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35 イブの最終戦略

 大陸暦718年1月28日 16:00 ガルーン湾

 レンはリヤン・レクス・オロール国王からの勅命を手に、ソレイユの幕舎に入って来た。ソレイユはそれを読む。

 「レン、1月26日に首都パリリスは陥落し、リヤン・レクス・オロール国王は捕虜となっていた。こちらのガルーン陥落と皇太子ジェルム捕縛は1月25日であったから、使者のナナがパリリスへの到着は敵の使者よりも1日早く着いたはずだが、完全勝利にはタッチの差で遅れたな」

 「ガルーン湾のキャラック船で待機しているブラウン内務大臣から、グリフィス将軍へ命令書を発送してもらいましたので、国王と皇太子の人質交換は加速します」

 「捕虜交換と停戦条約の調印式は、予定通りこのガルーン城で執り行うこととする」

 「それがよろしいかと」

 「ブラウン殿にもお伝えしてくれ」


 大陸暦718年1月27日 12:00 パリリス

 パリリスを征服したアードラー帝国軍スティーブ・フォン・グリフィス将軍の下に、オロール王国の使者が、アードラー帝国ジェルム皇子からの停戦命令書を持参して来たのである。皮肉にも、敵国の使者が皇子の命令書を届けるという()じれがあった。

 スティーブ将軍は、この命令書を隣にいるイブに手渡した。

 「完全にソレイユにやられた。イブの大戦略で手に入れたリヤン国王という玉が、オロール王国の完全占領ではなく、こちらのジェルム皇子という至宝と交換となるのか」

 「・・・ソレイユは私の戦略を見破り、その裏を巧みに突いて来たのね。

見事としか言いようがないわ」

 「使者殿、名は何と申す」

 「ナナ」

 「ナナ殿、ソレイユ殿にお伝え願いたい。リヤン国王は丁重に軟禁(なんきん)している。他の者たちも同様だ。

 我らは、ジェルム皇子とリヤン国王の交換を望む。くれぐれもジェルム皇子を丁重に扱ってほしいと伝えてくれ」

 「承知しました。ソレイユ様もそれをお望みです。

 ここからは使者の分を越えますが、ガルーン城占領の後は、無益な殺生はなさらないはずです。ソレイユ様は、(むし)ろそれを嫌う方です」

スティーブはナナをじっと見て言う。

 「ナナ殿は、パリリスの民の命も同様に扱ってほしいということだな」

 「はい」

 「私も同意見だ。兵には、パリリスの民に危害を加えることを固く禁じてある」

 イブが納得いかない表情でナナに問いかける。

 「ナナ殿、ソレイユ殿はリヤン国王への忠誠心と民への慈しみが非常に高いと感じておりました。それ故、判断と行動に制約がかかり、このパリリスへ必ず進軍してくると、確信していました。

