第3話 ヒゲヒゲの男よ。悔い改めろ~なの~!
☆☆☆王宮執務室
「陛下、最近、ダンリード殿下が勉学や剣、社交に励むようになりました。あの男爵令嬢とも別れました」
「うむ。それだけではないぞ」
ジィー!
「扉の隙間から余を観察しておる」
「はい、スキを見ては陛下の仕事を観察しております」
「エリザベス嬢の助言か?」
「いいえ、幼女の助言ですわ」
「なんと?」
・・・・・
エリザベス嬢の話では、欲しがり妹として躾け不十分として修道院に追放された令嬢、余もサインをした覚えがある。
「ふむ。なら、お忍びで行って見て聞いてみるか」
☆☆☆第18修道院
「そこのシスター見習い殿、懺悔をお願いしたい」
「ヒャニャ、シスターは用事でいないの~」
「貴女にお願い申し上げたい」
ペコ
「ハニャ!」
ヒゲヒゲの男がやってきた。服も上等な平民服。丁寧な態度だが、すごく偉そうだな。
「懺悔するの~~!」
「はい、実は息子の教育の事で悩んでいます。厳しく教育を施しましたが、学業、剣、どれもある一定のレベルにしか到達しません。社交の評判も婚約者以外の者と付き合って悪くなりました。僭越ながら、私が学生時代の時よりも悪いのです」
「当たり前なの~」
これは、あれだ。弓術の大家の有名な言葉をかみ砕いて話した。師に似た弟子を育成する師は三流とかそんな話だ。
「子供でも、親と違うの~、性格、知力、筋力、全て同じではないの~!師匠と似た弟子を育てるのは三流なの~!基本だけ教えて、学ぶ場と試錬を提供して、相談したら助言をしてあげるの~!」
「しかし、そもそも調子に乗りやすい。王、いや、貴族の当主としてはいささか軽い。性格を治したいのだ」
性格?治せる方法があったら私も知りたいくらいだ。『オホホホホ』と上品なシスターになりたいわ。
「子供を信じるの~!そもそも教えを乞わない者に教えても意味がないの~!父親の方も試練を与えられているの~!心を教育するのは難しいの~!」
「余の、いや、我の方に試練か?」
「女神教では、『求めよ!さらば与えられん!』なの~、貴方が与える側なの~!息子に心を与えることが出来ているの~~!?」
「うむ」
「子息の出来が悪いは、親が与えられないからなの~~!」
これは、あれだ。アメリカのプロスポーツのコーチだ。驚くくらい全然指導しないと思えて、選手のデーターをごっそり取っている。
不調になったり、新しいことをしたいと聞きに来たら教えてあげるのだそうだ。
貴族の当主。会社の人材開発も、軍隊も、ある程度リーダーシップの教育は施せるが、そもそも、人を束ねる能力は、
「人を束ねる能力だけは未知数なの~!だから、貴族の家ではある程度の能力を持った者でも当主になれるように、システム化されているの~!執事や財産管理人が支えるの~、それでも、ダメなら、その子のあった道に進めさせるの~!
馬鹿な騎士団長、敵よりも怖いなの~!違う道に行かせた方が皆のためなの~!」
「人を束ねる能力は未知数・・・・か」
そうだ。リーダーシップなんて、やらせなければ分からないところがある。陰キャぽいのが意外と幹部をやれて、陽キャっぽいのが逃げ出したことがあった。逆もしかりだ。
本当に分からない。誰か分かる人がいたら教えて欲しいくらいだ。
はあ、少し、前世、人材開発に関わった身としては熱く語ったぜ。
私はここで、遠い異国として日本の話をした。畏れ多くも皇室だ。
「ある大帝は、とても優れた皇帝だったの~!公務イコール私生活みたいな厳しい生活を送っていたの~!しかし、皇太子は、病弱で学業はイマイチ、ゆっくり勉強をしていたの~、大丈夫かと心配されたけど~。
でも、その子は、気さくで、あちこちに巡幸をしたの~!その結果、各地でインフラが整備され、民は皇帝を慕うようになったの~!」
「ほほー、そのようなこともあったのか、いや、歴史の中で良く聞く話だ。しかし、我が子息は婚約者以外の令嬢と恋仲になった。社交界の評判は落ちている。どうしたものか」
「大丈夫なの~、社交界は市場なの~、良い品物があるときは人が賑わうけど、なければ、人は去るの~、地位と実績があれば、人は集まってくるの~!」
「ほお、では、やんごとなき話だが、今の王室をどうみる?ここだけの話だ」
「知らないの~!メアリーは、貴族じゃなくて庶民なの~!庶民は王様は知らないの~!庶民にとって王様はどうでも良いの~!」
「では、王のあり方とは?」
独立した諸候がいる。王は厳然とした権力を持っているが、盤石ではない感じか?江戸時代でいいか?
