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第6話 実業家トーマスの本懐

 ☆☆☆第18修道院裏庭



「ウワ~ン、グスン、グスン、メアリーちゃん聞いて欲しいのです!」


「聖女様、どうしたの~、ヨシヨシなの」



 アリス様が私の膝に顔を押しつけて泣いている。

 こんなの皆に見せられないな。


 話を聞くと、儀式を失敗した。連続で何回も・・・国王陛下や大勢の神職や貴族が見ている前で、聖女失格なのではないかとアリス様の耳に入るくらいまで聞こえてきたそうだ。


 チラッと建物の影をみると、お付きのシスター様は遠くから見守っている。


 これはおかしい。聖女様は素質だ。聖魔法と豊穣の力だ。

 失格なんてことはない。反対派閥の悪口か?



 そして、この子は強い。


「何回も失敗したのです」

「最後までやったの~?」

「うん」


「それはスゴイ事なの~!」



 アリス様は素質があるのだ。

 どうやって、伝えようか?


「遠い異国の話なの~~!」


 と冒険者から相談を受けた話を昔話風にして話した。



 ある仲良し冒険者グループがいた。後衛、中衛とアタッカーで構成されていた。

 アタッカーは支援を受けて、いつも魔物に剣で斬りかかっていました。

 しかし、連続で何回も失敗をして、回復術士に治療をしてもらう日々を送っていました。


 クラスが落ち。お金ももらえません。


 しかし、誰も彼を責めなかった。


 冒険者稼業を知らない人達は笑ったが、冒険者グループの仲間は激怒した。


『魔物に斬りかかるのがどれだけ恐ろしいか知らない奴が彼を笑うな!』


 と、実は、彼らは、冒険者試験でアタッカーの怖さを知って、後衛、中衛に転じたのでした。


 それを何度も挑戦する姿に心を打たれていたのです。

 やがて、そのアタッカーはクランでエースアタッカーになりました。


 とこんなたとえ話をした。



「グスン、グスン」

「アリス様はスゴいの~、そのアタッカーなの。9歳で国王陛下の前で儀式を行うなんて普通は出来ないの~」


 私は9歳の頃、プリンキュアを見ていたよ。


「グスン、グスン」

「ニャーニャン!ニャン!」(ほら、私の可愛い姿をみて元気をだして)



「アリス様、お時間です」

「グスン、うん」


 お付きのシスター様は腰が90度になるくらいお辞儀をされた。

「ありがとうございます」

「どういたしまてなの~」



 愛されているな。

 シスター様は落ち着いている。


 それに比べて、うちの老シスター様は


「ひい、ふう、みい、よ・・」



 金貨を数えてやがる。


 さて、聖女様は帰られた。こっちの問題をかたづけよう。



「トーマスさん。何なの~!」

「ヒイ、どうぞ。お叱り下さい」



 トーマスが勝手に本を出版しやがった。

 確かにお願いをしたが、ものすごい速さだ。

 聖女様との対談本は出版をやめさせた。


 既に、その他数冊は、市場に出回っている。

 回収できないかな。



 悩み相談の類型ごとに、ビジネス・・・恋の指南、仕事の悩み解決。


 しかも、

『実業家トーマス、シスターのお友達から聞いた話』シリーズになってやがる。



「この『シスターのお友達』って何なの~?」

「はい、お名前を出してはさすがに宜しくないかと」


 そうか、こちとら吟遊詩人に歌われた欲しがり妹だ。気を使ってくれたのか?