 しかし、私の戦略を見破った後には、それとは違う選択をしました。それが私には不思議でなりません」

 「・・・私には何もお答えできません」

 「ソレイユ殿に何か変化が・・・いえ、価値観がそう簡単に変化するなど・・・、ソレイユ殿の陰に大軍師がおられるのか。そうか、それで納得がいく」

イブが納得顔になった。

 スティーブが笑顔でイブに話しかける。

 「我らは、ソレイユが戦略と戦術、統率力など全ての能力が抜きん出た怪物だと考えていた。ところがソレイユは、その(ふところ)に切り札を隠していたのか」

 「ええ、ソレイユを支えながら、地位や名誉欲を抑えて陰の存在に徹するとは、実に恐ろしき人物です」

 ナナは2人の会話を黙って聞いていたが、

 「使者としての務めを果たした故、帰還いたします」

と申し出た。

 「おお、ご苦労であった」

 「ナナ殿、オロール王国の侵略者である私がこんなことを言うのは、とても不誠実に感じるでしょうが、一言だけ言わせてください。

 私は、オロール王国の民の温かな心に感銘を受けました。この地に来て、これまで自分の抱いていたイメージは、偏見に満ちたものであると実感し、後悔しています。

 今は一刻も早く、この戦いが終わり、双方の民が豊かに暮らせることを願っています」

 「我が主に確かにそうお伝えします」

ナナはイブの幼さの残る瞳を見てそう答えた。

 「ソレイユと陰の切り札に会えるのが楽しみです」

イブは屈託(くったく)のない笑顔で、ナナに言った。

 すぐさま、スティーブが驚いたような表情で口を開く。

 「おいおい、イブ、頼むから一人で会いに行くのはやめてくれよ」

 「ふふっ、そうしたいのは山々だけれども、今回は控えるわ」

 「では、失礼します」

ナナは姿を消さずに、歩いてパリリスの城を出て行った。ロキたちと合流すると、急ぎガルーンへ向かった。


 大陸暦718年2月6日 9:00 ガルーン城 王の間

 王の間の右にはオロール王国兵士が整列し、左にはアードラー帝国の兵士が整列していた。

 ソレイユや主な重臣たちの脇には、捕虜のジェルム・アードラー皇太子らが立ち、ブラウン内務大臣とグリフィス、イブの脇には、捕虜のリヤン・レクス・オロール国王と各大臣ら国の重臣が立っていた。

 中央の豪華なテーブルに向かって、いつも通りの右側にアゲハチョウの右羽の意匠のついた白のベネチアンマスクをつけたソレイユと、ブラウンが歩み寄って行った。

 ブラウンは、改めて本国にいるアードラー帝国ベルバーム・アードラー皇帝から、捕虜交換及び3年間の停戦条約調印に関する全権を取り付けていた。その証明書をソレイユに手渡す。ソレイユはこれを確認して(うなず)いた。

 捕虜交換文書にソレイユとブラウンが交互に署名した。この署名には、全ての捕虜の交換が記されていた。

 調印が終わると、捕虜のジェルム・アードラー皇太子たちは左へ、捕虜のリヤン国王と各大臣たちは右へと、各国に迎えられた。

 「リヤン国王、無事のご帰還をお喜び申し上げます」

ソレイユが申し上げた。

 「大儀であった。よく我が国を守り抜いてくれた」

と、目尻から光るものを浮かべて労った。

 アン・オロール母后は、対面の席にいる敵国のブラウン内務大臣と目を合わせていた。ソレイユがそれに気づくと、アン母后は視線を切って下を向いた。

 3年間の停戦条約及びオロール国王からアードラー帝国の完全撤退に関する調印は、リヤン国王と全権を委任されたブラウン内務大臣が()り行った。

 今、ここに全捕虜交換及び3か年の停戦条約が締結された。


 両国が王の間から退出して行く中で、2人の若い男女がソレイユに近づいて来た。それはスティーブ・フォン・グリフィス将軍とイブ・ウォーカーであった。

 グリフィスが声をかける。

 「ソレイユ殿、貴方は偉大なことを成し遂げられた」

 「国王陛下のご威光の賜物です。私は兵と民に感謝しかありません。

 この結果、3年間とはいえ、民が安らかに暮らせることを大変嬉しく思います」

 「同じ軍人として、ソレイユ殿に敬意を伝えに参りました」

 「グリフィス将軍、パリリスでは、民の命を最優先し、敢えて難度の高い戦術の遂行を選択されたことに、感謝致します。

 ・・・自軍の兵士が、多く命を落としているにもかかわらず、敵軍に感謝とは不適切な表現ですね。

 訂正します。民に死傷者を出さずに占領されたことに関しては、人としての価値観を共感できます」

 「民に死傷者を出さないことは、イブの考案した戦略の最優先事項に位置付けられていました。これは、イブの価値観です。イブはこの国に来て、民と触れ合うことで、徐々に変わってきました」

 イブが好奇心に満ちた眼をして問いかける。

 「ソレイユ殿、私はパリリス奪還の直後に、貴方の演説を聞いています。

 解放された民に『人として、その尊厳(そんげん)を取り戻してほしい』と語られていました。私はこの言葉に感銘(かんめい)を受けました。それは、このオロール王国の民の人柄に心を()かれていたからです」

