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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

早食いと遅食い

掲載日:2025/05/21

昼休みの学食。

いつものように友人達と同時に食べ始めるのに。


由希(ゆき)、先戻ってる」

「うん」


友人達が食べ終わってもまだほとんど食べ始め状態の俺。


「ほんと食うの遅いなー」

「昼休み終わるまでに戻って来いよ」

「大丈夫」


もくもくもくもく。

食べるのに集中する。

周りもどんどん座る生徒が入れ替わっていく。

どんなに急いで食べても全然進まない。

とにかく俺は食べるのが遅い。

なんとかならないのかな、これ。


空いていた向かいの席にひとりの男子生徒が座った。

有名な鈴山(すずやま)だ。

なんで有名かって、すごくかっこいいから。

休み時間にはいつも女子から告白の呼び出しを受けているらしいと噂で聞いた事があるけど本当かな。


なんて、そんな事を考えてる場合じゃない。

早く食べないと。


「!!」


鈴山、食べるのめっちゃ早いな。

あっと言う間に食べ終えた鈴山を見ながら俺も食べるけれどやっぱり遅い。

それでも必死に急いで食べていたら向かいの鈴山がすっごい俺を見てる。


「すごく大切にご飯食べるんだね」

「え」

「きちんと味わってていいね」


そんな事、初めて言われた。

いつも『早く食べろ』、『遅い』ばかりだからびっくり。


「鈴山は食べるのすごく早いね」


俺が言うと鈴山は少し恥ずかしそうにする。


「うん。親からももっとゆっくり食べろって言われるんだけど。早く食べようと思って早くしてるわけじゃないんだ。ほんとはちゃんと味わって食べたいんだけど、つい…」

「そうなんだ…」


俺、鈴山と話してる。

学校の王子様と、なんだか仲良さげに話してるってすごい。

周りの視線もすごい。


「えっと…」

「?」

「名前、聞いてもいい?」

「あ、うん。坂本(さかもと)