 なら、出版をするなよと言いたい。



 そして、今、印税の金貨がガッポガッポ入って来て、シスター様が数えているわけだ。



「ヒヒヒヒヒ、メアリーは、もう、掃除、洗濯、料理はせんでええ。メアリーの側にいたい。無料で良いから働きたいという信徒がな。ぎょうさんおるのじゃ」



「ほら、ペロペロキャンディーじゃ。椅子に座って舐めていればええで」


 貴重な糖分だ。もらったが、


 ペロペロペロ~~


「フヌ~、ダメなの~!メアリーも修行するの~!手伝ってくれる信徒にはお給金を払うの~!」


 つい、叫んでしまった。


「メアリー様が声を荒げている!」

「自ら雑務をされるとは、何て素晴らしいメアリー様」

「そうだ。このシスター、メアリー様のお金を独り占めしようとしているぞ」


「ヒィ、上に献金して、ワシの座布団じょれつをあげてもらうのじゃ。何が悪い!」


「「「因業BBAめ!!」」」

「追い出せ!」

「クズだな~」



 アカン、アカン、信者達が攻撃的になっている。



「ダメなの~、シスター様は、悔い改めるの~、人は失敗するの~、失敗したことのない人だけが、シスター様を責めるの~」



「「「「ハハーーー」」」」

「そうだった。許せよ。さすれば門が開かれる」

「『人生敗者復活戦』いつも、メアリー様が仰っている言葉だ」


 ハハーと平伏をするな。私は神様ではない。メアリーちゃんだ。

 それに、何だよ。そんな言葉を言った覚えはない。勝手に広まっている。


「ワシャ、この歳で目覚めた。メアリー、いや、メアリー様!!グスン、グスン」



 目覚めるな危険だ!何かの運動家か?肉でも食わなくなるのか?



「とにかく、このお金は、維持費に必要な分以外は、貯金なの~~!」


「はい、この信徒頭トーマスが責任を持ってやります」



 何だ?信徒頭。勝手に、役職名が出来ている。


 ヤバいな。そうだ。お馬鹿になろう。

 お馬鹿になって、幻滅をしてもらおう。

 なら、善は急げだ。

 お遊戯会でも開いて幻滅をしてもらおう。





 ☆☆☆メアリーお遊戯会


「メアリーのお出かけなの~」


「「「ニャンーニャー!」」

「「「ワンワンワン!」」」


 猫4と犬2をリードでつなげて、馬車に模して、歩き回る。キャストはニケちゃんのお友達とワンコは信徒からお借りした。


「まあ、可愛らしい」

「あのワンコ、うちの子よ!」

「・・・これは、倹約をしろと言うことか?」

「ああそうだ。馬車は4頭立て、護衛は二人ということか。護衛を減らさないところがメアリー様の見識だ。すばらしい」

「いや、大公家を批判しているのだ。贅沢な馬車で王都を走っている。まるで王のように」

「こりゃ、メアリー様、政界進出か?」



 何故、刺さる。何故、意味をくみ取ろうとする。


「「「「ご苦労様でした!」」」


「楽しんでくれて良かったの~、メアリーはお馬鹿に見えたの~、幻滅したの~?」


「「「「まさか」」」


「どうしたら、幻滅するの~」


「「「しません」」」


「むしろ、質素すぎです。お金を集めて、メアリー宮殿を建てましょう」


 うわ。どうすればええちゅーねん。贅沢路線はたしなめたし、下手にお金が集まっても目も当てられない。


 どーする。その時、凶報がもたらされた。




「メアリー様、大変です。『シスターのお友達シリーズ』が価格高騰、転売屋が値をつり上げています!」


「はん?!転売屋はぬっころなの~!流通を止めるクズなの~!」


「しかし、これを処罰する法はございません」


「トーマス!責任をとるの~!装丁を貧相にした廉価版を作るの~、増刷、増刷なの~!本屋さんに増刷のポスターをはってもらうの~」


「はい、このブタ以下のトーマス、やらせて頂きます!」

「我ら、メアリー親衛隊も!」


 あ、年上の人に命令口調で言ってしまった。


「トーマスさん。お願いするの~~呼び捨てごめんなさいなの~」


 あ、行ってしまった。後で謝れなければ。



 数週間後、ドン!と机の上に金貨の山が置かれた。印税だ。

 何だ。この世界ではまだ本は高価だ。

 数千冊をすればベストセラーではないのか?


「はい、小生、貸し本業を開業しました。メアリー様の著作を中心に、本を買えない庶民のために、そこから収益も上がっております。布教の一環です」


「勝手なことをしないの~!報連相なの~!」


「ヒィ~、申し訳ございません!実は・・・」


「何なの~!まだ、あるの~!」


「メアリー様の命令で預けておいた金貨が増えております!」


「勝手に投資しないの~~!」


 何だ。こいつ、勝手な事をするがやけに有能だな。

 本当に困る。


 ペシペシ!


「勝手なことをしないの~」


 と思わずトーマスさんの頭を軽く叩いた。


「ヒィ、有難うございます!」


 ドタン!


 ヒィ、気絶した。


「おお、メアリー様の怒りの鉄槌だ」

「あの大男をペシペシで気絶させるとは」

「しかし、何故、笑顔?」


 トーマスは嬉しさのあまり、気絶をしただけであった。


















最後までお読み頂き有難うございました。

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