ナツのオワリ
ナツのオワリ
残暑が厳しい。
もう暦では秋なのだが、一向に夏が終わらない。
このまま夏で、いきなり冬になってしまうのではないかと思うくらいだ。
アウトドア派なら、さぞ喜んでいることだろう。
例えボクがアウトドア派であっても、今年の夏は暑すぎてキライだ。
だけど、彼女、なつみは大好きだ。
このナツだけはキライになれないし、手放したくないし、いつも一緒にいたいと思うくらいだ。
なつみは、亜麻色のショートボブが似合う、色白の所作の美しい女性だ。
ボクは、なつみの全てが愛おしい。
ボクのなつみへの愛が大きすぎて、いや、今年の夏みたく暑すぎて、嫌われないだろうか‥と思うくらいだ。
そんな悩みを他所に、なつみはいつも優しい笑顔で応えてくれる。
必要な買い物や用事以外は、室内や家で過ごすことが多くなったが、なつみは嫌な顔一つしない。
ボクと一緒で、2人でいる時間を楽しんでいるのだろう。
よくゲームを一緒にやる。
なつみも一見するとゲームをやりそうな雰囲気はない(おっとりしているのもあるからか)のだが、かなりのゲーマーだ。
一緒に同じゲームをしたり、別々に違うゲームをしたり、一つのゲームを2人でやったりもする。
これだけ外が暑いので、エアコンの効いた部屋の中は楽園である。
最近は休みの時に一緒にできるゲームをやっていた。
ボクが夏休みなのもあったが、なつみの休みともかぶっていたのもある。
ゆっくりマッタリできるなら、RPGがいいのかな?っと思い2人でやっていた時のことだ。
主人公が苦楽を共にしたパーティー内の女の子と結婚するかしないというイベントが始まった。
2人は驚いた。
ラスボスを倒してエンディングで終わりかと思ったら、まだゲームは続いている。
「結婚?」困惑するボク。
「どうするの?これ、分岐かな?」なつみはワクワクしている。
とりあえず進めてみると、結婚するなら指輪の用意をするみたいだ。
結婚しないなら、王宮に行かないとダメなのがわかった。
「なんか、終わりかって思ったから、得した気分だね!」と、なつみはニコニコしながら、ボクの背中からハグしながら画面をみている。
「どうするの?」
「とうしようかなー!」
結局その日は分岐を選択することはなかった。
そのまま数日過ぎた。
ボクたちは、色んなゲームをやるからだ。
そして、分岐で悩んでいたゲームを始める。
なつみはボクの背中にセットされている。
いつものポジションだ。
世界を闇に包もうとする魔王を倒した勇者たち。
その勇者と仲間でもあり、恋人でもあるサマナと結婚するのか?と街や城でも話題になっていた。
とりあえず色々聞いてまわる。
そのおかげか、勇者は指輪をゲットした。
「けっこう大変だったね!」
「だね、リングと宝石別に探してとか、エンディング後の展開じゃないもんな!」
2人で笑い合う。
「よし!プロポーズしますか!」
勇者とサマナ、お互いの気持ちはわかっていた。
しかし、結婚には踏み出せないでいた。
魔王討伐もあったからだ。
まずは自分たちより、世界。
だけど、愛し合うことだけはやめることも、とめることもしなかった。
今までの旅路が走馬灯のように流れる。
それを観ている(プレイしている)2人も、感慨深いものがあった。
そんな勇者のプロポーズは、ごく普通に自然に行われた。
夕陽が綺麗な高台に、勇者とサマナはいた。
「サマナ」
「ん?」
「オレは魔王を倒すことを人生の目標として、また生きがいとしてがんばってきた。これからは、サマナを、サマナの幸せを人生の目標にし、また生きがいとして歩みたいとおもっている」
「うん」と小さく頷くサマナ。
サマナを見つめる勇者。
「サマナ、わたしと結婚してください!そして永遠の歩みを共にお願いします!」
そういって小さな箱を取り出してサマナの前に差し出す。
それをみたサマナは涙が溢れてくる。
涙声で「はい。こちらこそよろしくお願いします」といい頭を下げた。
涙はより一層、地上へ舞い降りた。
そんな場面をみていたボクたちも、くるものがあった。
ゲームとはいえ、ここまで共に歩んできたからだ。
なつみの顔をみると、涙で目の周りが溢れていた。
「なつみ‥」
「いやぁ‥よがっ‥だね‥」とこちらも涙声だった。
そんななつみをみて、ボクは動く。
「なつみ」
「ん?」
「ボクも永遠の近いをなつみとしたい」
「‼︎」溢れてる涙がさらに量をます。
「ボクと結婚してください!」そう言いながら指輪の入ったケースをなつみにみせる。
「ゲームみたいね」なつみが笑う。
「内容はしらなかったけど、結果的に同じようになったのは本当に偶然だよ」ボクはなつみをみる。
なつみもボクをみて笑う。
「至らないところもありますが、よろしくお願いします‥‥勇者さま!」
笑顔とともに涙の海もキレイにみえた。
こうして、ボクとなつみの独身としての夏はエンディングを迎え、夫婦として来る来年の夏を楽しみつつ、新たな旅立ちをすることになった。
-おわり-
今回は、色々浮かんできたことを短編で書いてみました。
なので、この作品には書いてないことも色々あります。
ですが、とりあえず今回はこの形にしました。
いくつか新しい小説を書いているのですが、短編も良さがあるなと思っています。
ペースはゆっくりですが、楽しんで読んでいただけたら幸いです。