同じクラスになった事がないので、鈴山が俺を知らないのは当然だ。

俺が鈴山を知ってるのは有名だから…って言うか、学校内で鈴山を知らない人はいない。


「坂本はご飯大切に食べられて羨ましいな」

「!!」


王子様が俺に『羨ましい』と発言した。

平凡で全てが平均点な俺が鈴山を羨む事は多々あっても、まさか逆があるとは…。

いや、これ、鈴山の性格が優しいからこういう会話になるだけであって、他の人だったら俺をばかにする要素だろうな。


「…俺は遅食い、直したいんだ」

「直さなくていいよ!」

「えっ!?」


鈴山が急に大きい声を出すのでびっくりしてしまう。


「せっかくゆっくり食べられるんだから、きちんと味わって食べたほうが絶対いい」

「…そう、かな」

「うん」


遅食いを認めてくれた人って初めてだ。


「ごめんね、食べる邪魔して」

「ううん。大丈夫」


また俺が食べ始めると、鈴山は席を立つかと思いきや、座ったまま俺をじっと見ている。

なんだろう、と視線をそちらに向けると目が合って微笑まれた。

男同士なのにどきっとしてしまう。


「あんまり見られると恥ずかしいんだけど…」

「あ、ごめん。でもちょっとだけ見ていたいから…だめ?」

「…いいけど」


俺が食べるところを鈴山はただ静かに見ている。

なんだか変な感じだけど、俺も黙々と食べる。

他の動作は遅くないと思うんだけど、食べるのだけは本当に遅い。

俺が食べ終わると鈴山はショーでも終わったかのように、ほぅっと溜め息を吐いた。


「ほんとにしっかり味わって食べてて羨ましいな。俺も真似しよう」

「真似…」


二度目の『羨ましい』に『真似しよう』と。

逆じゃないのか。

逆だよな。


「じゃあ俺も鈴山の真似する」

「しなくていい。早食いなんてよくないよ」

「でも早く食べられるのってかっこいいから」

「そんな事ない。坂本はゆっくり食べる事の良さをわかってないだけだよ」


ゆっくりって言うかゆっくり過ぎると思うんだけど。

それにそれを言うなら鈴山も早く食べられる事の良さをわかっていないだけじゃないのか。

俺にはすごくかっこよく見えるんだけどな。


「とにかく、坂本はずっとそのままでいる事!」

「……うん」


よくわからないけど鈴山は俺の返事にすごく満足そうに微笑んだ。


結局昼休み残り少しというところまで俺に付き合わせてしまって悪かったな、と思いながら途中まで鈴山と一緒に廊下を歩く。

すっごい見られるな…特に女子から。

鈴山は視線慣れしてるのか、特に気にした様子じゃないけど、俺はちょっと落ち着かない。


「またね」

「うん」


教室の前で別れたら視線は感じなくなった。

かっこいい人って大変だな、と思いながら席に着く。

またね、は、あの優しい言葉がまた聞けるという事だろうか。






「坂本」

「「え」」


翌日の昼休み、学食に行くとなぜか鈴山が待っていた。

一緒にいた友人達が驚いている。


「由希、いつ鈴山と仲良くなったの?」

「昨日」

「友達と一緒だったんだ…じゃあ邪魔しちゃうから」


鈴山はひとりで学食に入って行こうとするので友人達が止める。


「いいじゃん。鈴山も一緒に食えば」

「そうそう。別に邪魔とか思わないから」

「…いいの?」

「うん」


鈴山は嬉しそうにしたあとに少し複雑そうな顔をする。

どうしたんだろう。

なんて考えて突っ立ってたら席が埋まってしまうから四人で学食に入った。


「……いや、食うの早過ぎだろ」

「由希は遅過ぎるし鈴山は早過ぎるし、極端だな…」


やっぱりびっくりするよな。

でも今日は昨日よりゆっくり食べていたように見える。

それでもかなり早いんだけど。

友人達の言葉に鈴山は恥ずかしそうに少し頬を染める。

さっきの複雑そうな顔は早食いを見られるのが恥ずかしかったからかも。


「うん。坂本みたいにゆっくり食べたいんだけどね」

「いや、由希まで遅かったらそれはそれで苦労すると思うよ」

「そう。その通り」


つい頷いてしまう。

本当はぱっと食べて他の事をしたい時だってある。

それなのにこの遅食いのおかげでできない事があったりもして、悔しいなと思ったりもするんだ。

だから早食いのほうが得だと思う。

早起きは三文の徳って言うし……これはちょっと違うか。

でも早いほうがいいに違いない、と俺は思っている。


「もし鈴山と由希が付き合ったら大変そう」

「「え」」


唐突な話題に俺と鈴山の声が重なる。


「ほんとだ。一緒にメシ食ってても、片方はぱっと食べ終わっちゃうし、片方はいつまでも食べ終わらないし」

「「……」」


なんとなく鈴山と顔を見合わせてしまう。

別に付き合うつもりはないけど、でも確かにふたりの言う通りだ。

これって俺、彼女ができた時に大変なんじゃないの?

早く食べ終わる分にはいいけど、遅くて相手を待たせるって絶対イライラさせる気がする。

…彼女できるのかもわからないのにそんな心配する必要ないのかもしれないけど。


「でも坂本はそのままでいいよ」


まただ。

鈴山は俺を肯定してくれる。

優しいなぁとじっと見てしまう。


「そーなんだ…。じゃあ前言撤回。鈴山が彼氏になってやれば万事解決なのかもな」

「そうかも。じゃ、先戻ってるから」


友人ふたりは勝手な事だけ言って席を立った。

残された俺と鈴山はなんだか気まずい。

とりあえず俺は食べる。


「鈴山も戻っていいよ。俺に付き合ってたら昨日みたいに昼休みなにもできないから」


そしてちょっとこのなんとも言えない空気をかき混ぜたい。

鈴山を変に意識してしまいそうだ…男同士なのに。


「いや、坂本が食べるとこ見てたいから」

「……」


なんとなく鈴山の顔を見てしまう。

かっこいい上に優しい。

これはモテるわ。

…あれ。


「鈴山って休み時間には必ず女子から告白の呼び出し受けてるんじゃないの?」


そういう噂だ。

でも鈴山は首を横に振る。


「まさか。そんなの嘘だよ。呼ばれるのはたまに」

「……」


たまにでも呼ばれるのはほんとなんだ…。


「でも俺、今誰かと付き合う気ないし」

「そうなの?」

「うん。告白してくれる子だってほとんどが俺の見た目だけ好きなんだろうし。そういうの苦手」

「そっか…」


かっこいい人にはかっこいい人なりの苦労や悩みがあるらしい。

俺には一生わからん。


「でも、坂本の友達の言う通りかも」

「え?」

「坂本、俺と付き合う気ない?」

「!?」


箸が手から転がってしまった。

なに…なに?

