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 1-1.5 少女と黒き影

――


*作者注

 連載時はトーマ視点で進めるためにカットしていたルリ視点のエピソードです。

 初めて読む方は飛ばして読むのがいいかもしれません。


「知ると、後戻りできなくなる道があるのだ」――ウザラ・ノルティン


――


「余計なお世話、なのかな」


 瑠璃は胸が苦しくなって、足を止める。

 息が上がっているせいではない。

 統真との繋がりが切れるのが恐ろしかった。


「梨詩愛――どうすればいいの?」


 原因不明の微熱に悩まされていた幼少期。

 救ってくれたのは梨詩愛だった。

 親代わりであり、姉のようであり、親友でもあった。


 梨詩愛は侍女を自称しているが、自分は貴人ではないから不似合いだと瑠璃は思っている。

 かといって家政婦やお手伝いさんというのとも違う。

 血は繋がっていないが家族のようであり、幼い頃からずっと、瑠璃にとっての味方は両親ではなく梨詩愛だった。


 父は実業家で家は使用人を雇えるほどに裕福である。

 恵まれた環境と人は思うだろうが、ほとんど家から出られない生活は、瑠璃にとっては地獄だった。

 少し外に出かけると熱を出し、寝込んでしまう体質のせいである。


 とはいえ、幼少期の両親は、少しはましだったのかもしれない。

 今よりは身を案じ気遣ってくれていたようだった。

 父はその財力とコネクションを活用し、有名な病院に連れて行ってくれたからである。


 それでも、診察の結果は原因不明だった。

 両親と共に、瑠璃はいくつもの病院で診察を受けた。

 最終的にとある医者の権威が『慢性疲労症候群』という病名を付けてくれた。


 なぜか父は、勝利を得たような嬉しそうな表情をした。

 父にとって病名は重要だったらしい。

 娘が学校を休むのは親の教育や躾の問題ではなく病気だからという、自己を正当化する証が欲しかったのだ。


 治そうと必死になって病院をいくつも回ったという実績によって、子供想いの優しい父親というアピールが出来て満足したのだ。

 母が見せた安堵も、それに類する感情だったのだろう。

 それでも当時の瑠璃は、病気が治ると喜んでくれているのだと思っていた。


 病名が定まると、薬が処方された。

 解熱剤に免疫調整剤、抗ウィルス薬や、向精神薬、あるいは生薬。

 そして、病人という定義づけによって瑠璃の生活は枠に嵌められた。


 毎日朝昼晩に薬を飲まされる生活が始まった。

 結果として、瑠璃にとっての現実は、むしろ悪化した。

 体に合わない薬の影響で胃が荒れ、食べた物を吐き出して苦しみ、瑠璃は弱っていった。


 一方で、不定だった症状が定義され病名という枠に嵌め込まれ、両親は安心したようである。

 原因不明の病気なのに、である。

 両親は、病院巡りをして理由を確かめる執心から解放され、いかにして薬を飲ませるかという手段に熱心になった。


 瑠璃にとっては、新たな苦難の始まりだった。


 薬はもう嫌だと言うとワガママな娘だと思われたのか、父の態度は冷ややかになった。

 父にしてみれば原因不明の病気だから効果があるとされる薬を試すしかなかったのだと、高校生になった瑠璃にはようやく少しだけ心情が理解できる。

 それでも、苦しみに寄り添ってくれず突き放された痛みは消えない。


 薬を飲めば治るとマニュアル通りの答えしか言わない父を、憎みもした。

 薬を飲めば体調が悪くなると訴えても、それに耐えれば治るという根性論を言われては幼い瑠璃に反論は出来なかった。

