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記憶の魔導書を巡る百合冒険譚!  作者: 難波霞月
第1章 赤毛の冒険者、忘却の白魔女と出会う。
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第1話 森の中の不思議な女の子

挿絵(By みてみん)




 霊峰ガルガンチュアのふもとに広がる、広大で深いラブレーの森。

 森の中を抜ける街道から外れ、狩人や杣人(そまびと)が使うけもの道をさらに奥へ進んだところで、ドォン、という爆発音が響いた。

 

 「……な、なんだ?」


 霊峰の万年氷が作り出した小川の水を水筒に汲んでいた『赤毛のソロ』ミーシャは、突然の轟音に驚いて、思わず声を上げた。

 ミーシャは、くせのある赤毛の短髪で健康的な小麦色の肌をしている。顔立ちは、ネコ科の動物を思わせ、カワイイというより、カッコいい。右目の下あたりに、横薙ぎに刃物か何かで付けた、細い傷跡がみてとれる。

 その身は5尺あまり(約160センチ)と同時代の女性としては長身で、筋肉質の無駄のない体つきだ。丈夫さだけが取り柄の亜麻の簡易な服と、体のラインに沿って胸と腹を守る渋茶色の皮鎧、金属片でできた鱗篭手、使い古してこなれた感じの皮ブーツに身を包んでいる。腰には2尺あまり(約70センチ)のショートソードをはき、腰のベルトに布製のポーチ、背中にはリュックを背負っている。

 この世界で典型的な、冒険者の姿であった。

 

 そんなミーシャは、すぐに冷静さを取り戻した。目を閉じて、呼吸を止め、耳をそばだて、意識を集中する。

 爆発に驚いて飛び立った鳥たちのはばたき。風で木々がこすれあうざわめき。そして、それにまぎれて、かすかに聞こえてくるギィギィという耳障りな声。

 

(……ゴブリン、かな?)


「……ギ、ギギ!」


「ギャアギャア!」


「……って……ださい! もう…………ッ!」


 直後、再び、ドォン、という爆発音。


(また爆発? 複数のゴブリンに、それに、女の子の声っ……!)


 不穏な事態を察知したミーシャは、水筒を腰のホルダーにねじこむと、軽々と小川を飛び越え、声の方向に駆け出した。

 岩をまたぎ、木々をすり抜ける。途中、邪魔な草が生えていたら、走りながら手にした小剣で切り払う。声の場所は、そう遠くはない。息が切れない程度に走りながら、彼女は周囲の様子をうかがう。

 と、木々の合間から、ちらり、と白いものが見える。人影だ。

 

 (いた!)

 

 ミーシャは、人影の方に向かって走り出した。走る、というより跳ぶ、の方が近いかもしれない。岩を足場に跳躍し、木の幹をステップにしてぴょんぴょんと駆ける。間もなく、彼女の視界にはっきりと、人の姿が現れた。

 

 (同い年……? 年下かな?)

 

 ミーシャが見た、その人影は少女だった。少女は、艶やかなローズゴールドの髪が背中まで長く、白磁のような肌に、白い直線的なローブを身にまとっている。その姿は、けして旅装とは言えない。背丈はミーシャよりも少し低いくらいで、見た目にもわかる華奢な印象だ。

 白いローブの少女は、装飾がついた、背丈よりも長く細い杖を振り回し、ゴブリン相手に「しっしっ!」と追い払うようなしぐさをしている。


 彼女を取り巻くゴブリンは5匹。いずれも、木の枝だの、動物の骨だのを得物として、彼女の周囲を鳴き喚きながら飛び回る。ゴブリンの狙いはどうやらローブや杖を飾る装飾具で、時折キラキラと輝く装飾具の石を物欲しそうに見つめていた。


 ゴブリンは、一般的な人の背丈の半分ほど、灰緑色の肌を持つ人型の魔物である。下等ではあるが知性があり、木の棒などを加工した道具を使う。火や言語は持たないが、いくつかの鳴き声で意思の疎通を行う集団性を持った魔物で、群れを作り、集団で獲物を狙う。

 こいつらは、街道を行きかう行商人などの荷物を狙って襲ってくる。主には食料品や道具類、馬や羊などの家畜、そしてピカピカするのがたまらなく興味深いのか、装飾品や硬貨、鏡などを奪い去る、厄介な存在だった。


 「こら、みんなあっち行ってください! この杖はわたしの物だから、あげませんよ!」

 

 少女の威嚇になっていないような威嚇の声。

 ゴブリンたちはお互いに顔を見合わせた後、「ギャッギャッ」と嗤った。

 そして、中の大柄な1匹が杖の先を指さして何かを言う。


「グゲッ! ギギ、ギ、ギャ!」


「ダメです。これは、師匠からいただいた大事な杖。あなたたちの長に捧げたいっていっても、渡せません!」


 少女はそういうと、 すぅ、と息を飲み、


「【炸裂球】!」


 一声叫んだかというと、杖の先端から、子どもの頭ぐらいはある、雷をまとった光の玉を勢いよく撃ち出した。

 ゴブリンたちは身軽にそれをかわすと、光の玉は立木にぶつかり、ドォン!という激しい音ともに激しく明滅した。

 とはいえ、音と光の割には殺傷力は低いらしく、立木はかすかに木片が飛んだくらいだった。


 「……魔法?! ……あの音、これが正体だったんだ!」

 

 その様子を見ていたミーシャは、少女のそばの木の上から、1匹のゴブリンが今まさに飛びかかろうとしているのに気が付いた。

 

「危ないっ!」

 

 思わずミーシャは声を上げ、腰のポーチから何かを素早くつかむと、アンダースローで樹上のゴブリンに投げつける。石礫だ。

 

 「グギャ!」

 

 真下の獲物に飛びかからんとしていたゴブリンは、不意を打たれて顔面に石礫を食らい、バランスを崩して頭から地面に叩きつけられる。

 と同時に、急に飛び出してきた赤毛の少女に、白いローブの少女も、ゴブリンたちも一瞬状況を忘れて視線を送る。

 

 「ええと……どちら様ですか?」

 

 「いや、そういうのは後でいいから! 加勢するよ!」

 

 ゴブリンたちは突然の闖入者にびっくりしながらも、仲間の一匹がやられたのを見て激怒し、「ギャアギャア!」と叫びながらミーシャへ一斉に躍りかかった。連携もへったくれもない雑さだが、5匹同時に襲い掛かられれば、並の手合いではどうしようもない。

 ただ、ミーシャは並の手合いではなかった。

 

 「来なよ!相手してやる!」

これからよろしくお願いします!

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