『付き合う気ない?』って言った?

え?


「俺、坂本となら付き合えると思う」

「いや…え?」

「それに付き合ったら坂本がご飯食べるところずっと見てられるんだから、最高じゃない?」

「は?」


最高ってなにが?

俺が食べてるところ見てなにが楽しいんだ。


「…好きでもない相手と付き合おうとするの、よくないよ」


うん、うまく躱せたんじゃない?

これなら鈴山も納得するはず。


「え…俺、坂本好きだよ?」

「!?」

「それに坂本をもっと好きになりたいとも思う」

「!?!?」

「な、付き合おう?」

「……」


なに。

なんか押してくるな。

ていうか昨日の今日だぞ。

確かに俺だって鈴山の事、嫌いじゃないし、好きかって聞かれたら好きって答えられるけど、それは恋愛感情かって聞かれたら『?』になる。


「そうだ。坂本、今度の休みに一緒に出かけよう?」

「え」

「“デート”って言うにはまだ早いみたいだから、今は一緒に出かけるってだけ」

「…別にいいけど」


ん?

『まだ早い』って言った?


「じゃあ連絡先交換しよ。行きたいとこあったら教えて。ご飯は絶対一緒に食べる」

「……うん」

「学食じゃ落ち着かないから、他のとこでふたりでご飯食べられるなんて嬉しいな」


なんか…押されてないか。

めちゃくちゃ押し切られてる気がするし。

だからって嫌なわけじゃないんだけど、鈴山の言葉と友人達の言葉が頭の中でぐるぐるしていて顔が熱い。

俺と鈴山が付き合うなんて…ないだろ。






メンズファッションモデルが画像からそのまま抜け出してきたかと思った。

それくらい私服の鈴山は眩しい。

周囲の視線も集まっている。


「どこか行きたいとこある? 買いたいものとか」

「特には…」

「じゃあとりあえずそこのショッピングモールでも行こうか。見たいものあったら言って」

「うん」


つん、と鈴山の手が俺の手にぶつかり、心臓が飛び跳ねる。


「ごめん」

「ううん…」


先日以降の会う度の押してくる具合から、わざとかと思ったら違ったみたいだ。

ふたりで並んで歩いて色々な店を見て回る。


「これ、坂本に似合いそう」

「そう? こういう色着た事ない」

「試してみたら?」


不思議と心がふわふわするような感覚。

俺がこんなに居心地よく感じているのを知ったら鈴山はどう思うだろう。

やっぱり喜ぶのかな。


なにか目的があるわけでもないから、色々見て回ってはお互いに似合いそうなものを見つけてみる。

こういうの、初めてだけどすごく楽しい。

…鈴山と一緒だから楽しい…?


「坂本、ご飯食べよう」

「え、もうそんな時間?」

「うん」


時間を確認するともう十二時半。

あっという間に時間が経っていた。

ショッピングモール内のファミレスは、タイミングがよかったみたいで少し待っただけですぐ入れた。

なにを食べようか、とメニューを見て考える。

やっぱり早く食べられるものがいい。

俺がスパゲティを選ぶと、鈴山は食べるのに時間がかかりそうな和食の御膳にした。

結果、鈴山があっという間に食べ終えて俺はいつまでもスパゲティをくるくるしているという状態…。

なんでだ。

なんでスパゲティと和食御膳でこうなる。

鈴山は俺が食べるところをじっと見ている。


「ほんとに美味しそうに食べるね」

「そうかな」

「うん。作った人も喜んでるよ。そんなに大切に食べてもらえたら作り甲斐もあるし」

「そうかなぁ…」


なんだかうまい言い方されてるけど、俺はやっぱり早く食べたい。

遅食いにいい事なんてない。


「…坂本にご飯作ってあげたいな」

「え?」

「坂本が俺の作ったものを食べてくれるところ、見てみたい」

「それは…」


なんと言うか…まるで告白のような…。

いや、そう言えば付き合おうとか言われたっけ。

でも鈴山が興味があるのは俺の食べるところだけだし。

だけど好きって言われた…。

あーもうよくわからん!


