第1話 懺悔するの~
☆☆☆王都第18修道院懺悔室
グスン、グスン、大変な失敗をしでかしました。
お嬢様の留守中に、お人形部屋のお掃除をしていたら、陶器製のお人形を割ってしまいました。
ええ、お嬢様が大事にしているお人形です。
知られたら、きっと、怒るでしょう。
それで、思いついたのです。
前々から、お嬢様のライバル令嬢から、私は転職を進められていたのです。
ええ、お給金をはずむから、是非、レディースメイドとして来てくれと・・・
紹介状も無しでいいと、身一つで良いからと・・・
「私は、行くべきでしょうか?」
「ダメなの~、それは、お嬢様に気に入られているメイドに価値があったの~、この状態で転職しても意味がないから門前払いされるの~」
「ええ、幼女?!」
「10歳なの~、二桁なの~!修行中なの!!ライバル令嬢はトロフィーとして貴女に価値を見いだしたの!お嬢様に真摯に謝るの~、クビ覚悟で、謝罪をしたら、最低、屋敷には残れると思うの~」
「賠償を求められたら、私、奴隷として売られますわ!」
「でも、それしかないの~、ムチを持参して、平伏して、これで打って下さいと訴えるの~、そうすれば、チャンスはあるの~」
「あの、帰ります。無責任です」
「あの~、献金欲し~の」
「無理です!」
・・・怒って帰った。まあ、仕方ない。
私はメアリー・スー、伯爵家の第2子、お姉様の物を欲しがっていたら、修道院に追放された。
ショックで気絶したら、前世を思い出した。前世は、日本人、星苅星子、会社の人事だった。
今更、思い出してももう遅い。
折角の異世界だけど、日本刀の作り方でも修行しておけば良かったか?
「メアリー!懺悔室の掃除、終わったかのう?」
「は~い。もうすぐなの~」
今日、懺悔室の掃除をしていたら、人が来たぜ。
そのままなし崩しで相談を受けた。
まあ、悩みを打ち明けるだけで、人の心は晴れると言うから、大丈夫だろう。多分、きっと。
滅多に、人が来ない女神教会、老シスターと私だけの寂しい教会だ。
私は、吟遊詩人にも歌われた欲しがり妹だ。
人が来ない修道院に行くように配慮されたみたいだ。
一方、相談をしたメイドは、他の教会を回った。
欲しい言葉を探し回ったのだ。
そう、他家に移る理由付けだ。
「女神様は見ておられます。これで罪は許されました。さあ、お気持ちをお願いします」
「あの、アドバイスを・・・」
「教会は、アドバイスをするところではございません。ご自身の良心に従い行動をしてくださいませ」
どうする?教会なら、秘密を守られるけど・・・知り合いに、相談したら、すぐに、広まる。
ここだけの話が、ここだけの話になるわけがない。
万策尽きて、遂に、あの幼女のアドバイスに乗った。
☆☆☆公爵家
「お、お、お嬢様、大事にしているお人形を、壊してしまいました・・どうぞ、ムチで打って下さいませ」
私は、平伏して、スカートが花のように床に広がった。
両手でムチを差し出した。謝罪として大仰過ぎるわ。
周りの使用人達も注目しているわ。しまったわ。これで、私の人生終わりだわ。
「あ、そう・・・・」
やっぱり、ムチを手にしたわ。
「サム、これ、馬小屋のじゃない?戻してきなさい」
「はい!」
え、打たれない。
「じゃあ、この子の手術、依頼してきなさい。手術できるところは、王都の端よ。遠いわ。貴女が責任を持って、依頼してきなさい」
チャリン♩
お金を渡された。
「え、お給金から引かないのですか?」
「引いて、欲しいの?お人形はプライスレスだけど、市場価値はあるわ。この子、貴女のお給金の数ヶ月分だわ。それともワザとかしら?」
「いえ・・誓って、そのようなことはございませんわ」
「留守中に、お人形部屋まで掃除をしていたのね。感心したわ。もし、貴女が言い出さなかったら、衛兵隊に調査を依頼するところだったわ」
え、私、褒められたの。
初めて、認められた。
もし、他家に移ったら、衛兵隊が来て、引き渡されたかもしれないわ。
このお嬢様、厳しいように見えて、根本的なところで優しいのよ。
「グスン、グスン・・ウウ」
パチパチパチ!