 それでも瑠璃は頑なに薬を拒否し続けた。


 父は匙を投げ、看病するのは母親の役目だと押し付け、寄りつかなくなった。

 無理に口を開けさせ薬を飲ませるような強硬手段をしなかっただけ、良識的だったのかも知れない。

 それでも「勝手にしなさい」と冷たく突き放された時に感じた孤独は、今も父に会う恐怖となって残っている。


 父に見放された直後にあなたのためにやっているのだと母に諭され、少しは悪いと思った瑠璃は、再度薬を飲む努力をした。

 だが、何度飲んでも体が受け付けず、すぐに吐き出してしまった。

 苛立ちを露わにした母から治したいなら薬を飲めと強迫され、瑠璃は無理矢理口を開けさせようとした母の指を噛んで拒絶した。


 怒った母に頬をはたかれ、瑠璃は泣きながら薬を飲み、また吐いた。

 母は無愛想になり、食事を運んでくるのも使用人になった。

 次第に食欲もなくなった瑠璃は、ベッドから出るのも億劫になった。


 やつれて弱っていく日々、瑠璃は両親が口論する声を聞いていた。

 責任のなすり合いをしていた。

 体力も無くなり、学校へ行かず一日中ベッドで寝かされる日々が続くと、母は看病という名目の介護を放棄して人を雇った。


 責任の放棄というよりは、押し付ける相手を求めたのだ。

 両親が雇った世話役の人が来て、紹介された。

 冷徹な怒りを向けてくる母の顔を見なくて済むと、初めは瑠璃も期待した。


 相応の報酬をもらっていたのだろう世話役の女性は、初めは優しかった。

 話を聞いてもらえると思った瑠璃は縋るように苦しみを訴えた。

 だがその人も、医者が処方した薬を飲めばいいと言うだけだった。


 おそらく、医師の処方通りに薬を飲ませるように厳命されていたのだろう。

 薬を飲ませるために、ジュースやおやつに入れられ、食事に混ぜたりされただけだった。

 瑠璃はその悪巧みを知り、彼女を敵と判断した。


 また苦しくなる薬を飲ませる嫌な奴だと反抗し、自分を守るために暴れた。

 世話役が何人目かになったときには、瑠璃は心を閉ざしていた。

 来る者を無視し持ってくる食事も毒だからと、ほとんど食べなかった。


 何人も来ては去り、最後に雇われたのが梨詩愛だった。


 梨詩愛は若くて美人で、優しかった。

 手を振り回して暴れても、受け止めて抱きしめてくれた。

 梨詩愛の胸に抱かれ、瑠璃は人が温かいというのを少し思い出した。


 喚き叫び暴れても、梨詩愛はすべてを受け止めてくれた。

 初め心を閉ざしていたが、梨詩愛はずっと側に居て話しかけてくれた。

 どういう症状なのか聞いてきたり、梨詩愛自身のことを話してくれたり、優しく手を握ってくれたりしてくれた。


 持って来る食事は初めの頃はスープだけだったが、どうやって作ったかを説明してくれた。

 一緒に食べようとも言ってくれた。

 同じ鍋からよそったスープを一緒に飲むなら毒じゃないと、瑠璃も納得した。


 久しぶりに飲んだスープは、おいしかった。

 次第に瑠璃は、梨詩愛には心を開くようになった。

 幼く拙い言葉で苦しみを必死に伝える言葉を、梨詩愛は辛抱強く聞いてくれた。


 薬を飲みたくないと言えば、両親には飲ませたと報告して、密かに棄ててくれた。

 それが瑠璃にとって一番の驚きだった。

 梨詩愛は、初めから医者が処方した薬には懐疑的であり、立場上飲ませなくてはならない薬をどうするか考えていたのだとこっそりと教えてくれた。


「薬というのも、毒です。毒をもって毒を制すと、昔から言われているくらいに。ですから、過ぎたる薬は猛毒でしかないのです」


