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王子、改心する  作者: 颯
6/8

番外編1

「─────というわけで、やって来ました街に!」

「何が『というわけ』なんだ…………」


 明るい笑顔のオスカーとは対照的に、リカルドははぁとため息をついた。


 リカルドは今、質素な服装をして、人々が行き交う街の市場にいる。護衛兼案内役のオスカーと共に。


「大体、俺はただ、クリスティーナに何を贈ればいいかを聞いただけだぞ。何でそれが街まで出かけることになったんだ」

「ダメですね、殿下。ダメダメです」


 オスカーの出来の悪い生徒を諌めるような口調にリカルドは少し苛つく。

 しかし怒りに任せてオスカーを怒鳴ってしまえば、今までの自分と何ら変わりない。クリスティーナとの仲も改善出来ないだろう。低い声で尋ねる。


「…………何が駄目なんだ」

「女心が分かってなさすぎです。クリス様にプレゼントをすると決めただけじゃダメなんですよ。中身を側近に任せるんじゃなくて殿下が選ばないと意味がないです」

「そ、ういうものなのか…………?」

「そうですよ。だから今日の僕はアドバイスをするだけなので、頑張って自分で選んで下さいね〜」


 (…………ハードルが高すぎないか)


 クリスティーナのことを何も知らない自分が、彼女を喜ばせることが出来るようなものを見つけられるとは思えない。


「さて、まずはどこに行きますか?」


 オスカーの問いかけで、どの店に入るかすらも自分が決めなければならないことを悟る。

 リカルドは色々と逡巡した後、とある店を選択した。




「あのぉ、殿下?ここって…………」

「見ての通り、本屋だが」


 店内を見回りながら、オスカーに応えた。

 案内すると寄ってきた店員を断り、本棚を眺めながら目的の本を探す。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい?まさかクリス様が聡明だからって本を贈る気じゃないですよね?」


 オスカーの慌てた言葉に、リカルドは呆れた顔をする。


「そんな訳ないだろう」

「あぁ、良かった…………。じゃあ何でここに?」

「いや、見たい本があってな……………お、あったぞ」


 本棚から取り出し、オスカーに手渡す。

 題名を見たオスカーは、本気ですか?という目を向けてきた。


「何か文句でもあるのか」

「…………言いたいことはたくさんありますが、とりあえず殿下の初めての贈り物選びなので呑み込むことにします」

「そうだ、俺は初めてだからな。下手に自分の感覚だけで選ぶよりも失敗する可能性は低くなるだろう」


 リカルドはそう言い切って、オスカーに買って来いと指示する。

 『女性へのプレゼントおすすめ』という題名の本を、オスカーはため息をつきながら店員に渡し、会計を頼んだ。




「で、次はどこに行きますか?」

「この本によると、初めての贈り物は菓子や花など消え物の方がいいらしいが、本当か?宝石やドレスの方がいいのではないか?」


 アリアーネと出かけた時、アリアーネは花や菓子よりもネックレスや髪飾りなどをねだった。

 女性というのはそういうものだと、リカルドは認識していたのだが。


「殿下、考えてみて下さい。険悪だった相手から急に宝石や服を贈られてきたと」

「…………罠だな」

「そこまではいかなくても普通に驚くでしょ。宝石はまだしも、服はヤバいです。仲が悪いはずの人が自分の体のサイズを知ってるとか、恐怖でしかありませんよ」


 そうかもしれない。

 リカルドはクリスティーナにドレスを贈ったことがない。パーティーや夜会前に贈ろうかと尋ねても、自分で用意するから必要ないと言われてきたからだ。


「そうだな………じゃあ無難に花にしておくか」

「んじゃ、花屋ですね〜」

「やはり買って良かったな、この本」

「一国の王子が婚約者へのプレゼントを本で決めてるっていうのはだいぶ情けない感じがしますけどね」

「…………お前、その態度はどうかしろ。いつ不敬だと言って処罰されても知らんぞ」


 嫌味ったらしく忠告すると、オスカーは肩を竦めた。


「僕もさすがに誰彼構わずこんな風に喋ったりしてませんよ。何かあれば引き取ってくれた子爵家、ひいてはクリス様に迷惑がかかっちゃいますからね」

「なら何で俺への態度は改めない」

「え〜、殿下への態度は親しみを込めてるだけですよ。僕が殿下と仲がいいって分かったら、クリス様も少しは警戒を緩めてくれるかもしれないじゃないですか」

「う…………」


 自分のためだと言われれば文句は言えない。

 隣に並んで歩くオスカーの端正な横顔を見た。


「何ですか?」

「意外と、俺のことをちゃんと考えているんだな」

「え、ひどくないですか?このプレゼント選びにもつき合ってあげてるのに」

「お前はもっと俺のことを嫌っていると思っていた」


 オスカーがリカルドの方を向く。いつもの笑顔は消え、冷え冷えとした表情だ。


「───────嫌いですよ」


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