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偏移  作者: Fickle
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21. 静かすぎる優等生

朝の学区ビル二階。


潜流シールドはまだ完全に収束しておらず、

校舎の上空には淡い青い光が、かすかな霧のように漂っていた。


スウ・ネンアンは、つるりとした標準型の通学カバンを背負い、

校門をくぐった。


門を通過する瞬間、潜流IDが自動で読み取られ、

ゲートフレームがほのかに光った。認証完了のサイン。


それは、指先を一滴の光がすべるような、微かな感触だった。


すべてが、いつも通り。

すべてが、規格通り。


——けれど、念安の心の奥には、わずかなざらつきがあった。


まるで靴の裏に、目に見えない微粒の砂がついているような、

気づかなければ気づかないほどの違和感。


挿絵(By みてみん)


教室に入ると、窓の外では潜流ランプがまだ低周波で揺れ、

机の表面は天井に映る護盾シールドの残光を反射して、ぴかぴかに磨かれていた。


生徒たちが次々と席に着き、

教室内には朝の潜流同期に伴う微細な振動が漂っていた。


その感覚は、水面に風が吹いたあとのさざ波のように、

ほのかに皮膚を撫でるかゆみを残す。


時間ぴったりに教師が入室し、にこやかに頷いた。


けれど念安は、その顔に、ほんの一瞬目を凝らしてしまった。


——その笑顔。


完璧だった。角度も口元のカーブも、

まるで教科書の挿絵のように整っていた。


だが、その完璧さに、ほんのわずかな硬さがあった。


筋肉の動きが滑らかでなく、

まるでガラスに描かれた笑顔の上を、風がなぞったような——

そんな微かな歪み。


念安は一度まばたきをして、その違和感を心の奥に押し込んだ。


……考えすぎだ。



点呼の時間。


念安は、教室を何気なく見渡した。


そして、彼を見つけた。


沈以安シン・イーアン


どの教師も一目置く、優等生。


潜流制御能力に優れ、

自身のベイスン核は極めて安定していると評価されていた。


彼は窓際の三列目に座っていた。


制服は標準通り。

白シャツの襟は折り目正しく、

ネクタイの結び目には一分の狂いもなかった。


髪は整えられ、背筋はまっすぐ。

机上の学習端末の角度までが、計測されたかのような正確さだった。


名前を呼ばれると、彼は顔を上げ、

澄んだ声で、はっきりと返事をした。


ためらいも、揺らぎも、ない。


その声音は、下手をすれば訓練用の音声よりも、むしろ正確だった。


念安は、胸の奥にわずかな緊張が走るのを感じた。


——潜流の同期度が、高すぎる。


どれほど優秀な生徒でも、

返事の瞬間には、微かな乱れがあるはず。


呼吸の揺れ、感情の波が、

ほんの少しでも潜流に影を落とすはず。


だが、沈以安には、それがまったくなかった。


彼の同期は、あまりにも滑らかで、静かだった。


まるで、磨かれすぎた湖面に、そよ風すら触れられないような静謐さ。



午前の授業は、基礎潜流微調整(Drift Tuning)。


教師が配る同期棒(Drift Tuning Rod)を使って、

自分の潜流波を調整し、情緒場の変化に適応する訓練。


念安は同期棒を手に取り、

潜流の流れを少しずつ整えていく。


棒から伝わってくる振動は、

ぬるま湯の中に花びらがふわりとほどけていくような、

柔らかく、かすかな脈動。


周囲の生徒たちは、それぞれ異なるリズムで調整を進めていた。

それが普通だった。


——だが、彼女の視界の端に、

沈以安の姿が入った。


彼の手の動きは、異様なほど滑らかだった。


目に見えるような涟漪は、どこにも発生していない。


それどころか、同期棒が潜流場に「溶け込んだ」のではなく、

まるで「呑み込まれた」ようだった。


その瞬間、同期棒の表面の光が、

ごくわずかに——肉眼では見えないほどに——

一ミリ、沈んだ。


高密度の潜流に引かれたように。


まるで、

音もなく渦を巻く、異質な力に引き込まれたかのように。



チャイムが鳴り、

光がふわりと揺れて、授業が終わる。


沈以安は席を立った。

その動作は、正確で、無駄がなかった。


指の関節、首の角度、その一つ一つが、

まるで事前にプログラムされた軌道をなぞっているかのようだった。


念安は、無意識に胸元を押さえた。


心臓が、少し速く鼓動していた。


それは恐怖ではない。

名前のない不安。

嵐の前に、葉が裏返るような——本能的なざわめき。



廊下。


念安は他の生徒たちと並びながら、

前方にある潜流清浄門(Drift Cleansing Arch)を見ていた。


門から吹き出す霧は、雨上がりの温室のような、

清涼な匂いを帯びていた。


生徒たちは、笑い声を交わし、

何も疑わぬまま通っていく。


だが念安は、思わず振り返った。


列の中央、

そこに、イーアンがいた。


穏やかな表情、澄んだ目。


外見だけ見れば、


——完璧すぎるほどに、完璧だった。


隙がない。

音もない。


「標準都市」における、理想のテンプレート。


——だからこそ、怖かった。



潜流シールドが、空高くで低く唸っていた。


目には見えない。

だが、今——

それは何かに内側から、密かに裂かれているように感じられた。



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