 当時は難しくて意味がよく分からなかったが、薬が毒だと知って、すごく納得したのを覚えている。

 以来、梨詩愛は薬を飲ませようとはしなくなった。

 代わりに食事療法と称して、日々口にする物から体質を変えようと提案してくれた。


 梨詩愛は色々な料理を作ってくれた。

 口に合わないと言えば、別の料理に変えてくれた。

 前においしいと言った料理であっても、まずく感じる日があって我慢して食べていると、我慢しなくていいとさえ言ってくれた。


 瑠璃は梨詩愛を慕うようになった。

 他のお手伝いの人が梨詩愛の文句を言えば怒りもした。

 梨詩愛だけが、瑠璃にとっての味方であり、心を許せる相手だった。


 後で知ったことだが、医食同源という言葉があるように、言うなれば漢方薬を飲まされていたのである。

 良薬は口に苦しというのは本当は嘘で、体が欲している薬はおいしく感じるのだという話も、梨詩愛が教えてくれた。

 瑠璃にとって梨詩愛は、自分を守ってくれる唯一の人となった。


 少し体調が良くなってベッドから出られるようになると、庭を散歩しながら梨詩愛とは色々な話をするようになった。


 梨詩愛の実家は、名家の末席にあたるという。

 家柄を守るために、日常の作法は元より、武道や華道、書道、茶道など、瑠璃からしてみれば万能と思えるような技能を身に付けさせられたそうである。

 だが、そんな窮屈さが嫌になり、家を飛び出したのだという。


 異質な経歴を持ち、多くの人とは異なる思考をする。

 端から見れば変人と言われているという。

 瑠璃にしてみれば、不思議な魅力を持つ素敵な女性であり、憧れである。


 そんな梨詩愛だけに、一般社会にはなじめなかったという。

 だからこそ、瑠璃の侍女となることは天職なのだと、梨詩愛が言ってくれた。

 瑠璃はすごくうれしくて、その日は興奮してすぐに眠れなかったのを覚えている。


 瑠璃は梨詩愛が家に来てくれたことで、少しばかりの安らぎを得たのだった。

 もっとも、病状が改善したのではない。

 食事が出来るようになって体力が付き、また合成薬の毒性が抜けて副作用が減ったことで、耐えられるくらいの頭痛と発熱になっただけである。


 梨詩愛の存在によって精神的には安定したが、一人きりで過ごすことや、学校へ行くのは無理だった。

 少し無理をすれば、必ず発熱し動けなくなった。

 学校へ行くのも年に数回でクラスメートの顔さえ覚えていないが、勉強は梨詩愛が教えてくれたので学力では同級生に負けないレベルにあり、それだけが密かな自慢だった。


 転機となったのは、小学三年の夏休みだった。

 梨詩愛が提案し、両親不在ながら気分転換のために山間地の別荘に行くことになった。

 その場所に行った瑠璃は、物心ついてから初めて少し体が楽になるのを実感した。


 梨詩愛が、環境を変えることが瑠璃の病気を治す特効薬だと、父親を説得してくれた。

 こうして瑠璃は、四年生になる四月に、今住む場所である別荘に引っ越した。

 要するに、田舎への移住である。


 そこで出会ったのが、白猫のファロウと統真だった。

 家の庭にファロウが迷い込んで来たのが始まりだった。

 ファロウと共に遊んでいるとき、体が楽になるのを感じた。


 それから統真とも親しくなり、お母さんの形見だというお守りをもらった。

 そのお陰か、瑠璃は日を追う毎に熱っぽさが薄れ、頭痛も感じなくなった。

 少しずつ学校にも行けるようになり、野山を歩き回れるくらいになった。


