8じゃあやっぱり
照れ隠しじゃないとわかったなら普通に嫌われていると思うだろうに、それでも痴話喧嘩と言い切る精神に脱帽である。
オフィーリアはこれははっきり言わなければいけないなと思った。
「あの、この際はっきり申しますが」
「……なんだ?」
「痴話喧嘩とおっしゃっていますが、妹はアドラン様とお付き合いするつもりはないようですよ」
アドラン。驚きのあまり顔面崩壊す。
という見出しがつきそうな顔で、アドランがオフィーリアとアイリーンを見た。
アイリーンがコクコクと頷く。
――殴られたのに、相思相愛と疑わないその精神。感服しますけど……。というか今の言葉で気づいたんですか。
「付き合うつもりがない?」
「好きではないそうです」
またもや顔面崩壊。
かなり効いたらしく、よろよろとアドランは体をふらつかせた。
「そんな……いや、オフィーリアの気のせいだよな。アイリーン」
「お姉さまを傷つけるアドラン様なんて嫌いです」
膝から崩れ落ちた。まさにそんな表現がふさわしいだろう。彼は床に膝をついてしまった。
――これを「ガーン」って言うのね。きっと。
冷静にオフィーリアは分析する。
「そういうことですから、アドラン様と相思相愛とかじゃないです」
アイリーンが追い討ちをかける。
「完全にアドラン様の勘違いです。未来の義兄になるというから、兄としてなら慕えると言いましたけど、恋愛的な意味はこれっぽっちもないです。というか私体格の良い方が好みです。好きな人もいます。アドラン様とは正反対です。ですからアドラン様と婚約もしません」
「アイリーン、その辺にしてあげて、かなりクリティカルヒットしているわ」
オフィーリアが止めると、弾丸のように吐き出されていた言葉が停止する。
アドランを見れば、床に両手をついていた。
なかなかな格好である。
しかしこれで伯爵家との契約を破っただけでなく、その後の援助も打ち切りだろう。おそらく父である伯爵は破棄に同意しても、アイリーンの婚約には同意してないはずだ。あるいは本人が望むならと言っただろう。そういう人なのだ。
無論本人は望んでいないので、婚約はなかったことになる。
侯爵家には、違約金だけが求められるだろう。
「じゃあ、オフィーリア」
アドランが囁くように言った。
「何でしょう」
「もう一回婚約しよう」
「「ちょっと待て」」
オフィーリアとアイリーンの声が盛大にかぶった瞬間であった。