「す、鈴山は料理得意なの?」


話題を変えよう。

そうしたら心が落ち着くだろう。


「得意って言うか、好きかも」

「そう…」


かっこよくて優しくておしゃれで料理も好き。

スペック高過ぎ。

なのに誰かと付き合う気はなくて、俺に付き合おうと言う……やっぱりここに戻ってしまった。


「坂本の好きなタイプってどんな感じ?」

「好きなタイプ?」

「うん」


そんなの考えた事ない。

いつもどんな人を好きになってたっけ。

ていうか今、好きな人いたっけ…。


自分の事なのに他人の事のように考える。

好きな人、好きな人…。

考えながら視線を彷徨わせていたら鈴山で目が留まった。

目が合って鈴山は『ん?』と微笑む。

好きな人…。


「……」

「坂本?」

「え? あ、…いや、俺全然、好きなタイプなんてないから」

「そうなの?」

「…うん」


“好きな人”という言葉にぴったりはまったのが鈴山だった。

静まれ心臓。


「じゃあ俺にも可能性はあるわけだ」

「は?」

「坂本、好きだよ」

「!!」


フォークを落としてしまう。

床に転がったフォークを鈴山が拾ってくれて、代わりのフォークを俺に手渡そうとしてなにかを思いついたようにそれで俺のスパゲティをくるっと巻き付ける。


「?」

「はい、あーん」

「!?」


口元に差し出されてもどうしたらいいかわからない。

期待に満ちた鈴山の目。

恐る恐る口を開けるとそっとスパゲティを運ばれた。


「こうやって食べれば遅食いも直るかもよ?」

「……でも心臓に悪い」

「え?」

「なんでもない」


鈴山の言動に跳ねる心臓のほうが素直だ。

…もう手遅れかも。






「由希、大丈夫か…?」

「うん…」

「それもう遅食いってレベル超えてるぞ」

「うん…」


箸が進まない。

全然食べられない。

食べようとも思えない。

箸で抓んでは落として溜め息を繰り返す。

もはや食べてもいない。


鈴山は今はいない。

女子に呼び出されてるから。


『ごめん、なんか呼ばれちゃって…すぐ済むと思うから先に食べてて』


すぐってどのくらいで終わるの。

俺の事好きなんじゃないの。

なんで呼び出し断らないの。


別に俺、鈴山の恋人じゃないのに色々考えてる。

もやもやする。

すると余計に食べる気がなくなる。


「ごちそうさま…」

「いや、由希一口も食べてないから」

「午後持たないからちゃんと食え」

「もうお腹いっぱい」


はぁ…。

また溜め息が出てしまった。

どうしよう。


「あ、鈴山! こっち!」

「!!」

「席取っといてくれたんだ、ありがとう……あれ」


鈴山が俺を見て首を傾げる。


「坂本、具合悪いの?」

「ううん」

「じゃあ坂本も来たばっか?」

「…ううん」


そりゃ疑問にも思うだろう。

いくら食べるのが遅いとは言っても今日は全く食べていないんだから。


「それが由希、もういらないって言ってんの」

「えっ!? なんで? やっぱ具合悪いの?」

「悪くない」

「さっさと食わないと、昼休み中に食い終われないのにな」


だって食べられないんだからしょうがないじゃん。

もやもやが胸や腹に溜まって、ご飯どころじゃない。


「そういや、呼び出しどうだった?」


友人が切り出すので俺も鈴山の顔を見る。

鈴山は困った顔をする。


「それが泣かれちゃって、思ったより時間がかかったんだ」

「モテるって大変だな…」

「聞いてるだけだと羨ましいんだけど、当事者は大変そう」

「……」


泣かれたから、その子が泣き止むまでそばにいたんだろうか。

あ、またもやもやが増えた。


鈴山も食べ始めるけど相変わらずの早食い。

俺はもう箸を置いた。


「坂本、食べられない?」

「……」

「由希、さっきからずっとこの調子なんだよ」

「ゆーき、ちゃんと食え」

「もう無理」

「だから『もう』って一口も食ってないから」


全部鈴山のせいだ、と睨みつけると鈴山はそれを受け止めて真剣な顔になる。


「…ふたりは先に戻ってていいよ。俺が坂本に付き合う」

「いい?」

「じゃあ頼むわ」

「うん。任せて」


鈴山とふたりになりたくなくて、俺も席を立とうとするけれど視線で止められたので仕方なく座り直す。

周りにはたくさん生徒がいるけれど、鈴山しか見えない。

きっと鈴山の目にも俺しか見えてない。

でもさっきまで別の女子がその目に映っていた。

そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる。


「…もう俺に構わないで」

「坂本?」

「鈴山の顔、見たくない」


なんでこんな事言ってるんだろう。

もやもやがイライラに姿を変え始める。


「鈴山、やだ」


視線を手元に落とす。

俺はどうしたいんだろう。

鈴山になんて言って欲しいんだろう。

どうして欲しいんだろう。

ただ俺だけに優しくして欲しい?