 統真とファロウと一緒に、小さな冒険もした。

 洞窟探検である。

 そこでの体験が、瑠璃にとっては人生の転機となった。


 梨詩愛の庇護下から抜け出した第一歩でもあった。

 次第に梨詩愛よりも統真とファロウいる方が楽しくなった。

 笑うようになったのも、対等な相手である統真と過ごす時間が増えたからだった。


 翌年には普通の子達と同じように運動ができるようになり、友達もできた。

 お金持ちの子だからとか、病弱な子だから、というように初め遠巻きに見ていたクラスメートとの距離も縮まった。

 ただそれでも、統真は特別だった。


 他の子は他人行儀というか、気を遣っているというか、打算があるというか、どこか心に隔たりを感じていた。

 だから、瑠璃もどこか気を遣ってしまい、息苦しさがあった。

 自分に向けられるクラスメートや教師の視線が、瑠璃の心を束縛していた。


 お金持ちのお嬢様、という固定観念という偏見があると感じていた。

 行儀よく、礼儀正しく、身だしなみもそつなく、勉強もできる、という押しつけのイメージである。

 少しでも周囲が抱くイメージから逸れると、誰かが囁く陰口を聞き、仲良くしていたはずの友達から少し距離を置かれるようになった。


 周囲が想定する枠にはまった範囲でしか認められない言動が、瑠璃の心を縛っていた。

 だから、出会ったときより背が高くなり声が低くるという変化だけで本質が変わらない、統真との関係が心地よかった。

 自分が自分で居られる場所を与えてくれる存在だった。


「だから、なのかな」


 統真の気持ちを考えていなかったことに、瑠璃は気付いた。

 というより、一緒にいて統真も楽しいのだと勝手に思い込んでいたのだ。


 瑠璃は振り返る。


 いつもならすぐに追いかけてくれるはずの統真の姿は無い。

 見えないように付いてきていると思っていた。

 木立に隠れてみるが、少し待っても統真は姿を見せてくれなかった。


「わたし、さよならって言っちゃった。どうしよう。もう統真に会いに来ちゃいけないのかな」


 言葉にすると急に悲しさが心に突き刺さる。

 ふと、涙が溢れた。


「わたしもう、ひとりぼっちなのかな」


 思う程に悲しくなり、息が詰まり、むせぶ。


 そんなのは嫌だ、と心の奥底から叫ぶ声が聞こえる。

 むせびなき泣きながらも瑠璃は考えを巡らせていた。

 どのようにして状況を改善するか、どうすれば関係を修復できるのか。


 目的はこれまで通りかそれ以上に統真と仲良くなることであり、自分がきっかけを作ったとは言え、ただ状況に流されるのは嫌だった。

 本当にそう望むなら、状況を変えるための努力をしなければならないし、そのためにすべきなら足掻かなくてはいけない。

 そう考えると、落ち着いてきた。


「そうだ」


 瑠璃はハンカチで涙を拭うと、再び走りだした。

 斜面を駆け下りて統真の家へと急ぐ。

 統真が帰ってくる前に、家に行っておじさんにお願いして、お昼ご飯の用意をする方法を思いついたのだ。


 今の状態から何もせずに帰ってしまったら、関係を修復する機会はどんどん遠退いていくと、何度考えても結論がそこに至る。

 統真との関係を今日で終わらせたいならそれでもいいが、まだ続けたかった。


 ずる賢いと瑠璃は自分でも思う。

 甘えているとも思う。


 それでも、「さっきはごめんね」と反省を示すのか、「さよならなんて嘘だよ」とおどけるのか決めてはいないが、統真のためにお昼ご飯を作って出すという行為によって、綻びかけた関係を修復しようと考えたのだ。