 「貴方たちは、アードラー帝国軍に残った唯一の軍神です。イブ殿のその思いが、今後の無益な戦いを無くす力となることを願います」

 「それは無理でしょう。私たち軍神がある限り、オロール王国へは再び侵攻するでしょう」

 イブの言葉にソレイユは、キッと目尻を釣り上げた。

 「そうそう、ソレイユ殿の陰に隠れている軍師を、是非ご紹介いただきたいと思います。

 今回の私の戦略を看破しただけでなく、相殺の策には、驚嘆しました」

 「私に軍師は存在しません」

 「そんなはずはありません・・・」

 「イブ、もうよいではないか」

スティーブはそう言って、背を向けて歩き出した。

 「だって・・・もう、スティーブったら・・・

 ソレイユ殿、停戦とはいえ、貴方にこのような言葉をかけるのは筋違いとも思いますが、人として尊敬しております。・・・ご武運を」

 ソレイユは黙って頷くと、(きびす)を返し歩いて行った。


 ガルーン港

 ガルーン港に停泊していたキャラック船やキャラベル船、大型ガレー船が抜錨(ばつびょう)した。その船は、遥か洋上で待機している大船団に船首を向けた。

 大型キャラック船の船尾で、ガルーン港で(にら)みを利かせているソレイユとその旗下の軍をグリフィスは眺めていた。

 「イブ、ソレイユとは、3年後に戦場で再会することになるのだろうな・・・ん?」

グリフィスは、キョロキョロと辺りを見回す。

 「イブ、イブ、どこだ・・・イブ!」

 グリフィスが甲板を走り回るが、イブは見当たらない。

 「ま、まさか・・・」

 グリフィスは、船着き場でこちらを睨むオロール王国兵士たちの間に、イブを見つけた。

 「イブ!・・・どこまで、自由なんだ」

 グリフィスはキャラック船の甲板で(よろい)を脱ぎ捨てと、船尾から海に飛び込んだ。

 甲板では、グリフィス将軍が海に落ちた、いや、飛び込んだと大騒ぎになっていた。グリフィスは、そのまま船着き場へと泳いで行く。

 船着き場も騒ぎになっていた。

 「キャラック船から飛び込んだ男がいるぞ」

 「こっちに泳いでくる」

 「脱走兵か」

などと、グリフィスを指さして声を上げていた。

 「スティーブ、ここよ、ここよー!」

と、兵士に混じって女性の声がした。

 兵士たちが隣を見ると、深窓の令嬢の形容が似合う清楚で美しい印象を与える女性が、手を振りながら、笑顔で声を上げている。

 スティーブ・フォン・グリフィスが船着き場まで泳ぎ着くと、オロール王国兵士たちがその体を海中から引き上げた。ソレイユやレン、重臣たちもこの騒動に気づき駆け寄って来る。

 スティーブを引き上げた兵士がその男に詰問する。

 「其方の名は? 亡命か?」

 全身ずぶ濡れの姿のスティーブは、兵士の詰問を無視したまま、イブの肩を(つか)む。

 「イブ、ここで何をしているんだ」

 「オロール王国が気に入ったの。この国に残るつもりよ」

 「それなら、それで前もって一言いってくれよ。驚くじゃないか」

 「グリフィス将軍と軍師イブ殿ではないか」

ソレイユが驚いて2人に声をかけた。

 この名を聞いて、周りの兵士たちがざわついた。

 「ソレイユ殿、私はこのオロール王国に残ります。いえ、亡命します」

 ソレイユもこの発言には(きょ)を突かれ、ベネチアンマスクの中で目を見開く。

 「亡命とは、いったい・・・我らがイブ殿を捕虜にしたと勘違いされ、外交問題に発展するかもしれない。それだけではない。停戦条約破棄の口実を与えることにもなる」

 「ソレイユ殿、私は心の温かなオロール王国の民が好きです。だから、もう、戦禍に巻き込まれないようにしたいの」

 スティーブがイブに尋ねる。

 「戦禍を(まぬが)れることと、イブが亡命することは、どういう関係があるのだ」

 「私の最終戦略よ」

 そのイブの言葉にスティーブは、思い出した。


* * * * * * * * * * * * * *

 パリリスの民に死傷者を出さずに占領した時に、「スティーブ、もし、これでも戦争が終結しないのであれば、この国の民をこれ以上苦しめる訳にはいかない。私は最終戦略の実行を視野に入れないといけなくなるわ。

