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9ここは一発


 どんな顔をして言っているのか、本気で正気を疑うオフィーリアに、アドランは言った。


「だってほら、元々婚約者だし、君は俺を愛しているだろう? 俺を救うと思って」


 半分笑いながら言っているのは、自分の発言がいかにおかしいかを自覚しているからなのか。それともすでに頭がおかしくなってしまったのか。


 ――いえ、それは最初からだけど。


 オフィーリアとしては、別に好きではないし、すでに救ってあげる義理がない。

 普通に捉えれば、一方的に婚約を破棄された側として傷ついてもおかしくないわけで、むしろオフィーリアから叩かれてもおかしくない状況である。

 実際違約金に追加で慰謝料を取ることもできそうだ。


 それをわかっているのか、いないのか。あるいは回避するために出た苦肉の策が、再婚約なのか。

 呆れるオフィーリア。後ろに立っているアイリーンは未だ燻る怒りが、その一言で再熱したらしかった。


「ふざけんじゃないですよ! お姉さまに謝るならまだしも、また婚約ですって? あり得ない! あり得ないです!」


 ――そうね。言葉遣いがおかしくなる程度にはあり得ないわよね。


「もういい。私がもう一発いくわ。それがいい!」


 アイリーンは腕まくりをしてアドランに近づいた。

 アドランの顔が強張る。今左頬を殴られたら、顔が大変なことになりそうだったが、アイリーンのことだ。利き手で思いっきり殴るのだろう。それはちょっと、曲がりなりにも侯爵家の跡取り。流石に問題になる可能性がある。傷が残ったら大変だ。


 オフィーリアはずんずんとアドランに近づくアイリーンの肩に手を置いた。


「お待ちなさいなアイリーン」

「止めないでお姉さま! 我慢ならないわ!」

「止めているというか、そうね。止めているのだけど、理由があるのよ」


 不思議そうにアイリーンが首を傾げる。オフィーリアはアイリーンを後ろに下がらせて、そっとアドランの手を取った。


「さぁ、アドラン様。お立ちになって」

「オフィーリア……」


 ふらふらと立ち上がるアドランにオフィーリアはここ数日で一番の笑顔を向けた。

 そのまま左手を振り上げる。


「え?」

「あ」


 アドランとアイリーンの声とほぼ同時。バッチーン!という音が部屋に響き渡った。


「いっ!!!」


 アドランが痛みにうめいて、咄嗟におさえたのは右頬だ。つまりアイリーンが殴ったのとは反対である。アドランは異常者を見るように目を丸くしてオフィーリアを見た。

 口の端にわずかに血がでているあたり、口の中を噛んだらしい。

 オフィーリアは笑った。


「あら、お口の中を切ってしまわれたの? でも大丈夫よ。外側の傷は左頬よりはやく治りますわ。アイリーンの拳は治るのに時間がかかると思いますから」

「へ……?」


 アドランが呆けているのを無視して、オフィーリアは叩いた左手をさすった。


「お姉さま……」

「大丈夫よ。傷にならなければバレはしないわ」


 そう言う問題ではないだろう。というアイリーンの内心はオフィーリアには聞こえない。先ほどまで思いっきり殴ってやろうとしていたアイリーンも呆然としていた。


「それに、勘違いで婚約者の妹と婚約しようとして両方から振られた上、叩かれるなんて……私が侯爵家の人間なら恥ずかしくて人に言えないわ」


 ニコニコとオフィーリアは微笑んで言った。

 


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