君といる。
たまじゅけ以外で、
現実の話で、
しかも超久しぶりに恋愛ちっくなアレを書きました。
多分、小説とは言いにくいかと。
でも、詩でもないという中途半端さ。
そんな感じです。
僕の目の前に、君がいる。
そこに流れるのは、静かで心地好い時間だ。
「…………」
君の手が、たった一本の糸から面を編んでいく。それは先日よりも、半球型に近づいていた。もう少し編んでいって、耳たれを追加すれば、帽子の出来上がりなんだそうだ。
毎回のことだが、凄いと思う。君は簡単だって言ってるが、僕には到底真似などできそうにない。
いつも元気に動き回っていて、忙しないばかりの君の手が、あんなに細かい動作を繰り返し続けている光景は、ある意味感動ものだ。……君に言ったら、怒られることは確実だろうけど。
今日も僕らは、君の家で過ごしていた。
特に二人で映画のDVDを見たり、話したりしているわけではない。
君の、君らしいけど、少し女性らしいとは言い難い、殺風景な部屋の中で、僕は君のお気に入りであるチェック柄のクッションを枕代わりにして、ただひたすらに帽子を編む君を眺めていた。
僕らの関係は、あまりにも曖昧だ。所謂、友達以上恋人未満。というヤツに近い感じだ。
僕は君を……まぁ、その、ものすごくクサい言い方をすれば、心から想っている。
でも、君が僕をどう思っているのかを、僕は知らない。同様に、僕の想いを、君は知らない。
言って関係が壊れるのならば、今のままでいい。そう結論づけてしまった僕は、君に想いを伝えないでいる。
要するに、僕は臆病者なのだ。君を失いたくないばかりに、敢えて君との距離をそのままにしている。
そうして安心を得ると同時に、僕は僕の中にそれでは満足しきれていない僕を常に感じていた。
「あ、糸終わっちゃう」
君が、ポソリと誰に言うでもなく、そう呟いた。君は独り言が多い。
例えば先日、やっぱり君の部屋で、恐らく日本で一番売れているであろう狩猟ゲームをやった時も、
「え、ちょっ、待って待って!」
「はぁっ!? 今の当たり判定あんの!?」
「うわっ、最悪! 秘薬忘れてるし!」
他にも、もうすぐ新作が発売される、お子様に超人気で君も第一世代であるあのモンスター育成RPGをやっている時も、
「甘い甘い! 私のリー○ィア(大人の都合により自主規制)は地面タイプも覚えてるもんね!」
「んなっ! ちょっ、今のアリ!?(つの○リル三連続でヒット。結構スゴい確率)」
「え、待って! 今のパーティー超弱いのにー!」
……正直、騒ぎすぎだと思ったのは内緒だ。
「……あ」
「ん?」
そこで、君がやっと僕を見た。うん。実に一時間ぶり。
君はポカーンとマンガみたいに口を開いたまま呆けていたかと思うと、バツが悪そうに突然焦り始めた。
「ご、ごめん! 私、ずっと一人で編み物やってた!」
「あぁ……」
そんなことか。と続けようとしたんだけど、君はそれまで編んでいた作りかけの帽子を編み物用のカゴに突っ込むと、急いだ様子で台所(と言う名のちょっとお粗末な流し台。都会は社会人一年生には厳しいのだ)に向かった。
数秒後、君は僕を振り向き、
「飲み物、何が良い?」
「……ビール」
「んなもん無いわ! コーヒーかお茶かにしろ!」
突っ込まれた。……ってか、先に言って欲しい。それに、女子ならもっと言葉に気を遣うべきだ。
……ビール、冗談だったのに。
「じゃあ、こないだ淹れてくれたお茶。何だっけ……何か、すっきりして胃腸に優しいとかって」
「あぁ、カモミールね。了解ー」
僕の言葉に頷いた君は、小さく鼻唄を歌いながらポットとカップにお湯を入れ、棚から茶葉を取り出した。
……何だろう。別に、亭主関白的な思想を抱いているわけではないのだけど、台所に立つ女性の後ろ姿って、何だかそそる。欲情まではしないけど、でも、触れたい。とは思う。
でも、敢えて僕はふざけて君の背後に立ってイタズラをするのはやめた。前に後ろから脅かした時、君はあろうことか叫びながら僕の脇腹に肘鉄を綺麗に入れた上に、返す手で裏拳をぶちこんできたのだ。……あのときは、顔に入らなくて良かった。
君が学生時代に武道を嗜んでいたと知ったのは、もちろんその後のことだ。
それから、無闇に君にちょっかいを出すのは控えている。一度だけ手首を掴んだときは、一瞬にして君の表情が『本気で真剣』になったので、すぐに離したものだ。あのまま掴んでいたら、絶対に折られていたと思う。うん、マジで。
「お茶、入ったよ」
「ん。ありがと」
そんなことを思い出している間に、君がマグカップを二つ持って戻ってきた。
一個は版画調の猫の絵が入った君のカップ。もう一個はイギリス出身の青チョッキを着たウサギが描かれたお客様用――要は僕のカップだ。
……何か、思うんだけど、君の普段のキャラクターにしてはメルヘンな嗜好だ。とてもじゃないが、大人になっても堂々とポ○モンセンターに入って子供たちの横で嬉々としてぬいぐるみやらステッカーやらを選んだり、コンビニでオジサマ方の隣に並び少年漫画雑誌を総なめしたりするような人間の趣味には見えない。
「……何で人を珍獣を見るような目で見るのかなぁ?」
カップを持つ君が、少しだけ不機嫌そうにそう言った。いや、確かに当たらずとも遠からずなんだけどね。
「別に。ってか、十分珍じ」
「かけるよ」
「……顔に火傷は勘弁」
苦笑いを浮かべながら、僕は君からカップを受け取った。君は冗談が下手だから、例え冗談のつもりで言っていても、冗談に聞こえないのだ。
……まさか、マジではありませんよね? 信じていいですよね?
