やり残したこと
やり残したこと
この夏やり残したことはなんですか?
この時期に多いフレーズだ。
この夏?やり残したこと?
夏に限らず日々あると思っている。
そうやって一年が過ぎ、また一年、また一年と繰り返すのだ。
なんでやらなかった、とか後悔することの方が多い。
イチバン嫌いな夏にやり残したことなど、考えたくないのが本音だ。
そんなわたし、空条霞は遅い夏休みを満喫している。
やり残したことは、あげればでてくる。
それよりも、自分の楽しみを優先してしまう。
ゲームが大好き、漫画やアニメも好きとなれば、夏休みは天国になる。
やり残したことより、何をやろうかと考える方が思考のメインになる。
考えれば、考えるほど時間が足りないくらいだ。
やり残したことって、結局なんだろう。
生活に不満があるわけではない。会社には不満があるが、生活できているから、そこを掘り下げることもしない。
趣味も楽しんでいる。
そんなわたしが、やり残したこと?
今わたしは友達とランチをしている。
値段は安いが美味しいと評判のレストランで食べている。
「やり残したことね〜」と親友の友香がため息交じりに言葉を放つ。
「ゆかち(わたしはそう呼んでいる)はないの?」
「いっぱいある!」そう言って2人で笑う。
「あるに決まってるよ!でもさ‥」
「うん」
「なにかわかんない!」また笑い合う2人。
「ゆかちらしいわ!」
「くうちゃん(ゆかちにはそう呼ばれている)もでしょ?」
「うん!」
「ほら!やっぱり!」また笑い合う2人。
当然、この空間には他の客もいる。
こういう会話は周りに聞こえるもの。
霞や友香の話がみんなに伝染していく。
おばさんグループは、やり残したことあるなんて、とか、わからないんですってとか、あーでもないこーでもないと、ヒソヒソ小声で話している。
別のテーブルのカップルは、若いっていいよなーとか、若さは強みだわーとか楽しんでいるようだった。
さらに別のテーブルのサラリーマンは、スマホをいじっている。
検索していることは、この夏やり残したこと‥だ。
霞らの影響だろう。
奥のテーブルの主婦グループは、若い主婦ばかりなので、自分たちの話で盛り上がっていた。
数名は、霞たちの会話を聞いているようだった。
カウンターに座っている作業着姿の男の人は、夏に限らずやり残したことばかりだ!っと心に思いランチを食べていた。
店員も数名いるが、頭の中で考えることは一緒。
仕事仕事だな‥と。
それぞれ思うことがあるようだ。
そんなことは知る由もない霞と友香。
2人は楽しんでいるようだ。
「ねぇ、ゆかち。わたし思うんだ」
「なになに?」
「やり残したこととか考えるのってさ、どうなの?って」
その言葉に、周りの客や店員の動きが一瞬止まったようにみえた。
「というと?」
「えーっとさ、やり残したこと考えるなら、これからやりたい事を考えた方がよくない?」
「おー!」そういう友香と同じく、周りも心の中でそうリアクションしていた。
「やりたい事をやっていけばさ、やり残したことなんてなくなるかもだし、仮にさ、あっても気にしなくなるんじゃないかなって」
「くうちゃん、天才だわ!」そういいパチパチ手をたたく友香。
「は、はずかしいから、ね!ゆかち!」必死に止めようとする雫が妙にかわいい。
周りの客や店員も、心の中でサムズアップしていた。
「そうだね、前向きに考えるってことかな?くうちゃんがいいたいのは」
「んー‥も、あるし、なんか後ろ気にするの嫌でさ」
おばさんグループは、ヒソヒソ小声で話しているが、雫と友香の会話に今や好意的だ。
カップルは、逆に自分たちの方が恥ずかしくなってきたが、雫と友香の会話が気になり、いや、聞きたくてまだ帰らないでいた。
サラリーマンは、スマホの検索が、やりたい事をやる、になっていた。
姿勢は崩さないが、雫と友香の話が気になるようだ。
若い主婦グループも、数名が聞いていただけだが、今や全員の耳が雫と友香の会話に集中している。
カウンター席の作業着姿の男は、帰るつもりでいたが、あまりにも雫や友香の話が気になりデザートを追加注文してしまった。
そんな周りの空気を十分感じとっている人物がいる。
店長だ。
そんな店長が霞と友香のテーブルにやってきた。
「いらっしゃい。今日も来てくれてありがとうね!」そう優しい柔らかな声がテーブルに響く。
店長こと月島渚は微笑んでる。
「店長!こんにちは!今日はいないかと思いました!」雫は店長に会えて嬉しそうだ。
店長、月島渚は不思議な人だ。
失礼かもしれないが、店長は見た目はかわいいとかキレイとかではない。
普通であるにも関わらず、なぜかセクシーなのである。
同じ女性でも、霞が照れてしまうことも多々あるくらいだ。
そんな店長と楽しげに会話しているわけだから、周りの客の動きが止まる。
店長とあんなに仲がいいのか‥と皆思って。
そして、店長に覚えられていて、しかも名前を呼ばれていることに対しても。
そんな葛藤をしながらも、周りの客は霞と友香の話を聞いていた。
「それはそうと、霞ちゃんと友香ちゃん。これはわたしからのプレゼントね!」そういい、見たことないチョコパフェがテーブルに置かれた。
「え?あたしたち何かしました?ね!ゆかち!」
振られた友香も、目がキョトンとしている。
「記憶にありませんがくうちゃん」
そんな2人をみている店長は楽しそうだ。
2人の間に前屈みになって入ってくる店長。
色気というかセクシーというか、2人ともドキドキしている。
「あなたたちが、周りにいい風を吹かせてくれたからよ!そのお礼!」
小声で囁きながらウィンクする店長。
思わず2人とも頬が染まっていた。
結局、2人の話から周りが元気やポジティブさをもらい、霞と友香が帰るまで皆いたそうだ。
そんなお客さんたちをみていた店長は、すごく幸せだった。
「店長‥」バイトのひとりの女の子が話しかけてきた。
「皆さん、ずーっといますけど」
「ん?そうね!みんな気づいてないだけなのよ。やり残したことなんて、人生のほんの一部、一欠片。色々やること、行動することの方が沢山あるのよね!」そう言ってバイトの女の子に軽くウィンクする。
バイトの女の子も、頬が染まる。
自分でも理由がわからなく困惑していた。
それを知ってか知らないかわからないが店長は話を続ける。
「だから、この時間は邪魔しちゃダメよ?」
「は、はい!わかりました!」
そう言って店内を見つめる2人。
「霞ちゃん友香ちゃんをはじめ、みんながんばってね!」
店長の微笑みが優しかった。
-おしまい-
やり残したこと。読んでくださりありがとうございました。
夏の短編小説も、一応今回で終わりとなります。
また、短編小説を書けたらと思っています。
今回は、霞と友香の2人の話でいこうと思っていたのですが、わたし自身耳がいいもので、色々聞こえるのを思い出し、周りの人たちを追加し周り目線に切り替えました。
短編なので、至らない所があるかと思いますが、楽しめていただけたら幸いです。
-みやびあいー