だったらそうしてもらえる言動をしなければだめなのに、今、俺がしているのは鈴山を傷付ける事だ。


「そう…」

「……」


冷めた声。

そんな声聞きたくないのに。

俺が聞きたいのは鈴山の優しくて温かい声なのに。

イライラが邪魔して素直になれない。


「だったらしっかり俺の目見て言えよ」

「!!」


伸びてきた手に頬を包まれて正面からまっすぐ鈴山のほうを向かされる。

痛いくらい鋭い視線が俺を捕まえている。

怒ってる、よな…。


「…ごめん」

「謝れって言ってんじゃない。さっきの言葉、俺の目見て言え」

「……」

「坂本」

「…言えない」


言えるわけない。

だって本心じゃない。

唇を噛むとなぜか鈴山の顔が歪んだ。


「なんで坂本はそんな顔してるの?」

「…?」

「なにかあった?」

「……」


そんな顔って、俺はどんな顔をしてるんだろう。

鈴山が俺にもう一度箸を持たせるので、仕方なく少しずつご飯を口に運ぶ。


「……鈴山、女子に呼び出されてた」

「うん」

「俺の事好きなくせに、呼び出されて断らなかった」

「…うん?」

「ほんとは俺の事好きじゃないんだ」

「ちょっと待って」


鈴山が俺の言葉を止めるので黙る。


「坂本は俺が好きなの?」

「……鈴山、女子に呼び出されてた」

「それはさっきも言ってた」

「鈴山、やな奴…」

「うん」

「…でも優しいし、一緒にいると心がふわふわする」

「つまり好き?」

「……」


そんなの、言わなくても気付けよ。

自分勝手だとは思うけど、恥ずかしいから口にしたくない。


「坂本、俺が好き?」


でも鈴山はまた聞く。


「言って、坂本。言ってくれなきゃわからない」

「…女子に呼び出される鈴山は嫌い」

「坂本が素直になってくれたらもう呼び出しには応じない。断る」

「……」


ほんとかな。

ていうか素直になれって、やっぱわかってんじゃん。

ちょっとむっとすると鈴山が一瞬口元を緩ませて、すぐにまた引き締めた。


「……嫌い」

「そっか…」

「…の反対」


それだけ言って食べる事に集中する。

食べられるところまで食べよう。

すっきりしたらちょっとだけ食欲が戻ってきた。

顔が熱い。

ちらっと鈴山を見ると、鈴山も真っ赤になってる。

なんだよ、わかってたくせに。


「坂本」

「…なに」

「名前で呼んでもいい?」

「……ご飯食べ終わったら」

「わかった」


俺が食べるのを鈴山は幸せそうに微笑んで見ている。

おかしいな。

そんなに俺が好きなのか?

…自分で考えて血液が沸騰しそうになった。


「この前みたいに食べさせてあげようか?」

「いい」


そんな事されたら心臓がいくつあっても足りない。

昼休みが終わるぎりぎりで食べ終わって箸を置く。


「由希」

「……うん」


自分の名前なのに特別な響き。


「俺、洸介(こうすけ)だから」

「わかった」

「呼んでみて」

「…洸介」

「なに?」

「呼んでみてって言ったのそっちじゃん」


ふたりで席を立つ。


「由希、今度はちゃんとデートしよう」

「まだ付き合うって言ってない」

「跪いて『付き合ってください』ってお願いしてもいい?」

「やめて」


廊下の隅でこっそり手を繋ぐ。


「由希がご飯食べるところ、これからずっと見てられるね」

「どうかな。洸介が女子に呼び出されたら二度と見せてあげない」

「もう全部断るって言ったじゃん」


遅食いも悪い事だけじゃなかった。




END


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