「スージー、偉いぞ」
「ああ、おかげで、俺たちが、疑われなくてすんだ・・」
「グスン、グスン、こんな素晴らしいお嬢様に仕えられて幸せだわ」
「・・・ところで、謝罪をしたのは、貴女の意思だろうけど、この芝居がかった謝罪は誰の入れ知恵?」
「はい、第18女神教会の懺悔室です。幼女の声でした」
「そう」
・・・お小言の一つや二つ言おうと思ったけど、気勢がそがれたわ。でも、私は見た目が厳しいから小言は叱責に思われて、使用人達に距離を置かれたかもしれない。
これで良かったのかもしれないわ。
「第18修道院、調べなさい。幼女よ」
「畏まりました。お嬢様」
・・・・・・
☆☆☆スー商会
あの幼女の実家が経営しているドレス店を訪ねた。
調べた結果、最近評判の格差姉妹、姉が総領娘なのに冷遇され、ドレスやネックレスが妹に集中していたそうだわ。姉は評判の才媛。
そこを大公殿下の子息が現れ、自ら婚約者になると宣言し、あるべき姿に戻そうとした。
と定説はそうなっている。
「もっとも過ぎて逆に怪しいわ」
「お嬢様・・・」
「いえ、何でもないのよ。さあ、ついたわ」
「ちょっと、そこの店員、この生地をみたいのだけども」
「申し訳ございません。少し、お待ち下さい。商会長に呼ばれてまして」
☆3分後
「お待たせしました。申し訳ございません」
「あ、そう、もういいわ」
話を聞くまでもない。通常、商会は客の都合に合わせるのが道理、店員の顔に焦りがあった。
おそらく、おくれたら叱責をされる。客に呼ばれたと言っても怒られる。
秀才にありがちだわ。こうなっているから、こうするべきだ。
役人には向いているけども、商売には向いていない。
一方、領地に向かった情報ギルドからは。
「何とも、元伯爵夫妻は、財産管理人補佐として過ごしています。特に目立ったことはありません」
「あ、そう、貴方の感想で良いから気がついたことを話しなさい」
「そう言えば、倉庫の近隣の農民達と話していました。少々、勤務態度がよろしくないかと・・・」
「分かったわ」
オスカーに商会の支配人を紹介してもらった。殿下の側近候補の一人で、商会長の息子よ。
「どうぞ、何なりと聞いて下さいませ」
「ご足労様です。実は・・・・」
話を要約すると、
店主は店の近所の住民と仲良くするのが鉄則。
商売だから。行列が出来たり、荷馬車の出入りで住民に迷惑がかかる恐れがある。
雑談をして住民の不満をくみ取る。見知った人なら、まあ、仕方ないですむことがある。
これは、貴族の社交と同じだわ。
伯爵夫妻は、長年、社交会に出入りし。王都で商会を経営していた。
「全くの無能ではないのね」
「はい、田舎の下品な商店の親父でも、時々、鋭い発言をすることもあります。商人は侮れません。こんなことがありました。お耳汚しですが・・・」
「構わないわ」
☆
私が修業時代、田舎に商品を卸売りに行きました。村に一店舗の小さい商会です。
『亭主、ボロ布は利益が出ない。そこの場所に綺麗なハンカチを置いてみないか?王都で人気だったよ』
『バ~カ、高くて売れる物だけ置いている奴は馬鹿だ。利益でなくても必要な物を置いてけばよ。生活の一部に認知される。ついでに何か買ってもらえるぜ。ほら、来たよ。ボロ布をお求めの村娘だ。ここら辺では生理で必要なんだよ』
バチン!
『あんた。次、声に出したら、ぬっ殺すよ!』
『イタいな。そこの小僧に教えていたんだぞ』
・・・・・
すると、勘で姉が当主に相応しくないと思って、妹に総領娘の跡を継がせようとした。
姉にはキツく当たった。不仲だった。
そこを大公家にスキを付かれた。令息の婿入りに入れ込まれた。
無駄に権威の高い一代限りの大公家、悲劇の令嬢を救い出すで、格下の伯爵令嬢との婚姻をヒーローものに置き換えたのかしら?
「まあ、一度、行って見るしかないわね。修道院に」
最後までお読み頂き有難うございました。