄せいただけるとありがたいです!

レビューやSNSでシェアしていただけると、とてもうれしいです。

では、また次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