 うふふっ、戦争を終結させるための過激で平和的な最終戦略よ」

* * * * * * * * * * * * * *


 スティーブは、パリリスで面会したサージとイブが、親しそうに会談していることも思い出した。「お願い。ここからは、スティーブも席を外して」

 「そう言えば、ソレイユ領内務長官サージ殿が、占領下のパリリスに尋ねて来て、イブが密かに相談していたな」

 「そうよ。サージ殿は国王と民の保護を求めて来たのよ。話をするうちに、このサージ殿は、まさに賢人だと分かったの。それで、思わず最終戦略の実施について相談したのよ。

 そうしたら、サージ殿も大賛成してくれました」

 ソレイユも最終戦略の内容が飲み込めず、イブに尋ねる。

 「その最終戦略が何なのかを説明してくれ」

 黒いベネチアンマスクをつけたレンが、ソレイユの疑問に対してイブに代わり、淡々と説明し始める。

 「ソレイユ様、この国の民がもう戦禍に巻き込まれないようにするため、イブ様がオロール王国に亡命するとなると、その戦略的な目的は1つだけ考えられます。

 ソレイユ様は3年間の停戦条約の条件を整えましたが、その後は恐らく、アードラー帝国軍が再侵攻して来るでしょう。もっとも、3年を待たずに侵攻して来ることも考えられます。

 そこで、アードラー帝国軍の最後の軍神である破壊神スティーブ・フォン・グリフィス将軍と守護神イブ・ウォーカー軍師がオロール王国に亡命をした場合、アードラー帝国軍の戦力が大幅に低下するだけではなく、この2人が最大の脅威に変わります。言い換えれば、それは再侵攻への絶大な抑止力になります。

 結果として、停戦条約の3年を大幅に延長することが期待できます。

 それが、オロール王国の民を戦から守るという最終戦略なのでしょう」

 イブは眼を丸くしてレンを見つめた。それから、満面の笑みを浮かべてレンに話しかける。

 「大正解よ。ははーん。貴方がソレイユ殿の陰に(ひそ)む軍師ね。やっとその存在を突き止めたわ」

 レンは鋭い視線をイブに投げつけ、異議を唱える。

 「下世話な軍師呼ばわりとは失礼な。私は、ソレイユ様の至高の執事、至強の従者のレンです」

イブはレンに吠えかかる。

 「レン、軍師を下世話とは何よ!」

 レンは深く息を吐いて、冷静さを取り戻す。

 「これは失礼しました。イブ様は軍師でしたね」

 ソレイユがスティーブとイブに尋ねる。

 「2人ともオロール王国に亡命するつもりなのか」

 「勿論よ」

 「俺は、今初めて知ったのだが・・・」

 「最終戦略だって言ったでしょう。スティーブが私を追ってここに来ることも、戦略の内の1つよ」

 「俺は既に、イブの戦略に(はま)っていたのか・・・

 しかし、俺たちは、多くのオロール王国兵を倒してきた・・・そう簡単には」

 「武器を持った兵士として、互いに命を懸けて戦ってきた、の一言では解決できそうもないわね。それは私も心が痛むわ。

 でも、私たちは民を直接(あや)めてはいない。それを決して望まなかった。

 これからは、民の命や豊かな生活に貢献していきたいと願う」

 ソレイユはイブを見つめながら、

 「確かに、この2人が亡命すれば、未来に起こる戦争を延期または回避できる可能性がある。結果として、長きに渡る平和が訪れることにはなる。そうなれば、民にとっては、計り知れない恩恵をもたらす」

