2人の夏
夏が嫌い!
だって汗かくでしょ?
ベトベトで気持ち悪いでしょ?
夏のどこがいいの?
と、夏に対する文句が止まらないボクの彼女。
「そんなに夏の悪口言わないの!」と宥めるボク。
「だって、暑すぎじゃん!」といい頬を膨らませる彼女。
「日本の夏は気持ち悪いよ!」という彼女は、日本から出たことはない。
「天音はなんで平気なの?」と彼女にツッコまれる。
「ボク?平気じゃないけどね‥キライではないかな‥」
「ま、マジか‥」そう言って彼女はひいていた。
「だってさ、女の子みんな薄着になるでしょ?しかもかわいいしさ!」楽しそうに話す天音。
「最悪‥キモイよ天音。でも‥わかる‥確かに女の子かわいいし、夏はキラキラしている気がする」
「でしょ!多分だけど、肌の露出が増えるってことは、女性特有のラインがいかされるわけで、それと服の相乗効果で‥」
「はーい!わかりました!わかりました!天音が夏が好きな理由がよーくわかりました!」そう言われて彼女に口を塞がれる天音。
彼女は顔を近づけてきてこう言った。
「ホント夏はキライ!」
そして、「ばいばい!」と可愛く言って彼女は帰ってしまった。
それが、ボクが最後に聞いた彼女の言葉だった。
原因はわからなかった。彼女の声が聞けなくなった。
ストレスかなんなのか、とにかく彼女は声が出せなくなった。
無理に出すのもよくないので、彼女も出さないようにしているらしい。
声が出せなくなってから、彼女は引きこもるようになった。
そんな日々を繰り返す彼女。
ボクはある日、彼女をダメ元で誘ってみた。
彼女の母曰く、ボクの言うことなら聞くのではないかと言われたからだ。
毎日LINEでやりとりはしていた。
だけど、出かけようとは言えなかった。
彼女の母からの後押しがなければ、ボクも後悔していただろう。
LINEでたわいもない話を何時間もしてから、やっと彼女を誘うことができた。
ボクは愛車のユーノスロードスターを走らせた。
目的は海だった。
基本、海沿いを走るルートをチョイスした。
夏がキライな彼女にどうかと思ったが、ボクはコレしか思いつかなかった。
最終目的地は、空から差し込む光とそれを遮る壁たちに囲まれたマリンブルーが綺麗な場所だ。
ボクのお気に入りでもある。
道中の海沿いルートも、朝日が昇る様子をみてもらいたく、少し早めの出発をしている。
ボクは最終目的で、彼女の回復を願いドライビングを続けた。
あらかじめ決めておいた休憩スポットで休むことにした。
ちょうど朝日が昇る瞬間だ。
ボクたちには地平線が地球だと認識できるラインをみせつけられていた。
普段みることができない光景だ。
そこから、温かみを帯びた光が放たれてきた。
「すごいね‥」とボクは思わず言った。
彼女は頷いた。
ゆっくりだが、日が昇っていくのがわかる。
ふと、気になり彼女の方をみてみる。
彼女の頬に太陽のあたたかい光が照らされていて、まるで頬を染めてるようだった。
そして、彼女の大きな瞳には今にでも溢れそうに涙が待機していた。
ボクは、そっと彼女の肩に手を乗せる。
その瞬間、彼女が身を預けてきた。
離れないよう力を込めるボク。
彼女の涙は地球に注がれた。
そんな彼女の頭をサワサワするボク。
彼女がボクのほうをみる。
「あ‥りがと」かすれた声だが、そう聞こえた。
「かほり!!!」
ボクは、自分では覚えてないほど、彼女のことを強く抱きしめていた。
そして、ボクの涙も地球に注がれていた‥。
-おしまいー
後日談‥
結局、目的地に行く前にかほりの声が戻ったので、ボクは戸惑ったが、まだかすれる声で「いこう」と言われたのでちゃんと行きました。
色々ありましたが、かほりも夏が、ボクと過ごす夏が好きになったようです。
薄着の女の子をみては、かほりにツッコミを受けてはいますが‥
普通に暮らせる幸せをボクたちは噛みしめています。
前回の短編の後に書いたものです。
このあと、また書くかはわかりませんが、短編小説を楽しんでいただければ幸いです。
みなさまに感謝を込めて‥
みやびあい