なら。平時は日本の殿様や将軍でいいだろう。殿様が大株主で、家老が社長の立ち位置と評論していた人がいた。
危機の時は、勝ち戦の時は部下に任せて負け戦になったら指揮を執る。確か明治の元勲の言葉だ。
前世では、これを逆にやる上司がいたからもめた。
プロジェクトが上手くいかなかったら、サーと手を引き。〇〇君に任せているとか言う。恐ろしいくらい人望がなくなったな。口は出すが責任はとらない。
「王は商会のパトロンでいいの~!宰相、大臣、騎士団長が商会長なの~!宰相や大臣、騎士団長に意向を示せばいいの~!良かったら褒めて、悪いときは、全面に出るの~!」
これは、あれだ。江戸時代、米沢藩は危機的な財務状況に陥っていた。上杉鷹山先生は、あわや、内紛が起きるくらいリーダーシップを発揮した。そして、危機を脱した。
危機的な状況には、リーダーは率先して前に出るべきだ。大株主だって、会社が危ないことをやっていたら声をあげる。そして、権限を使うのが理想だ。
「アハハハハハハ、ウハハハハハ、パトロンか!」
「悔い改めるの~~!」
「ああ、悔い改めるのは余、いや、ワシの方だった」
チャリン♩
と大笑いをして金貨を置いた。
「また、来るぞ」
「悔い改めることが沢山あってもいけないの~!」
「肝に銘じよう」
・・・奇しくも国王に悔い改めさせたメアリーであった。
☆☆☆王宮
「フフフ、幼女に悔い改めさせられたぞ」
「まあ、陛下」
「ダンリードを次の王太子に内定する」
「陛下、でも、私やエリザベスでも社交界の評判は・・・」
「妃よ。だから内定だ。カゲを使って流す。まずは学業に専念させ、一部、視察を余の代わりに婚約者としてもらおう。卒業後と考えておったが、自信をつけさせる場を設ける」
・・・確かに、余と同じ事を要求した。民にとって王はどうでもよいか。なら、視察を増やすべきか。
大公子が悲劇の令嬢を救い出して、次の王太子に相応しいと噂が流れている。
まあ、どうせ。大公家の仕業だろう。
☆☆☆貴族学園入学生歓迎パーティ
「諸君、こちらが、今年入学した私の婚約者、悲劇の令嬢オリビアです」
「皆様、よろしくお願いします」
「入学試験で3位だ。つい、我が婚約者は才媛であると自慢をしてしまってな。困っている。アハハハハ」
シーーーン
「おい、皆、どうした」
サササササー
「まあ、あちらをご覧になって、ダンリード殿下とエリザベス様と側近の方々の登場だわ」
「仲直りしたのかしら」
「エリザベス様が男爵令嬢の邪な心を見抜いたそうよ」
「「「「まあ」」」」
「ダンリード殿下、エリザベス様、入学試験一位のスレンダー伯爵家のトマスと申し上げます。今度、我が父の領地に視察にいらして下さい。鉢を使った農法を開発しました。狭い土地でも農業が可能です」
「私、2位のダイア侯爵家のエミリアと申します。私の弟は剣が得意ですわ。この前の大会で入賞しましたの。大人が混じっている大会ですわ。殿下の護衛の側において頂けたらと本人も熱望していますの」
「ほお、二人とも、殊勝である。だが、今日は入学祝いパーティー、故に、同級生同志の親交を深めようぞ。今日は我とエリザベスは裏方である」
「ええ、食事会を定期的に開くわ。上級生と交流できる場をもうけるわ」
「「「はい、殿下!」」」
貴族たちの背中には領民と使用人達がいる。こびへつらいだが、家運をかけてやっているのだ。誰もとがめることは出来ない。
王太子に内定の噂を聞きつけて殺到することになる。
メアリーの意図しないところで、姉とヒーローがないがしろにされることになってしまった。
最後までお読み頂き有難うございました。