(つぶや)いた。

 スティーブが首を(かし)げながら、イブに問いかける。

 「俺たちの亡命をリヤン国王は許してくれるだろうか。俺はリヤン国王に、直接剣先を向けているしな」

 「私たちには、大きな後ろ盾があるから大丈夫よ」

 「何と! イブには、もう後ろ盾ができたのか」

 イブはソレイユを指さして、スティーブの問いに答える。

 「ソレイユ殿よ。ソレイユ殿の口添えがあれば、リヤン国王も首を縦に振るしかないわ」

 ソレイユはイブに問いかける。

 「我に口添えをしろというのか」

 「このオロール王国の民のためになる。ソレイユ殿は必ず口添えしてくれるわ」

 「・・・イブはよいとして、グリフィス将軍はよろしいのですか」

 「よいも、悪いも・・・もう、そうするしかない。すぐ迷子になるイブを放ってはおけない。それに、俺はイブが何よりも大事だ」

 「・・・スティーブ、ありがとう・・・私もよ」

と、イブがもじもじしながら唇を動かした。

 「イブ、知っていたよ」

スティーブは、爽やかな微笑みをイブに向けた。そして、イブを力強く抱きしめた。

 ソレイユはレンを見つめ、無言で語りかける。

 レンはソレイユの無言の問いかけに答える。

 「この戦で命を落としたジルや他の兵士たちへのソレイユ様のお気持ちは、お察しします。さぞ、お心を痛めていることと思います。

 それでも、グリフィス将軍とイブ殿を受け入れるべきかどうかの答えは、ソレイユ様が既にお持ちのはずです」

 ソレイユはゆっくりと(うなず)き、 

 「よし、分かった。グリフィス将軍とイブの亡命を、リヤン国王にお願いするとしよう」

と、2人に語りかけた。

 イブがハッとしてスティーブから離れると、ソレイユを見つめて付け加える。

 「スティーブと私は、ソレイユ軍に編入を希望します」

 ソレイユはまた驚いた表情に変わった。

 イブは真剣な瞳でソレイユを見つめて思いを述べる。

 「アードラー帝国軍や他国への侵略としての兵士にはなりたくありません。

 このオロール王国の民を守るための兵士でありたいの。だから、ソレイユ軍に編入します」

 (けわ)しい表情になったソレイユが、(きび)しい現実を突きつける。

 「ソレイユ軍も王命とあらば、戦をしなければならぬのだぞ」

 「大丈夫です。戦の惨劇を知っているソレイユ殿なら、回避できるでしょう。きっとそのための細く険しい道を見つけ、その道を歩んで行くと決断するはずです。

 それに至高の執事、至強の従者のレン殿やその他の重臣、スティーブと私もお力になります」

 「細く険しい道か・・・レンと同じことを言うのだな。

 侵略の戦争は私も望まぬ。・・・民を守るための兵士か。頼もしい限りだ」

ソレイユは笑顔でイブに答えてから、レンを見つめた。

 レンは無表情だが、唇がかすかに動いた。ソレイユは、レンが微笑んだように見えた。


 停止したキャラック船からボートが近づいて来る。

 グリフィス将軍はボートの兵に叫ぶ。

 「スティーブ・フォン・グリフィスとイブ・ウォーカーは、今をもってオロール王国に亡命をする。これは自らの意思だ。

 このことを、アードラー帝国ベルバーム・アードラー皇帝にお伝え願いたい」  

 「その通りです。戦地に来て実感したの。アードラー帝国で教えられてきたこの国の民のことは、でたらめだと。この国の民が大好きになりましたー!」

 イブもスティーブに続き叫んだ。

 「謀反(むほん)は重罪、極刑です。将軍、お止めください」

アードラー帝国兵が叫んだ。

 スティーブとイブの周りに、ソレイユ軍兵が人の壁を築いた。

 「2人の亡命希望者は、このソレイユが保護する」

と、ボートに向かって叫んだ。

 「うぐ・・・あのソレイユが保護か・・・」

 すると、ブラウン内務大臣が兵士たちに言葉を投げる。

 「ジェルム・アードラー皇太子をお救いすることができたのだ。我らの目的は達成できた。

 ジェルム皇太子をこのまま祖国へとお守りするのだ。

 これは帝命である」


 ガルーン城謁 見の間

 ソレイユは、まだガルーン城に滞在していたリヤン国王と謁見した。ソレイユの脇には、スティーブとイブがいた。

     次36話 「解放の英雄編」最終話

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