「…………」
君はそれ以上何も言わずに、ベージュの座椅子に腰かけてカップに口を付けた。僕もそれまで枕代わりにしていたクッションを座布団にしてお茶を口に含む。カモミールというハーブのすっきりとした飲み心地は、すごく飲みやすい。
……やっぱり、普段の君からは想像できない趣味(紅茶やハーブの銘柄集め)だ。
「……ギャップあるなぁ」
言ってしまってから、マズイと感じた。が、いつもならばすぐにやって来るはずの抗議の声は、一向にやってこなかった。
あれ? と思った僕は、そっと君を盗み見た。君が両手をカップに添え、縁に口を付けた状態で停止している。目だけがキョロキョロと動いているのだが、何故かとても気まずそうに僕の方を見ようとはしなかった。
「……?」
不思議には思ったが、別段気にする必要もないだろうと僕は結論づけた。常に挙動不審な行動の目立つ中では、比較的普通の仕草に見えたから。
……社会人にもなって常に挙動不審なのも、本当はちょっと問題なんだけど。
「……めん」
「へ?」
突然、君がポソッと呟いた。よく聞こえなかったので、僕が小さく首を傾げると、君は僕と虚空とに視線を動かしながら、もう一度小さく呟いた。
「ごめん。……その、せっかく来てくれたのに、今の今まで何もしなくて」
「……」
君の言葉に僕が呆気に取られていると、君は慌てたように矢継ぎ早に付け足した。
「わ、私ってさ。アレ。アレなわけね。その、一回集中すると寝食も忘れるってヤツ?」
「あぁ、うん。知ってるよ」
「んでさ。その、でもね、いつもはね、あの、誰かがいるときは、ホントは大丈夫なんだけど……」
おぉ。それは所謂『THE・矛盾』ではありませんかね、お嬢さん。ならば、僕は一体何だと言うんだい? アレか。人間以外の生命体とでも?
すると、僕の心の中を読んだかのように、君は言葉を続けた。
「そのさ……。君って、空気みたいなんだよね」
……生命体ですらねぇえ!?
さすがにこの言葉には、ショックを隠せなかった。しかし、僕の方を見ていない君は、特に僕の表情に気づくでもなく、そのまま話を続けた。
「へ、変な意味じゃないよ? あのさ、うまく言えないんだけどさ、その、何て言うかな……、『あるようでないようで、でもすごく無いと困って、あるとすごく心地の良いもの』? 何て言うか、すごく澄んだ綺麗な空気……みたいな」
………………………………………………。
何だろ。いつの間にか、ショックじゃなくなっていた。
「君がいてもね、私、いつもの私でいられるの。他の人みたいに、着飾る必要を一切感じないでいられて……すごく、楽なのさ」
はじめて聞いた、君の心。
聞けて良かったと思えた。
本気で、そう思えた。
「君がどう思ってるか分からないけど……、私は、君とこうしているの、スゴく、好き」
飲みかけのハーブティーが入ったままのカップから、そっと口を離した。
恥ずかしそうに頬を染め、こちらを見ないでいる君の横に、そっと近づく。
ハロー。君の本音。
会えて嬉しいよ。心から、そう想ってる。
それでも、君と同じで少し天の邪鬼な僕は、君の頬をそっとつねった。
君がやっとこちらを振り向く。恥ずかしいのか、イラッときているのか、嬉しいのか、何なのかよく分からない色々な表情をごちゃ混ぜにさせながら。
そんな君をいとおしく想いながら、僕は言った。
「ありがとう。俺も、お前といるの、好きだ」
君が、小さく笑った。
ども。作者の旅がらすです。
携帯でメール執筆しました。旅がらすはauなので、メールは最高全角5000文字。なので、それに収める超短い話を書こうとしたのが、今回の発端だったりします。
何だろ。
旅がらすの書くコレ系の話は、何故かどのカップリングでもこんな関係ばっかりです。
……だって旅がらすが誰かとお付き合いしたことないんだものー!
寂しいヤツだな、自分……orz
恋人ってどこからどこまでが恋人なんですか!?
今回目指したのは、『しにがみのバラッド』の作者、ハセガワケイスケ先生の世界。
あのほわほわマシュマロみたいな描写がスゴく好きなんです。
いつか、彼女視点で書き直してみたいです。