 言葉尻は厳しかったり素っ気なかったりするけど、本質的には、統真はとても優しい男の子だった。

 疲労や空腹や渇きを限界まで我慢してしまう瑠璃に対して、統真はそれとなく気遣ってくれていた。

 それを恩着せがましく後から言うこともなく、普通でいてくれる優しさがある。


 それが自分だけに向けられた特別なものでなくても、今は構わないと瑠璃は思った。

 だからさっきの冷たい言葉も、第一志望の高校に落ちたショックによるものだから、仕方ないのだと思えた。

 それにこういうときこそ、逆に気遣ってあげるべきなのだと瑠璃には思えてきた。


 だから――。

「わたしは統真を信じる」


 絶対に仲直りできると強く思って、瑠璃は走った。

 統真の家が見えてきた。


「あれ?」

 瑠璃は走る速度を緩める。

 さっきと何かが違っていた。


 家の前に、何台もの黒いワゴン車が駐まっている。

 それだけでなく、おじさんが紙作りをしている工房から、人影が何かを運び出して車に積み込んでいる。

 何かを積み込んだワゴン車が、次々と走り去っていく。


 最後の一台が残った。


「もしかして、泥棒?」

 瑠璃は昼ご飯を作らずに関係修復を図るきっかけになるかもしれないと、微笑んだ。


「よし、捕まえてやる」

 瑠璃は裏手の勝手口に回り込み、勢いよくドアを開ける。


「泥棒! 大人しくしなさい。警察を呼ぶよ」


 中は薄暗かった。

 それでも、雑然としていたいつもの工房が、がらんとしているのが分かる。


「それはつまり、まだ呼んでないと言うことですね、お嬢さん」


 唐突に、目の前に男が現れた。

 全身黒ずくめの男だった。

 黒の帽子に丸レンズのサングラスに、黒のスーツ、右手に持つ杖を突いて立っている。


「え?」


 瑠璃は咄嗟に大きく跳び退いた。

 何かが違うと、本能的に危険を感じた。

 間合いを取って仕切り直しである。


 隙を見て、本当に警察に電話しようと考えた。

 ところが、さっきまで戸口の奥にいたはずの男の姿が消えていた。

 瑠璃は左右を見るが、見当たらない。


「てっきり、息子さんかと思っていましたが、お嬢さんでしたか。まあ、あの男らしい謀りですね」


 真後ろから声が聞こえ、瑠璃は驚きのあまり体が強ばった。

 あり得なかった。

 ドアの前から飛び下がるのに一秒かかったとしても、その間に真後ろまで気付けない程素早く移動する方法が、この世にあるのだろうかと考える。


 統真とファロウに助けてと心の中で叫ぶ。

 梨詩愛を騙して一人で遊びに来たのを悔いた。

 結局、我が儘で無鉄砲で無思慮な行為が、危険を招いたのだと自覚する。


 それでも、統真とファロウなら何かあっても必ず助けてくれると信じているから、少しは気持ちを強く持っていられるのだと瑠璃は気付いた。

 瑠璃の肩に手が乗せられた。

 驚いて振り払おうとするが、体が硬直し自由に動けなかった。


 顔だけ振り向く。

 黒服の男の顔があった。

 サングラス越しにうっすらと見える目は、人の物とは思えなかった。


「丁度いいですね。お嬢さん、ご同行願いましょうか」

 耳元で囁く男の声を聞きながら、瑠璃は意識を失った。

 闇に落ち行く中、瑠璃は統真とファロウを求め、梨詩愛を思った。



**



 倒れそうになる瑠璃を、黒服の男が支える。

「素敵なお嬢さんですね」

 黒服の男は視線を工房の中へと向けた。


「来なさい」


 黒服の男の声に応じるように、工房の中から同様に黒衣の男が三人出てくる。

 黒のローブにフードを被っており、表情は見えない。

 工房の表側では車がエンジンを掛ける音がした。


「次はこの少女です。丁重に運んで下さい。ただし、上です」


 黒服の男は瑠璃の体を後から来た黒衣の一人に預けると、懐から葉書大の紙と筆を出し何やら書き、水平に投じる。

 紙はふわりと飛んで工房の奥の窓に貼り付いた。


「あの男を、素晴らしき世界へ招待しましょう」


 薄ら笑いを浮かべると、黒服の男はぽんと後ろに跳びながら体の向きを変える。

 影のような黒衣の一人が、瑠璃の体を肩に担ぎあげる。


「では参りましょう」


 黒き者達は風に乗り滑るように裏手の登山道へと入っていった――。

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